2004/10/11
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 散文の読み方を忘れそうなのに、散文の書き方を忘れそうなのに、俳句ばかり読み続けていると散文ばかりが頭を巡り、それなのに表に出てくるのは五七五ばかり。これはいけないと、俳句断ちも考えた。適度に付き合う術も知らないと身が持たない。リハビリに選んだエッセイが古井由吉「魂の日」なのは多いに間違ってる気がする。

「俳句専念」金子兜太 ちくま新書 1999年

「わが俳句人生/茂吉と中也/私の履歴書」。中也が意外。詩はともかく、俳人が小説の話をするのはあまり読まない。長くて虚構で定型じゃない、ということで影響を受けにくいのだろうか。虚子の「去年今年貫く棒の如きもの」の棒の意味が分からなかったのが、「元日や餅でおしだす去年糞」(金子伊昔紅)と並べられて、ようやく気付いた。うんこだ。
 昔秩父の山奥では女性も庭の肥溜めに立ち小便するのが普通だった話、昔秩父の山奥ではおじいさんが孫をあやすのに自分のちんぽこをいじらせた話、斉藤茂吉が天皇に「この和歌の意味は、男の誘いに対して、女は嫌な気持ちではないのだけれど、月のものが来たので仕方ない、ということです」と説明した話、など。西東三鬼と旅館に泊まったら、夜中三鬼の上で女の影が揺れていた、というのは別の本だったか。
 真面目な俳句の本。

「篠原鳳作」宇喜多喜代子 編・著 蝸牛俳句文庫 1997年

 どんな人か忘れてた。後に政府から弾圧を受ける新興俳句運動の萌芽時代、僅かな年数活躍した人。30歳で若くして死去。「感覚的な句ならいくらでもできるが其だけでは満足できず、むしろ、いやになりました」この壁を最近はあまり悩まないことにした。感覚的な句は自分から離れるのが早くて客観的評価を下しやすい。経験的なものと感覚的なものの交わる一点から生まれる句がいつも出来ればいいが、そうはいかない。

向日葵に吐き出されたる坑夫かな
氷上へひびくばかりのピアノ弾く
雪の夜はピアノ鳴りいずおのづから


「雪の夜は~」を見て思い出すのは八木重吉の「素朴な琴」

この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかね(て)
琴はしずかに鳴りいだすだろう


「高野素十」 倉田紘文 編・著 蝸牛俳句文庫 1997年

 虚子門下4Sの一人。「俳句とは写生、写生、写生あるのみ」という人。虚子一派の俳句の規定の仕方は好きじゃないが、句は別。自分で作る場合は写生だけでは満足出来ないが、読む分には反感なく読める。素十ほど突き詰めた人なら、こういうものも詠んでみたいと思う。弟子になるのはまっぴらごめんだが。

打水や萩より落ちし子かまきり
翅(はね)わつててんたう虫の飛びいづる
たべ飽きてとんとん歩く鴉の子
端居してたゝ゛いる父の恐ろしき
かたまりて通る霧あり霧の中


「現代俳句集成 第十四巻」河出書房新社 1982年

 昭和43~47年に出た句集の中から優れたものを選んだもの。全集のうちの一巻。編集委員は山本謙吉・森澄雄・草間時彦・飯田龍太。俳人12人の句集が丸ごと収められてるから、この一冊だけで何千句も収録されている。時間をかけて読むもの。買い揃えておいて一生付き合う種のものだろう。
 そこを無茶して速いペースで読んだ。全体のレベルが高いので思ったより気力を使っている、きっと目に見えない形でいろいろなものを吸い取られた。最後に残しておいた水原秋櫻子だけ途中で諦めた。余計な期待をしていた。
 一人一人について何か書く気力もない。読んでから長く経った。

富安風生「傘寿以後」より
寒菊の臙脂は海の紺に勝つ

清崎敏郎「島人」より
一水を北風(きた)吹きくぼめ吹きくぼめ
ふぐりまで日焼け日焼けて島の子は


渡辺白泉「渡辺白泉句集」より
街燈は夜霧にぬれるためにある
あゝ小春我等涎し涙して
赤く青く黄いろく黒く戦死せり
稲無限不意に涙の堰を切る


三谷昭「獣身」より
喇叭鳴り喇叭高まり死は遠く
寂しきは颱風の眼を翔べるもの
奴隷の目もて父をみる父もみる


鷲谷七菜子「銃身」より
ひびく瀬や枯れゆくものはみな光り

森澄雄「花眼」より
麦秋の子がちんぼこを可愛がる

石田波郷「酒中花以後」より
 選集を読んだ時には「切れ字の人」程度の印象だったが、死病の床で詠まれたものを集め、死後出版された「酒中花以後」の諸句は読んでいて涙が出た。一つの物語として読むことも可能なのに、ただ漠然と並べられただけの句集が多い。よくいつまでも一句の完結性に拘っていられるものだ、俳人という人たちは。
万愚節昼の酸素の味わるし
骨つかみ看護婦裸拭きくるる
走馬燈看護婦呼びて灯を入るる
走馬燈女かなしく踊りつぐ
白桃を啜りすすりぬ尊くて
今生は病む生なりき烏頭


