February 12, 2016
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その日

まだ、札幌でふらふらしている頃の話でありますが、大学を規定よりも数年早く勝手に卒業した私は様々なバイトで生計を立てていました。

とはいえ、この頃はバイトといっても、不定期なものであり、2、3日働いては1週間遊んで暮らすのが常で有ったので、この頃の主食は乾麺が精一杯、少々お金に余裕がある時には鍋に生卵を放り込むくらいで贅沢感を味わえるくらいの貧乏生活を送っていたのです。

しかしながら1週間ほど2トントラック配送のバイトをして現金を手にしたりすると、今日ぐらいは美味い物を食べても良いよなぁ~と、バイト帰りの地下鉄の中で色々な美味い物を想像したものです。

この日が その日 でした。

「純連のラーメン…いや、みよしの餃子…まてよ、やっぱりこれだよ、肉!」

少しだけでも懐が暖かい時には「玉藤のかつ丼」結局はこれしかありませんでした。

だったら、何も迷わなくたって良いだろう?と、思うかもしれませんが、今思えば、その迷う行為そのものが楽しかったのでしょう。

ですから、 その日 はどうしても「玉藤のかつ丼」が食べたかったのです。

その頃札幌には、セイコーマートのホットシェフも、ほっともっと亭もありませんでしたので、私がかつ丼を食べるとしたら、値段もそれなりで、味も好みであった札幌市内に多くの店舗を構えていた「玉藤」でした。

汚い作業着のままいつもの平岸の玉藤に行ったところ…「本日は休業します。」

なんと休業…なにもかつ丼は玉藤にしかないわけではありませんが、どうしても玉藤のかつ丼が食べたかったので、再度地下鉄に乗って真駒内の玉藤へ向かいました。

玉藤真駒内店に到着すると…

「従業員研修のため本日はお休みします。」

これは…もしかしたら…玉藤全店が休業???

再度地下鉄に乗っ大通り店を直撃しました。すでに地下鉄代金で「みよしの餃子大盛」は食べられましたが、執着心の塊になった私にはそんな事はすでにどうでも良い事にしか思えなくなっていたのです。

「従業員研修のため本日はお休みします。」

玉藤のかつ丼が食べられないことが確定したそのとたんに、ただ「休業」とだけ書いた紙を貼ってあった最初に訪れた「平岸店」に対しての憎悪が、私の身体を地面から浮き上がらせる寸前まで膨らんでおり、血走った目でしばらくその紙を睨み付けていました。

しかし、道行く人々が、休業の玉藤の前で突っ立っている私を不思議そうに見つめている事に気が付いた私は、やっと自分のアホさ加減に気が付いて、大通り近辺の美味しそうなかつ丼がありそうな食堂を探してぶらぶらと力なく歩き始めました。

札幌駅方面にしばらく歩き、狸小路に入ると「場外馬券売り場」が私の視界に入って来ました。

この日場外馬券売り場に入った私は、結局かつ丼を食べることは出来ずに、薄暗くなった平岸の「えぞ松荘」の6畳一間で、いつものようにホンコンヤキソバを食べる事になってしまったのでした。ええもちろん卵は抜きです。

あれから、一度も「玉藤」に入店したことはありません

今でも、家族や、友人知人と、和食や、蕎麦屋に入ると、刺身定食や天丼などと迷いながらも、結局最後は「かつ丼」を注文してしまうのは、この時のトラウマがあるのだろうと思っています。


ですから、もう 「その日」 が、私にやってくる事はありません







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Last updated  February 12, 2016 12:35:47 PM


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