マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2021.09.17
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カテゴリ: 人生論
~「シネマの神様」を観て想う~



 9月上旬のある日。私は映画を観に行った。おそらく映画を観たのは2年ぶりくらい。映画館の「ポイント」はとっくに無くなっていたし、映画館に通じるショッピングモールも、内装が変わって初めて見る店ばかりだった。そして閑散としたホール。同じ映画を観たのは全部で7人。それもかなり離れた席で、コロナに感染する心配はほとんどないはず。ガラガラのシアターで、私はそんなことを感じた。



 映画は松竹映画創立100周年を記念した作品。かつて人生の全てを映画にかけた人がいた。今では遥かに遠い昔々の話。そんな悲しくかつ笑える懐かしの昔話を、今年88歳になる老監督が撮った。恐らくは執念なのだろう。自分以外に撮る人はいないとの。主演の俳優は前から決まっていた。だが彼が映画に出ることはなかった。撮影前に新型コロナに感染し、亡くなったためだ。



 そのこと自体がドラマと言えよう。人生2度目の映画出演に、きっと大きな夢を抱いていたはず。松竹映画創立100年の記念作品で、喜劇を撮らせたら右に出る者がいない山田洋次監督だったからだ。主演男優自身が根っからの喜劇役者。恐らく胸に期すものがあったはず。だがクランクイン前に主役があっけなく死んだ。新型コロナで突然に。これは悲劇だろうか、それとも喜劇なのだろうか。嗚呼。



 山田洋次監督と言えば「寅さんシリーズ」が代表作だ。だが60作以上ものそのシリーズを私は観たことがなかった。観たのはたった1回、説明に窮した添乗員が観光バスの中で点けた「寅さん」。それも時間が来て、中途半端なシーンで終わった。まさに不完全燃焼そのもの。



 山田作品で私が観たのは「東京家族」(左上)と「家族はつらいよ」(右上)のシリーズ。どちらも小津安二郎監督の名作「東京物語」を下敷きにしているが、味わいは似て非なるもの。山田作品は全てが喜劇に変わると言っても良い。悲劇と喜劇が背中合わせになっているのだ。テーマがたとえ家族であっても。恐らく「寅さんシリーズ」も同様なのだろう。笑いの底に潜むペーソスは、人生そのものだ。



 かつて映画監督を志すも夢破れ、今やギャンブルに明け暮れる借金まみれのゴウ。妻や娘にもすっかり見放されている。

  右は代役の沢田研二

 そんな中、幻となったゴウの初監督作品の脚本を読んだ孫の勇太はその内容に感銘を受け、脚本賞に挑戦することを提案。

              小林稔侍(映画館主) 

 ゴウは自身の作品と向き合いながら、映画への愛を確認して行く。

  娘が成長し・・

 若き日に愛した食堂の娘は、やがて妻となってゴウの傍らにいた。
     <あの人を愛したからその神様に出会えました>



 予期せぬ代役で主人公を演じた沢田研二は何を得、何を考えたのだろう。妻であった「ザ・ピーナツ」の長女伊藤エミと離婚した時、彼は時価数億と言われた豪邸を彼女に渡した由。若き日の志村けんは付き合っていた女性を妊娠させ、200万円を持参して彼女の両親に侘び関係解消を依頼した由。もしそれがなければ、志村もパパやジジイになっていた。だが人生に「もし」はない。人生はたった1回だけだ。



 さてゴウの妻役を演じた宮本信子の夫伊丹十三は、映画監督だった。だが、やくざ映画を撮影中にトラブルに巻き込まれ、やくざに殺害された。もし、やくざ映画さえ撮らなければ死ぬことはなかったはず。だが人生にも映画にも「もし」はない。たった1回だけの勝負なのだ。



 若い食堂の娘を演じた永野芽郁が、「半分、青い」の鈴愛(すずめ)だったことに、帰宅後気づいた。役者は成長し変貌する。若き日、ゴウと共に映画界で頑張っていた友が夢破れ、故郷に帰り映画館主になった。ゴウは「脚本賞」を受賞したニュースを、旧友が経営する場末の映画館で知る。人生の末路を知るのは神様だけ。ゴウの魂はキネマの神様に招かれて昇天する。<一部「ネタバレ」より借用>