右城墓石「上下」より
我が蒔きし種をむざんに蟻運ぶ
対岸の蛍に見せて煙草吸ふ
仮死の蜘蛛こらへ切れずに歩き出す


福田蓼汀「秋風挽歌」より
毛蟹喰ふ生涯かけし詩は無残
天高しすがるべきもの何もなし


平畑静塔「栃木集」より
枯野にて子守自分に唄ひだす
君を訃の村空鑵に梅を活け
東海に播きたき麦を丘にまく


香西照雄「素志」より
梅雨の蝶破れかぶれとなりにけり
蜩が呼び出せし闇妻遠し



「現代俳句集成 第十五巻」河出書房新社 1981年

 昭和47~50年の間に出た句集の中から優れたものを丸ごと収録。13人。角川源義のみ読み通せず。編集委員は山本謙吉・森澄雄・草間時彦・飯田龍太。一冊に数千句が収められている。一句毎の平均レベルが高いので、何気なく読み進めていても知らぬ間に何かを根こそぎ持ってかれてるような疲労感を覚える。ぼつぼつと読み進める方が良いもの。買い揃えたならそれだけで一生飽きないかもしれない。
 一人一人について書く事があれば頑張って書く。おそらく書けない。

松村蒼石「雪」より
残雪を影絵のごとく雉子棲めり
こゑあげて山埋めよと楢落葉


岸田稚魚「筍流し」より
雷近づきつつある石の姿なり
夕凪や独語ひとつに砂うごく


森澄雄「浮鴎」より
紅葉の中杉は言ひたき青をもつ
蚯蚓鳴く顔して山のひとり姥


沢木欣一「地声」より
火事のごと紅葉を描く戦後の子
からからのひとでを拾ひ三鬼亡し
炎天に刻問う老婆執拗に


三橋敏雄「真神」より
撫で殺す何をはじめの野分かな
噛みふくむ水は血よりも寂しけれ
花火嗅ぎ父を嗅ぎ勝つ今夜かな


百合山羽公「寒雁」より
鵙を追ふ鵙や青天井に飽き
土を出てすぐ毒虫の名を負へる
盗むもの天にも求め稲雀


石川桂郎「高蘆」より
暖冬や仔犬怯ゆるけもの道
橇馬の耳の動きに吹雪泣


富安風生「年の花」より
秋の湖人を呑まむと没(かく)れをり
向日葵は火祭の炎(ひ)に顔あげず
見られつつ蟹の鋏がパンむしる
緋牡丹のがばと伏したる咲き疲れ
林檎抱き一猿何を淋しめる


後藤比奈夫「金泥」より
原爆に石は涼しく抗ひし
雪蓑の藁のどこからでも出る手
枯芝を踏まねばならぬ如く踏む
昼顔といふ生き生きとせざる名よ
鶴の来るために大空あけて待つ


村越化石「山國抄」より
探息し自ら冬を近づけぬ
探り食ふ柿の重みの夜の底
一度跳ねわが寝を待てる竃馬


草間時彦「桜山」より
顔入れて顔ずたずたや青芒

飯田龍太「山の木」より
魚はみな風を好まず竹煮草
夕映えの淵おそろしやかたつむり


 解説では親切に師系が示されている。桂郎・稚魚・時彦が石田波郷系、澄雄・欣一が加藤楸邨系、蒼石・龍太が飯田蛇忽系、風生が高濱虚子系、羽公が水原秋櫻子系、比奈夫が後藤夜半系、源義が金尾梅の門系、敏雄が西東三鬼系、化石が大野林火系とある。こうしてみるとやはり加藤楸邨系が好みで、蛇忽は蛇忽だけが好き、三鬼と敏雄は愛せると分かる。掲出句だけ見ればどれも優れているのだが、まとめてとなるとまた違う。

「現代俳句集成 第十七巻」河出書房新社 1982年

 昭和生まれの、比較的若い(当時)は俳人たちの優れた句集を集めた一冊。編集委員は山本謙吉・森澄雄・草間時彦・飯田龍太。一冊に何千句もあるのだから、読み進めていると時々意識を失う。一句一句に立ち止まっていては身が崩れるので良句を読み逃さぬ程度に軽く読んでいても時々意識を失う。何を見ても五七五に区切って読んでしまうようになり意識を失ふ。
 いや、これはまだ読んでる途中。

「三橋敏雄」春陽堂俳句文庫 1992年

 1920年生まれ、西東三鬼の弟子。句作開始年齢が15歳と若い。17歳の時に渡辺白泉に出会う。18歳の頃白泉に連れられて西東三鬼に引き合わされ「君はこれの弟子になれ」と押し付けられる。新興俳句運動弾圧時は若さゆえ放免されている。好き。


家枯れて北へ傾ぐを如何にせむ
屋根に来て蒸気機関車泣き滅ぶ
戦前を鼠花火はくるしめり
暗闇を殴りつつ行く五月かな
地(つち)はもと天なり秋の蝉の穴
十七字みな伏字なれ暮の春
いとけなきふるちんの朝夏休


 全部伏字にして何詠むつもりだったのか。2001年12月1日逝去。享年81。

 西東三鬼、種田山頭火の句集も読んでいるのだが、また次。





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Last updated  2004/10/12 01:34:48 AM
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