2004/01/19
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カテゴリ: 国内小説感想
 表題作が1990年第103回芥川賞受賞作。併録の『犬かけて』がデビュー作。やはり『犬かけて』の方が面白かった。「受賞させた理由」が透けて見えてしまうと冷めてしまう。


 白いくろつぐみというやつは存在しているのだがあまり白いので目にみえないのだ、と深夜サウナのソファベッドで隣りあわせた中年男が濡れた灰の口臭をたててしつこく五円玉の耳にささやきかけた。そして、黒い黒つぐみはその影法師にすぎないのだ。

『犬かけて』冒頭


 行方不明になった弟を捜すためにミシンのセールスマンとなった男、話の本題はそこにあるようでなく、ないようであるようで、妻の過去、弟を捜すと言って全国を遊び歩いた昔話、徐々に現実からずれていく様が面白い。比べて表題作の方は最初から現実からややずれた村(中国の桃源郷)へ入って行き、幻想の世界が展開されるかと思いきや、金の欲しい中国人の姿が描かれ、夢は崩れ去る。文章の調子も描写の仕方も、大胆で粗い『犬かけて』抑えて丁寧な表題作、私には後者が面白いとは思えなかった。


 行った先々の町でトオルらしき影のかけらやほのめかしが必ずみつかった。須賀川から父親と乗ってきた斜めむこうの座席の少年は十分の一秒の間ならすかりトオルの姿になりきった。真室川駅の出札係の情報は確実に思えた。話すうちに十年ももっと前のことだと分かった。それでも年老いた出札係は五円玉にむかって、あれは弟さんにちがいないと断言した。岩泉線のとある各駅停車の小駅の昼下り、枕木の柵にそってピンクや白のコスモスがいっせいに咲き乱れているそのむこうで郵便配達夫が自転車に乗ったまま少女に手紙を手渡している。あれはトオルからの手紙ではないだろうか。

『犬かけて』より


 時間を置くと、読んだ当初は面白いと思ったものでも、評価が一変していることがある。大抵は悪い方に。今回は珍しく、『犬かけて』はとても面白かったんだと思えた。表題作の方については語りたくなるような思いもないが。





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Last updated  2004/10/29 12:54:19 AM
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