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小五郎3

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Mar 26, 2012
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カテゴリ: カテゴリ未分類
前回は『愛してる』という言葉自体にスポットを当てましたが、
今回はもう少し広い範囲の『話すこと』『想いを伝えること』がテーマです。


以下、小説「パロール」の一節より。

『別れましょう、と亜希子が切り出した時も、野口は黙りこんだ。
どうなの、別れたほうがいいと思わない?と畳みかけてみた。
軽く笑顔さえ作った。それでも彼は黙っていた。

「相変わらずね」と亜希子は笑顔を凍りつかせたまま言った。
「都合が悪くなると黙り込むんだわ。あなたはいつだってそうだった」
「別に都合が悪いだなんて、思ってないよ。ただ・・・・」
「ただ、何なの」
「・・・・うまく言えない。こんな時に・・・・別れるだのなんなの、
って話になってるときに、そんなにすらすら、喋ることなんかできないよ」

ふだんは饒舌(じょうぜつ)な男だった。
くだらないこと、どうでもいいこと、人の受けを狙って口にする
冗談のたぐいなら、朝まででも喋っていたがるところがあった。
それなのに、ひとたび自分の内面を相手に伝えようとしなければならなくなると、
言葉が途切れた』

~中略~

『頭の悪い男であるはずはなかった。教養も学歴もある。
現実に起こった出来事について語らせると、その知識の深さに
驚かされることもあった。
だが、心情的な話になった途端、野口は幼稚園児さながらに
未熟になった。
質問されたことに答えられない。言葉を濁す。しまいにはふてくされて、
こんな話やめようよ、と言い出す』


講談社文庫 「夏の吐息」 小池真理子著 より引用


・・・・・・・・・・・・・・・・


中国古典の論語に『巧言令色、鮮し仁』(こうげんれいしょく、すくなしじん)という言葉があります。

意味は・・・

『口先だけでうまいことを言ったり、うわべだけ愛想よくとりつくろったりする人間は、他人に対する仁(情)の心、優しさに欠けている』


いかがですか?
読者の皆さんも「ああ~いるいる~」と、首を縦に振っておられるのでは?(笑)


再び、ちょっと長くなりますが「パロール」からの一節を紹介します。

例の居酒屋で、亜希子と古賀がはじめて「まともに会話を始める」シーンです。


以下・・・本編より

『何を話せばいいのか、わからなくなった。
中規模の編集プロダクションに勤めている亜希子と、夏の間だけ立山に出稼ぎに行っている男とでは話題の接点がなさそうだった。
第一、古賀のことは職業と年齢以外、何も知らなかった。

時江(亜希子の叔母)が「はいよ」と言って差し出してきたししやもを亜希子が齧(かじ)っていると、古賀はおもむろに立山での砂防工事の話を始めた。現場の近くの、男たちが夏の間生活を共にする山小屋の近くに、温泉があるのだという。

「何年か前に、自分たちで露天風呂、作ったんですよ。仕事の合間に山奥から温泉ひっぱってきて、岩を組んでセメントで固めてね。
傍(そば)に簡単な脱衣所も作って・・・・なにしろ、やせても枯れても、その道のプロばっかり集まってるわけですからね。自慢したくなるくらい、なかなかの出来ばえになって、テレビが撮影に来たこともあるくらいなんです」
「へえ、テレビが?」
「秘境の温泉特集、っていう番組でね」
「でも、そこはふつうの人は行けないんでしょう?」
「無理無理、僕たちだけしか入れない。秘境どころの騒ぎじゃないような山奥ですからね。昼の間の仕事を終えて、夜になったら食事の後で、満天の星、眺めながら風呂に入るんです。
湯の音しか聞こえない。天国です。僕なんかは、温泉につかるのが楽しみで立山に行ってるみたいなもんだな」
「動物も来るんですか」
「実際に来たのを見たことはないけど、気配はよく感じる。
大きな動物らしいこともある」
「大きな・・・・って、熊?」
「どうかな。カモシカかもしれない」
「猿は?」
「秋になって僕たちが現場を引き上げた後、入ってるらしいですよ」
「温泉に?」
「そう、頭に手拭いのっけて」

亜希子はくすくす笑った。古賀も笑った。
優しい会話だ、と亜希子は思った。
つい二週間ほど前、自分の部屋で野口と交わした刺々(とげとげ)しい会話も会話なら、これもまた、会話なのだった。
不思議な気持ちにかられた。

