>これだけのものと向き合ったあと、「次に長谷川等伯「松林図屏風」を見に上野の東京国立博物館へ」とは。精神がタフですね。私ならもうくたくたでしょう。

そう、ほんとはいい美術展を見るのは1日1つだけにして、
じっくり余韻に浸りたいところなのですが、今回は欲張って2つ回りました。
確かに私もかなり元気なときでないと、やれません・・・
(2007.01.18 12:09:47)

Atelier Mashenka

Atelier Mashenka

2007.01.08
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カテゴリ: アート
「ギメ東洋美術館浮世絵名品展」を見に、原宿の太田記念美術館へ初めて行った。

"世界初公開!新発見 北斎の「龍虎」100年ぶりに出会う"とちらしにあるが、
パリのギメ東洋美術館所蔵の「龍図」と太田記念美術館所蔵の「虎図」、
最近の調査の過程で、この2作品が双幅であることが発見されたとのこと。

この2つが同じ表装であることに気づき、発見に至らしめた日本人スタッフは
さぞ背筋がびびっとくるほど衝撃を受けたことだろう。
確かにすごい発見だ。





小規模な館内でも、この「龍虎図」を含め4点はお座敷に展示されていて、
靴をぬいで正座してゆっくりと対座することができる。

葛飾北斎「龍図」、龍はなぜか哀しいような青い目をしていて、
人間くさい表情をしている。
虎は龍を見上げているけれど、龍は虚空を見つめているようだ。
群青をはらんだ墨の黒雲が、離れて見るとはっとするほど青光りして印象的。


葛飾北斎「虎図(雨中の虎)」、こちらは龍図と対照的に
虎の毛の明るい茶のグラデーション、足元のつたのようなの葉の赤と緑など
色彩が明るく鮮やか。
虎も龍同様、なぜか青い目をしていて、不思議な印象を覚える。

爪は鋭くむきだしになっており、龍に向かって吠えているにも関わらず、
まぶたの縞模様がまるで長いくるんとしたまつげのようで、
目の表情が、ワニの目か少女マンガのようにキュートに見えてしまう。
・・・こんなふうに見えるのは私だけだろうか?(-.-;)



歌川広重の「隅田川月景」、この作品が素晴らしく良くて、何度も戻って見た。

近景に小さな屋形船、中景は川に打たれた細い杭がリズミカルに並び、
画面両脇へ行くほど淡く消えてゆく。
中遠景の杜の木々のシルエット。それらも杭と同様、画面両脇へ行くほど淡くなっていて、
中央のくっきりしたシルエットは、
朦朧と淡く消えゆく意識を現実に引き戻しているような感じがする。
空には淡い淡い月の輪郭。

水墨で描かれた幽玄の世界。かすかな水音さえ聞こえてきそう。

何回か見て落款が中央下に押してあることに気づいた。
こんな位置に押した落款は初めて見た気がする。珍しいのではないだろうか。

通常日本画と言えば、非対称で余白を生かした構図が多いけれど、
この作品は、珍しく縦中央に月、木の濃いシルエット、杭、屋形船、と
焦点が当たっていて、それゆえより吸引力が強く感じられるのかもしれない。

広重の風景画の版画は前から好きだったけれど、
こんな素晴らしい肉筆画に出会えて、嬉しい。
呆然とお座敷に座り込んで淡い世界に浸った。






東洲斎写楽の役者の大首絵をいくつか見ることができて、よかった。
印刷物では馴染み深くても、まだ実物を見たことがなかった。
大胆な着物の輪郭線と裏腹に、鬢や鼻、指先の思いがけず繊細なラインに
舌を巻く思いで見入る。
版画とは思えぬほどの繊細さ。

背景の黒雲母は肌の白さを浮き立たせ、
鼻や鬢などの極細のラインは、太いラインによって縁取りされた目や、眉や口元の
諧謔味あふれた表情をシンプルに際立たせている。

写楽の版画を見ていて、1枚1枚そのものが舞台であるかのように感じた。
暗幕に、白い舞台、小道具によって際立つ主役は目や眉、口の表情、といった具合に。
見ていて飽きない、面白い作品群だ。



喜多川歌麿「風俗浮世八景 閨中ノ夜雨」、歌麿は特に好きではないけれど
たまにいいな、と思う美人画に会えるときがある。
この遊女は艶っぽくていい。
うなじ、帯を解こうとする手のしぐさ、うつむきかげんの姿勢。
帯は結んでいるところかもしれないが、それなら多分手のひらが内向きになると思うから
やっぱり解くところだろうなあ。



葛飾北斎「千絵の海 総州銚子」も、よかった。



爽快感あふれる、藍から水色へのグラデーションと、波しぶきの白。
生き物のようにどよめく波と波しぶきの造形は、やはり北斎ならでは。



この日はNHKの取材が来ていて、作品や来場者に対してカメラが回っていた。
何の番組とかの説明はなかったけど、
もしも日曜美術館などで、来場者の中に自分の姿がちらっと映りでもしたら、
こっそりほくそ笑むことにしよう。



他にもたくさんの興味深い浮世絵が出品されていて、展示替えもあるので、
後期も見に行きたいなあ。
「ギメ東洋美術館浮世絵名品展」は原宿の太田記念美術館にて
2007年1月3日から2月25日まで。


このあとせっかくなのでラフォーレや竹下通りをぶらぶらして
次に長谷川等伯「松林図屏風」を見に上野の東京国立博物館へ向かった。





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Last updated  2017.02.16 13:30:45
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Re:浮世絵に酔う!「ギメ東洋美術館浮世絵名品展」@太田記念美術館(01/08)  
LISA☆  さん
うわぁ~
北斎のお竜様と虎。すごいなぁ…
正座してゆっくり対峙できるってため息ものですね。
和モノ大好きな私。浮世絵なら鈴木春信が好きかなぁ。
チビとの日常の中、ここで美術鑑賞させていただいて感謝しています。
潤いのひとときです・笑 (2007.01.15 00:57:05)

