マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2022.01.16
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カテゴリ: 文学
~別世界への旅路~



 最初の職場での勤務は3年間で終わった。定型的な仕事は自分には向いてないし、精神的な苦痛も感じていた。そこで新設機関への転勤希望を出した。その希望が叶って始まる新たな生活。これまでとは全く異なる分野なのに加えて、新設機関のため「無」の状態からのスタート。そして職場は仮校舎から現在地へと新築移転し、以後天職となるその仕事に夢中になって取り組んだ。



 さて、若き日に出会った宗教や文芸や音楽が無駄にはならなかったと思う。旧約聖書の詩編や讃美歌、借用した法句経(ほっくきょう)。それらは文語体で書かれ、古語を交えた韻文もあった。日本語の美しい響きに感銘し、言霊(ことだま)すら感じた。美術や文学もそうだが、なるべく若いうちに「本物」に出会うことが大切だと思う。それは他の分野も同様だ。結局「偽物」には偽物の価値しかない。



 職場では軟式野球部に入って練習に励み、試合にも出た。新しい分野の仕事と環境の変化は、私の心身を健康にした。やがて4年遅れで大学へ通い始める。勤労学生が中心の夜間部だ。だが全国的な大学紛争が仙台にも波及し、職場の大学もそして夜学のある大学も学生運動のプロ集団によって封鎖された。私は二部の学生委員会に所属していたが、逃げ出した先輩に代わってやむなく委員長になった。



 夜学の学生には職場の組合の猛者もいて、混乱の元になった。だが一般学生の代表である私たちは穏健な主張で混乱を乗り切った。体重は10kg以上減り、病院に担ぎ込まれたことも。それでも4年間で得たものは多く、妻とも知り合って結婚し、資格取得のための講習やより上位の専門試験にも合格出来た。礼拝堂の地下食堂の天ぷらそばの味、クリスマス礼拝や、委員長としての演説など今なお忘れられない。



 試験合格が契機となって東京へ転勤し、その後も転勤を重ねた。国内最先端の電算化を実施していた3番目の職場では、懸命に専門雑誌のタイトルを覚え、英文タイプを打ち、不得意なコンピュータ操作に苦しんだ。国内初の新構想大学となった4番目の職場では、全国から集まった優秀な同僚たちの実力を知らされた。そこで10年勤務した私は、一大決心をし新天地へと向かう道を選んだ。



 何もないところから私が作った5番目の職場。理想に燃えて構想を練る私を、上司であるM教授は理解し、学長をも説得してくれた。心身はすり減ったが、それまでの経験がすべて生きた。いやそれらを駆使して全国にないものを作った積もりだ。3度の創設事務は累計で21年に及び、私の誇る最後の作品となって今も立派に機能しているはず。仕事に悩んだ時は深夜に起き、真っ暗な海岸を1人で走ったっけ。



 退任される際、M教授は私に1冊の本をくれた。世界的な大脳生理学者であった先生は、ホトトギス派の俳人で、フランスのパスツール研究所で勤務された時も俳句を詠んだ由。その本の内側に私への献辞と共に自筆の句が添えられている。「汐時の鳴門轟く良夜かな」 巨草が先生の俳号だった。

 世界的な学者と心を通わせて築いた職場。私は何度か転勤を重ねたが、本当に偉い人は決して威張ったりしない。文化勲章を受章された先生や、若くして学士院賞を受賞された先生。皆穏やかな方だった。



 ところが世の中にはトンデモナイ人もいて、激しいパワハラに遭ったり、部下の裏切りにあったりもした。「胡麻をする能力」がない私は、本音で語り馬鹿正直に生きるしかなかった。若くして病死した後輩たち。パワハラを受けて自殺し、失恋して自殺した後輩。途中から研究者へと転身した同僚や部下。彼らの顔を一人一人思い出す。そして私が死なずに済んだのは実に「文学に守られていた」からなのだった。

  雪国

 沖縄では25年ぶりに詩を書け、2冊の詩集を出した。人事権を握る女ボスに飛ばされた雪深い北陸では、1年で千句ほどの「五七五」を作った。季語も知らず基本知識もないがリズム感は育てられ、後に生きた。短期間の博物館勤務は、知識や観点が豊富で多様になった。やはり「本物」との出会いが大切だ。早くからインターネットに接した私はやがてブログにも出会うのだが、それはしばらく後になる。



 さて人生に無駄などない。離婚したことも含めて良い経験だ。「もしもあの時」と考えることもあるが、すべては自分が良いと判断して選んだ道。失敗もまた貴重な経験だ。失敗し躓いたからこそ得られたことも多かった。人生然り。文学も同様だと思う。すべては「修行」と考えたら、この世に生を受けたことに先ず感謝すべきなのだろう。今日は文学論より人生論になったかもね。ぽっ<続く>





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Last updated  2022.01.16 05:48:49
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