「こういう話、いいですね」
亜希子はしみじみと言った。
「こういう話聞くと、なんだか心が洗われます」』


・・・・・・・・・・・・・・・


おそらく、野口の話というのは学生時代の教科書、新聞・雑誌・書籍・TVなどのメディアから仕入れた内容だろうと想像できます。

野口の口から発せられる言葉には独自性もなく、魂もこもっていない。
まさに「膨大な記憶と口先だけ」で伝えてるに過ぎないのでしょう。

一方・・・

古賀の言葉の背景には、彼自身を通した風景が見えます。
別に気取った言葉を使っているわけではなく、自分の経験と、その時感じた心の動きをとつとつと語っているだけ。

でも、そんな人間味のある言葉が、会話が、亜希子の心に優しく染み渡る。

小説だとわかっていても、なんか心が温まるのを感じる一節です。
もちろん、小池さんの文章力が優れているのは言うまでもありませんが。


・・・・・・・・・・・・・・・・


もう20年くらい前ですが、某広告代理店の方と話した内容を思い出しました。


ある国産の自動車メーカー(仮に、R自動車とします)の担当だった彼は、新入社員の採用面接に立ち会った時のことを話してくれました。

R社の面接官が『入社の志望動機は?』と聞くと、
ほとんどの学生は・・・
「御社は売上高○兆円を誇る世界的大企業であり、企業理念である○○にも深く共感し、また社員に対する福利厚生施設も充実しており・・・」

まるで会社案内のパンフレットに書いてあるような文章の丸暗記(笑)


当時は『就活』という言葉はまだありませんでした。
でも、いわゆる『面接マニュアル』的な本が出回り始めた時期かな?
と記憶しています。


そんな中でユニークな学生がひとり。

彼はまるで面接官に話しかけるように、切り出したそうです。

小学校低学年の時に、R社の新車が家にやってきたこと。
ドアの閉まる、重みのある音に驚いたこと。
新しい布のシートの肌触りに感激したこと。
室内の薄いビニールを破ろうとしたら、父親に
「しばらくそのままにしておきなさい」と言われて意味が分からなかったこと。
走り出した車の中から見えた街の風景。などなど。

ちょうどその学生の父親と同世代だった面接官は、目を細め、楽しそうに話を聞いていたそうです。

そして最後にその学生は・・・
『R自動車で働くことは、小さい頃からの夢でした。
あのとき私が感じたワクワクした気持ちを、今度は私が伝えていきたい・・・
よろしくお願いします!』


この話を聞いたときに思いました。
想いを伝えるとは、形ではない。知識でもない。
心から湧き上がってくる感情を、いかに相手と共有できるか・・・だと。


・・・・・・・・・・・・・・・


『言葉のキャッチボール』とよく言いますが、僕はちょっと違う気がします。


前述した、面接官と学生の間には、見えない車の姿があり、その車を中心として、コミュニケーションの空間ができている。

そういう気がします。

恋人同士でレストランに行き、彼女のために奮発してローストチキンを注文。

一口食べた彼女は感激して、さかんに味や盛りつけの感想を言いたがる。

男の方はそれを聴きながら、満足そうに自分も口に運ぶ。


そこにはローストチキンを中心に大きなシャボン玉ができて、二人のテーブルは、そのなかにすっぽりと収まる。

おたがいの言葉や笑い声がシャボンの中でちいさく跳ね返り、二人だけの空間の中で・・・静かに時間が過ぎてゆく。


「言葉のキャッチボール」というと、なんとなく直線的で、言葉の応酬のようなイメージがあります。


「シャボン玉」という表現は以前にも使ったことがあったかもしれませんが・・・

会話があり、沈黙もあり、表情だけで分かり合える瞬間もあり、そう考えると、やはりそこにあるのは「丸みのある空間」って感じますね。


ん~そういうのが理想かな・・・?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


なんちて~


今回はボケもシモもない真面目な内容でした。



てゆうか、それが普通だからね!(笑)





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Last updated  Mar 26, 2012 10:45:08 PM
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チビカ @ Re:ポチャっているのに胸のちいさな女性(05/22) 小五郎ちゃん、お久しぶりです♪ 父が昔言…
小五郎3 @ Re[1]:優しい女と優しそうな女(02/13) チビカさん、毎度ありがとうございます! …
チビカ @ Re:優しい女と優しそうな女(02/13) 結婚とは、相手の汚い部分も好きにならな…
小五郎3 @ Re[1]:優しい女と優しそうな女(02/02) まっちゃんさん、ありがと~♪ いやあ~ま…
小五郎3 @ Re[3]:優しい女と優しそうな女(02/02) チビカさん、うんうん、わかってるよ(笑…

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