2004/01/03
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カテゴリ: 国内小説感想
 HI! 深夜に響く救急車のサイレンの音に、モチを喉に詰まらせた人のいる家庭の騒動を夢想するシティボーイのコチさんだ。サーフィンやスノボに乗りまくるマッチョな正月だぜ。違い知らないけど。今年はノリノリな年にしようぜ! 今日感想を書く本は、ダ・ヴィンチ一月号の企画「今年読んだ本ベスト3」で清水良典が『十一月の少女』をあげていた、今最もノリに乗っている森内俊雄の、1988年に出た短編集だ。『十一月の少女』に出てくるのと同じ名前の主人公が活躍するSF風短篇小説なんていう、今まで読んだことのない森内俊雄の作風をかいま見ることが出来た。ちなみにとっくに絶版だから図書館を探そう!


 心に片輪の蟹が一匹、棲んでいる。鋏がひとつ椀げて、そのまま生えてこない哀れな蟹がいる。それでも、あれこれ物思いの糸で生活の綻びを縫い、繕ってきて四十八年が過ぎた。

『口紅』冒頭


 森内俊雄を読み始めたきっかけは本当に偶然で、図書館が書庫に収まりきらない本、貸し出されることのあまりない本を除籍して市民に無償で放出する場で、たまたま福武文庫であり目についた「夢のはじまり」を手にとったからであった。泉鏡花賞受賞者ということではずれはないと何気なく読んだその本の幾つかの短篇に魅了された。が、図書館以外ではあまり手に入らない。地味な作家なので話題になることもないので、発見者気取りでやや過大評価した時もありつつ、読み進めてきた。古井由吉を読んで普段の思考形態が内向的になったり、埴谷雄高を読みつつ、頭の少し上の方で埴谷雄高なんて読んでる自分の姿を見て笑っている自分を作りだしたりしている時に、平明な文章で、救いを受け止める存在が遠巻きに書かれている物語を読むことで癒された。とまとめたいところだったが、古井・埴谷を本格的に読み始める前に森内俊雄と出会っている。日記って便利。
 ちなみに森内俊雄は今でも文芸誌にちょくちょく書いている。誰にも発見されず人気もない作家がここまで長く書き続けることはない。
「短篇の名手」という冠をいくつかの本の帯などで見たが、ちらと見ると、ワインや葉巻などの商品名が頻出していて、「翔ぶ影」など昔の作品集と比べたら、比較的最近のものは少し抵抗があったが、読んでみれば心配するほどではなかった。ただ冒頭を引用した『口紅』などのように、最後に説明し過ぎているものもあったが。


一体、石を茹でて何になる? 仮にそんなことを彼に尋ねてみたとしても、答えられない。石は、石である。ただそれだけの単純明快、堅固な在りようでしかない。枝川は、それが恨めしく、腹立たしく、泣きながら正気のつもりでいて、石を煮ている、と言ってみても誰が承服してくれるだろうか。泣けばいいのだ。おまえは枯れかかった小さな木のように渇いているのだから、涙がおまえをうるおしてくれるだろう、と考えてみる。もうこれで四日も同じことをしていた。大学からの帰り道で石を拾った。持ち帰り、洗って鍋に入れ、煮上がるとアパートの裏庭の土を掘って埋めた。拾った石はひとつきりだったのに二日目には二つに増えている。一日にひとつずつ増える。石は増殖する。石を菜切り庖丁で、さくさくと切り、食べてみたくなるが、もとより切れず、かぶりつくわけにはいかない。枝川公一は、ただ石を煮るばかりだった。

『笑う影』より

 母方の祖母は今回も80年くらい前の、クラス一の優等生であった頃の昔話を始めた。伯父そっくりの顔形のまま写真が飾られている、若い頃に亡くなった祖父についてもいつもと同じ話だ。いつまでも若い夫の姿を心に留め続けていられるというのは、幸せなことなのだろうか。しきりにビスケットとミカンを勧めてくる。そんなにいらないと思いつつも食べ続けた。
 若い主人公ヤとウが活躍するSF二編はあまり良い出来とは言えないが、もう一つのSFもの『地を這うもののごとく』は悪くなかった。良いとまでいかないのは、似たような話はいくつもあるからだ。追放された主人公が最後、乞食をキリストと思いこみ、自分の食料を与え続けて餓死するところも含めて。特別目新しい話ではないが、これを森内俊雄が書いたのかと思うと驚く。
 初夢にイルカが出てきた。今年に合った猿も出てきた。初夢らしく綺麗な夢を見ようとしていた、夢の中で。





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Last updated  2004/10/29 01:01:40 AM
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