[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2015.12.11
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カテゴリ: 映画
小津安二郎監督の代表作を、主演女優の原節子が亡くなったのを機にようやく観た。
(小津作品を観る事自体が、そもそも初めてだ)

本当は、随分前に録画してあった山田洋次監督の【東京家族】と合わせて感想を書くつもりだったのだが、相変わらず文章が上手くまとまらず、諦めて長文にした。
(せめて、駄文になっていない事を祈るばかりだ…笑)
加えて【東京家族】はリメイク(もしくはオマージュ?)作品らしいが、彼が【東京物語】に匹敵する映画を撮れるとは到底思えず(失礼…)、観るのは今度でも良いだろうと判断した。


【東京物語】…満足度★★★★★


最初はそのゆったりした台詞回しに違和感を覚え、正直「古臭い」とすら思ってしまったが、物語が進むにつれて、それが全くの誤解である事に気付き反省した。
そう、確かにこれは不朽の名作だ。

特に、さりげない描写や何気ない台詞の中に潜む、小津監督の鋭い人間観察眼と人生に対する深い洞察力には鳥肌が立った。
更に、それを市井(しせい)の日常に淡々と、しかし克明に描き込む才能には、ただただ驚嘆するほかない。

そんな小津監督が人間に向ける眼差しは、表面上は穏やかに見えても、実は決して甘くない。
時に辛辣ですらある。
人生の不条理、人間の理不尽さが骨身に染みているからなのか、そしてそれは先の戦争体験に起因しているのか…。
感情の抑揚が少ないだけに、却って一つひとつの言葉がより生々しく迫って来る。
僕などは、表現方法こそ違えど、黒澤明監督と同等の「狂気」にも似た凄みを感じて、身震いしてしまった。

また、個人的には「進んで行く時間=現在=生」に暮らす子供達と、「止まった時間=過去=死」を見つめる周吉(笠智衆)および紀子(原節子)との対比のさせ方が印象深かった。
(周吉が紀子に手渡す形見の品も、それを象徴している)
過ぎ行く時間の残酷さを身に沁みながら、「生と死」「過去と未来」「記憶と忘却」の狭間で葛藤する心情を吐露した紀子に対し、「時間を進めなさい=生きなさい」と静かに諭す周吉が、最後にたった独りで黙ったまま部屋に残される姿は、何とも形容し難い悲哀に満ちている。
(それは、2人の別離をも意味している)
しかし、同時に、その光景がとても美しく感じられるから不思議だ。

これまで「素晴らしい」映画は幾つも観てきた。
「感動的な」映画にもたくさん出会ってきた。
しかし、ここまで「完璧な」映画には出会った記憶が無い。

2012年に、イギリス映画協会(BFI)が発行する雑誌【サイト&サウンド】が行った、世界の映画監督358人が選ぶ「映画史上最も優れた作品」で、この【東京物語】が見事1位に輝いたと言うが、それも頷ける。
映画をより深い部分で理解できる年齢になってから、この作品を観られた事を嬉しく思う。





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Last updated  2016.06.14 22:05:02
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