 人生に「たら」も「れば」もないが、出来たら志村けん主役の作品を観たかった。もしも彼が主役の映画なら、観客はもっと泣きかつ笑い転げていたはず。だからこそ山田監督も最初に志村けんを選んだのだろう。あの世で「シネマの神様」を観た志村けんが言ったはず。「もしも俺が主役だったら、もっと笑わせていたのになあ。ああ残念。」と。合掌 





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Last updated  2021.09.17 00:00:13
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Re:映画と人生論(09/17)  
Kazu さん
Aさん,こんにちは~

コロナワクチン,2,400円/一人,2回接種後三回目は8ヶ月後を検討中との
こと。いずれにしても税金で賄っているので,コロナが終息したら復興税と
同様に国民から徴収するのでしょうね。

志村けんの番組,なんとなく観てましたがなくなってしまうと面白さがじわ
っと湧いてきます。お笑いにはかなりストイックでしたね。バカ殿,ひとみ
ばあさん,変なおじさんなど。彼のようなエンターテイメント,もう出ては
こないでしょう。 (2021.09.17 09:31:04)

Re[1]:映画と人生論(09/17)  
マックス爺  さん
Kazuさんへ

今日は~!!
いつもコメントをありがとうございます。
とても嬉しく拝見しています。😊

台風14号の動きが気になりますね。
何だか西から東へと日本列島横断もありそうです。
「水門」大丈夫でしょうか。頑張ってね。(^^)v

国民から追加で税金を取るようなことは
ないでしょう。それにまだ収束していないので、
現在はその対策に必死だろうし。新政権誕生
となればコロナ対策が第一で、税金の追徴など
したら支持率がた落ち。それよりも10万円の
還付金給付の実現性の方が高いかもよ。

志村けん。ドリフターズに登場した
ばかりのころはとこか違和感があったけど、
あっと言う間に先輩芸人を追い越して人気を
独り占めにしてしまいましたね。

彼がこの映画の主役だったらと思わずには
いられません。破天荒な男です。

現実の渥美清は実に陰気な男だったようですが、
志村けんの明るさは底抜けでしたね。
バカになり切るのもすべては芸の賜物です。(^_-)-☆ (2021.09.17 10:37:57)

Re:映画と人生論(09/17)  
恵美子777  さん
この映画、見損なったので、とてもうれしかったです。

もっとも、あまり映画館では見ないですが。

伊丹十三は、自殺と聞いていましたが、 ● ● されたのですか?
うつ病と聞いていましたが。
今知りました。

皆遠い人になってしまいました。。。

沢田研二は、歌で美しく歌っていたころが最高でした。。。

又楽しみにしています。

ちなみにコメントは、タイトルの横にある(8)などの数字をクリックすると皆さんのコメントが出てきますが、すぐその上に書く欄があります。 (2021.09.17 23:44:42)

Re[1]:映画と人生論(09/17)  
マックス爺  さん
恵美子777さんへ

お早うございます。
いつもコメントをありがとうございます。

コメント欄のことは知ってましたよ。
もう15年も使っていますので。

山田監督作品を観たのは久しぶりでした。
ここにも書きましたが、志村けんが主役の
映画を観たかったものです。

伊丹十三の死因、私はそう記憶していますが、
誤解だったのかどうか。
何分遠い昔のことになりましたので。(;^_^A
(2021.09.18 06:28:22)

Re:映画と人生論(09/17)  
ご無沙汰にもかかわらず拙ブログへのコメントありがとうございます。

「キネマの神様」を見た日を思い出しながら拝読しました。
途中の「東村山音頭」に志村けんを彷彿とさせたシーンは感動ものでした。

  (2021.09.18 20:55:04)

Re[1]:映画と人生論(09/17)  
マックス爺  さん
クマタツ1847さんへ

今晩は~!!
早速のご来訪ありがとうございます。

ハハハ。そうそう思い出しました。
東村山音頭、とても愉快でしたね。(^^♪
(2021.09.18 22:43:06)

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