ギメ  
はろるど さん
こんばんは。早速のTBをありがとうございました。

畳の上での北斎は見応え十分でしたよね。
正座して背筋を伸ばして拝見すると、
またいつもの美術館とは違った、
凛とした気持ちになることが出来ます。

写楽の作品の状態が良いのにも驚かされました。
ギメの浮世絵コレクションの質の高さを思わせるものがあります。

日曜美術館で取り上げられるのが楽しみです。(?) (2007.01.15 02:05:25)

Re:浮世絵に酔う!「ギメ東洋美術館浮世絵名品展」@太田記念美術館(01/08)  
一村雨  さん
虎の絵の雨、龍が降らせていたのですね。
そんな関係もあったのだと、今気づきました。
私も虎の目が艶かしく、キュートに見えましたよ。

三井記念美術館の応挙の国宝「雪松図屏風」も
お勧めです。
(2007.01.15 05:21:27)

Re:浮世絵に酔う!「ギメ東洋美術館浮世絵名品展」@太田記念美術館(01/08)  
カナダ村  さん
これだけのものと向き合ったあと、「次に長谷川等伯「松林図屏風」を見に上野の東京国立博物館へ」とは。精神がタフですね。私ならもうくたくたでしょう。 (2007.01.17 02:37:33)

LISA☆さん  
mashenka  さん
>北斎のお竜様と虎。すごいなぁ…
>正座してゆっくり対峙できるってため息ものですね。
>和モノ大好きな私。浮世絵なら鈴木春信が好きかなぁ。

お座敷で見るのは、立ってみるのとまた違った良さがありますね。
LISAさんは春信がお好きなんですか~、やわらかな丸顔の男女の浮世絵ですね。

>チビとの日常の中、ここで美術鑑賞させていただいて感謝しています。
>潤いのひとときです・笑

そんなふうに言っていただけて嬉しいです(^-^)
そのうち親子で美術館へ行ける日が来ると楽しいでしょうね!
(2007.01.18 10:54:39)

はろるどさん  
mashenka  さん
>こんばんは。早速のTBをありがとうございました。

今回もTBさせていただきました。いつもありがとうございます!

>畳の上での北斎は見応え十分でしたよね。
>正座して背筋を伸ばして拝見すると、
>またいつもの美術館とは違った、
>凛とした気持ちになることが出来ます。

そうですね、本当にじっくり向き合えますし、
贅沢な特別な気持ちを味わえました。

>写楽の作品の状態が良いのにも驚かされました。
>ギメの浮世絵コレクションの質の高さを思わせるものがあります。

写楽もお恥ずかしながら、初めて実物を見たのですが、とてもよかったです!
これらは氷山の一角で、浮世絵の佳品が海外に多くあることを改めて実感しました。

>日曜美術館で取り上げられるのが楽しみです。(?)

次回、21日がギメの特集のようですね。こっそり見ます(^^)
(2007.01.18 11:07:22)

一村雨さん  
mashenka  さん
>虎の絵の雨、龍が降らせていたのですね。
>そんな関係もあったのだと、今気づきました。

それは私も気づきませんでした。そうか~~!
なぜ"雨中の虎"なのか、100年ぶりにその事実も今回明かされたのかもしれませんね。

>私も虎の目が艶かしく、キュートに見えましたよ。

やっぱりそうですか、なんだか和物な感じがしない、不思議な作品でした。

>三井記念美術館の応挙の国宝「雪松図屏風」も
>お勧めです。

写真で見るだけでもいかにもまぶしそうな、新年にふさわしいような
"ハレ"の作品ですね。
今月末までやってるんですね、行けそうだったら行ってみます。
(2007.01.18 12:07:24)

カナダ村さん  
mashenka  さん

Re:浮世絵に酔う!「ギメ東洋美術館浮世絵名品展」@太田記念美術館(01/08)  
sakura さん
私も三年位前に行ったことがあります。
浮世絵ががありましたが、何があったか覚えてな入の… 覚えているのは建物の雰囲気が日本家屋でいい雰囲気だったこととショップで手ぬぐいを買ったことです…(汗)
ところで、血液型O型ですか? 以外です!!
A型かな?と思っていました。でも、Bが少し入っているのかも…。私はAで両親はAとOです。ほかの人にはよくOだと言われます。血液型って当てにならないかも…。 (2007.01.23 21:59:03)

sakuraさん  
mashenka  さん
>浮世絵ががありましたが、何があったか覚えてな入の… 覚えているのは建物の雰囲気が日本家屋でいい雰囲気だったこととショップで手ぬぐいを買ったことです…(汗)

建物の雰囲気、よかったです!
小さくてあれぐらいの会場が好きです、疲れにくいし。
手ぬぐいやさんも、楽しいですよね♪
迷ったけど、今回は手ぬぐいは買いませんでした。
かわいい柄がたくさんありました~!

>ところで、血液型O型ですか? 以外です!!
>A型かな?と思っていました。でも、Bが少し入っているのかも…。私はAで両親はAとOです。ほかの人にはよくOだと言われます。血液型って当てにならないかも…。

昔はよく「A型?」って言われましたが、
そのうちO型と当てられるようになり、
さらにはB型だと言われるようになりました。
でも、あまり血液型はあてにならないかもしれませんね。
(2007.01.24 00:20:03)

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