手書き文房具推奨委員会

2009.02.14
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以前ご紹介した、よく行くサンドウィッチ屋のオリジナルTシャツです。

T.grau3.JPG

前回のやつを買った半年後くらいに行ったら、このブランニュー・オリジナルTシャツが売っていたので、お金はあまりなかったのですが買ってしまいました。

T.grau4.JPG

・・・今ちょっとそのときのことを考えていたら、なにやらいろいろ思い出してきたので、ちょっと書いてみようと思います。

一人の、働き始めてまだ日が浅いと思われる男性店員が同じデザインのグレー色のものを着用していたのですが、Tシャツが置いてある商品棚にはグリーンとホワイトのみ。

生まれながらの灰色好きの私が、どうせ在庫はないだろうと半ば知りつつも、淡い期待を抱いてそのグレー店員にグレーTシャツの所在を尋ねたところからこの物語は始まります。

*********

「イクスキューズ・ミー、このTシャツなのだけど、君がいま着ているものと同色のミディアムサイズは果たして在庫してあるだろうか?」

グレー店員は私が仔細に調べた商品棚を軽く検分したあと、少々困惑顔になり 「少々お待ちください」 と言い残して奥に消えていった。

このとき、サンドウィッチ屋は非常に混み合っており、お店側にしてみればより多くのサンドウィッチをお客に提供するべく、それこそ猫の手も借りたいであろう状況下におかれているように思われた。

私は少しく心が痛んだ。

働き始めてまだ日が浅く、さっきからホール内を汗をダラダラかきつつただウロウロしているだけのように見えるグレー店員であっても、この店の主力商品であるサンドウィッチ販売のためにさらに汗をかきつつウロウロしなければならないはずなのだ。

それを私は、おそらく2ヶ月に1枚売れればいいだろう程度の「オリジナルTシャツ」という、いわば箸休め的商品のために大事なグレー店員を引っ張りまわしているのだ。

甚だ申し訳ない。

奥に引っ込んだ若輩グレー店員は案の定、

「えっ?Tシャツ?グレー?知らないわよ!そこにあるだけだよ!それよりあんた、これを早く5番に持って行きなさいよ!!」 と怒鳴られていた。

「あのすいません。ここにあるだけです」

グレー店員はサンドウィッチの皿を抱え、さらに倍ほどの汗をダラダラと顔中に流していた。

「あ、ごめんごめん。いいよ、いいよ。これを買うことにするよ。支払いは帰りに一緒でいいかな?」

私が迂闊にもそう尋ねると、グレー店員はみるみる困惑顔になり、 「少々お待ちください」 と言ってサンドウィッチの皿を持ったまま、また奥に引っ込もうとした。

私は急いで 「いや、いいんです!ごめんなさい」 と言って彼を引き止めた。

「もう何も訊きませんので、どうかその皿を5番テーブルに」

グレー店員は安堵の表情になり、早足で5番テーブルに向かった。

それにしても、この日のサンドウィッチ屋は異常なくらい混んでいた。

窓際の席に座っていつものようにぼんやりと頭の中を空っぽにしようと思っていたのだが、この喧騒ではそんな目論見は果たせるはずはない。

残念だけど、仕方ない。私のベーコンサンドウィッチもなかなか出てこない。

40分ほど待っていると、例のグレー店員が息を切らせてサンドウィッチを持ってきてくれた。

「お待たせしました」

しかし、フォークが見当たらない。

私は考えた。

サンドウィッチ本体は手で持って食べればよいとしても、付け合せのマッシュポテトに至ってはやはり、素手で食すにはいささか抵抗がある。

私は自分を解き放つべく、素手でマッシュポテトを貪る自分を想像してみた。

・・・うまくいかなかった。

悲しいかな、私は素手でマッシュポテトを食うことも出来ないチンケで不自由な男なのである。

「ギャルソン殿、かたじけない。出来れば、フォークを給う」

立ち去ろうとするグレー店員に、私は懇願した。

「あっ!」

と、頓狂な声を上げ、グレー店員は 「すいません」 と言葉を残し、奥に引っ込んだ。

ベーコンの芳醇な香り立つ絶品サンドウィッチを前に、私はおあずけを喰らった飼い犬のごとき心境である。

しばし待たれ、わが胃袋よ。すぐに彼が全能のフォーク食器をここに持ってきてくれるはずであるから・・・

しかし、フォークはなかなかやってこなかった。

若輩グレー店員はなにごともなかったかのように、大量の汗をかきつつホールをウロウロと歩き回っている。

私は意を決して、近くを通りかかった彼を呼び止めた。

「おそれながらギャルソン殿。できうるならば、フォークを給う」

グレー店員は 「あっ!ああっ!!」 と先ほどよりもさらに頓狂な声を発し、 「申し訳ありません!」 と頭を下げた。その勢いたるやすさまじく、遠心力で吹き飛ばされた彼の顔の汗がまだ手付かずのサンドウィッチにかからぬよう、私は身を挺して防御しなければならないほどであった。

今度こそは、グレー店員は他の客に呼び止められるもかまわず、走るようにして店の食器棚まで赴き、そしてフォークを1本手に取ると、わき目も振らずに私のテーブルに帰ってきた。

かくして私と私の胃袋は、半年振りで食べる絶品サンドウィッチの味に、その頬をピンク色に染めたのである。

その後コーヒーを一杯飲み干した私は、いつもならさらに数杯のコーヒーを所望し、日暮れまで居座るところ、場の空気を適切に読んでそそくさと退席することにした。

モラルに足が生えて歩いているような、私なのである。

伝票とグリーンのTシャツを手に会計カウンターに向かうと、レジ担当は例の若輩グレー店員である。

彼はしきりに頭をかきむしりつつ、セミがさなぎから成虫に孵るようなひどくゆっくりとした動作でレジスターのボタンを操作し、私の前の客の会計を処理していた。

順番の廻ってきた私は一抹の不安をおぼえつつも、 「クレジットカードで支払いをしたいのだが」 とこちらの希望を申し上げた。

カウンターの上にはカード支払いが可能であることを示すプラカードが鎮座している。

そこに私のカードと同じクレジット会社のTM、すなわちトレードマークも印刷されている。

それに、半年前は滞りなくクレジットカードで支払い手続きを済ませた実績もある。

だがしかし、私がクレジットカードで支払いをしたい旨を伝えると、グレー店員の顔は本日すでに2回ほど目撃している、あの絶望的な困惑顔にみるみる変化していった。

「いや、いいんです。カードなんか使いません。現金で払います。そうです、当然現金です。現金以外にあるもんですか!」

・・・私は、そう言うしかなかった。

そして、財布とポケットから現金をかき集め、なけなしの現金でサンドウィッチ及びオリジナルTシャツの代金を支払い、混み合うサンドウィッチ屋をあとにしたのである。


あれからすでに、また半年がたっている。

あのサンドウィッチ屋はいまも混んでいるだろうか。

グレー店員はいまも困惑顔でホールをウロウロしているだろうか。

また行きたいな、必ず行こう、と強く、強く思うのである。



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最終更新日  2009.02.14 20:45:19
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