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小説 「 scene clipper 」 Episode 13
連中の車を見送ったら、すっかり酔いが醒めてしまっていることに気付いた。
「なあ水城、喉が渇かないか?」
奴から返事がない。
振り返ると水城がさっき出てきてあの男とぶつかったコンビニの窓の下にしゃがみ込んでいる。
「何か探し物か?」
「あった!これですよ無事でしたよ~」
嬉しそうにそう言うとコンビニのレジ袋を持ち上げて俺に見せてくれる。
「何だビール買ったのか・・・って、たったの1本?」
「そう言わないで下さいよ、今月ピンチなんですから」
「そっか、じやあ俺が買い足すよ」
中瓶を6本買い足し、乾き物も適当に買って最上階の俺の部屋に上がった。
ドアを閉めると水城がせっかちに言う。
「リョウさん、メモ用紙あります?1枚でいいですから」
「何すんだ?」
「いいから、早く!あ、セロテープも」
時々分からないこと言うんだこいつは。ま、いいか
今日は飲み相手が欲しい気分なんだよな・・・何故に?
渡してやると「向こう向いてて!」と
「じゃあよ、グラスとか揃えとくから・・・」
・・・返事しねえのかよ・・・。
栓抜き、グラスとか準備したあとトイレに行く。
出てくると、
「もう、リョウさん、遅いっすよ早くすわって」
これ用意してる間、お前は何してたんだ!
というセリフを吐き出すのももどかしく、テーブルの上に並べたビール、その他一切を手で指し示す俺を無視して、水城はすでに用意出来ていたセリフを口にした。
「リョウさん、誕生日おめでとうございます!」
とコンビニのレジ袋から件のビールを抜き出した。
(そっか、今日は俺の・・・)
「お前、俺の誕生日覚えてくれてたのか・・・」
「そうっすよ、リョウさんと初めて会ったのが去年の誕生日でしたから」
ちょっと感動しながら受け取ると、ビール瓶の首に赤い蝶ネクタイが付けてあった。
そして蝶ネクタイの下に白い紙が斜めに貼っていてこう書かれていた。
「リョウさん、誕生日おめでとうございます。ささやかですが飲んでください」
と・・・・・。
「お前、これを守るためにコンビニの窓の下に隠していたのか?」
「ぶつかって、やばいなと感じた瞬間によろめいたフリしてね」
と
「頭良いっしょ!」と嬉しそうに言った。
・・・こいつ・・・涙腺攻めやがって。
「お前よー、この部屋禁煙だって言っただろ、煙が目に沁みるだろうが!」
「えー、聞いてないっすよー、それにまだタバコ吸っていないし、あ、リョウさん感激?」
「馬鹿野郎!いいからこれを冷蔵庫にしまっておいてくれ」
「ええっ!ビール瓶1本じゃあまりに申し訳ないからって夕子がこの蝶ネクタイ作ってくれたんですよー、飲んでくれないんすか?」
「ああ、目に沁みるわ煙が」とごまかしながら、指で落ちそうになった涙を拭った。
「ばかやろう、こんなの勿体無くってすぐに飲めるかよ・・・」
「・・・じゃあ、あとでゆっくり飲んでくださいね」
「ああ、一人の時にじっくり味わってな・・・夕子ちゃんに『ありがとう』って伝えといてくれ」
「わかりました、あいつきっと喜びます」
「だと良いな・・・あれ!」
「何すか急に」
「いやな、夕子って名前で思い出したんだ」
「なんすか呼び捨てにして」
「いやいや、そうじゃない。俺の同級生に一人夕子って女子がいたんだ。それで
あの日も殴り合いのケンカした・・・で今、夕子のこと思い出したんだ」
「なんか訳わかんないっすよー」
「うん、まあとにかく一本開けようや」
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