マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2019.03.20
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テーマ: 読書(8453)
カテゴリ: 読書
~差別するこころ~



 司馬遼太郎の大著『竜馬がゆく』を読み終えてから、次に何を読もうかと迷った。と言っても家の中の本に限られる。新刊を買う必要性は少ないし、図書館は遠過ぎる。以前古本屋で買った中から、灰谷健次郎の『兎の眼』を手に取った。もう何年「積ん読」状態だったろう。あの大著の後では心も容易に反応してはくれないだろうが、まあ一日中パソコンに向かっているよりは良い。



 灰谷健次郎(1934-2006)は児童文学作家。神戸で生まれ、貧しい少年期を過ごした。高校は夜間だが、大阪学芸大(当時)を卒業して17年間小学校の教員を務めた。その後退職し、児童文学を志した。と言っても教員時代から児童詩の編集などを手掛け、文学に対する志は強かったようだ。しかし、なぜ彼は学校を辞めたのか。その疑問を解く鍵がこの本に隠されている。



 それまでに私が読んだ彼の著作は『遅れて来たランナー』と林竹二先生との対談だけだった。前者は私がランナーだったこともあって、そのタイトルに目を奪われたのがきっかけだ。一時、沖縄の渡嘉敷島で暮らしていたことも雑誌『ランナーズ』で知っていた。その後、再び淡路島へ帰ったことも。恐らくは病気の治療だったのかもと、今になって思うのだ。

  小学生に授業中の林先生

 対談集を読んだのは林先生が2番目の職場の学長だったためだ。先生の専門は哲学だったはずだが、大学紛争当時も過激派学生が封鎖した校舎の中に一人で飛び込むような人で、後年小学校で特別事業を行う「聖人」だった。「本当の教育とは何か」を追求する二人だけに、心が通じるところがあったのだろう。



 さて話の舞台は関西のある小学校。学区内には市の清掃工場と、そこに働く貧しい人々と子弟がいる。教師経験の浅い小谷先生の奮戦ぶりや、「蠅博士」鉄三の成長が心を沸かせてくれる。しかし貧しいことだけで差別を受ける子供も世の中にはいるのだ。小谷先生や鉄三たち清掃工場の子供たちを見守る足立先生の眼差しは真剣だが、子供に対する愛情の深さは格別。だが工場の移転を契機に大問題が勃発する。



 騒動の結果までは描かれていないが、市や校長などのうろたえぶり、一部の教育ママたちの異常反応に「やはり」と思わせるものがあった。灰谷の作品は強い反響を呼び、中には部落解放同盟から非難を浴びるものもあった由。実兄の自殺もそれらと関係があったのだろうか。出身地ゆえの差別、貧しさゆえの差別。東北に住む人間にとっては理解不能だが、差別が現存するのを四国勤務時に体験した。



 住井すえ著『橋のない川』が、私が差別問題を知ったきっかけ。あまりの実態に驚き、怒りすら覚えたものだ。さて『兎の眼』はミリオンセラーとなり、灰谷の代表作となった。平成18年病没。享年72才。目下彼の著『我利馬の船出』の古本を読んでいる。果たしてこの後どんな展開が待っているのだろう。





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Last updated  2019.03.20 00:00:22
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