続々・絨毯屋へようこそ トルコの絨毯屋のお仕事記

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November 6, 2016
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カテゴリ: トルコ国内出張
この地で唯一で最後のランタン職人の話をしたけれど、もう一人、唯一で最後の伝統手工芸の担い手がいる。
キリムを織る女性。




トカットではこの15~20年来、彼女以外のキリムの織り手はいないのだそう。
講師として参加している地元の市民講座でキリムの織り手を増やす努力をしているものの、趣味で小さな作品を作る生徒たちはいるけれど職業として覚えようという人は皆無だという。

正直言って、絨毯屋(知らない方やお忘れの方もいらっしゃるかと思いますが、私はれっきとしたトルコの絨毯屋でございます)として言わせてもらえば、トカットのキリムというのはあまりピンとこない。

ここで有名な(だった)のはウールのへレケ絨毯。
細かいモチーフで知られる高級絨毯である。
ある時期、へレケ絨毯はへレケ以外の土地数か所で作られた。
その一つがトカットである。
へレケ絨毯を扱っていると、たまにトカット産のものが出てくる。
1970~80年代の話である。




トカットの村出身だという彼女とキリムについて話しているうちにわかったのは、私の想像通り、彼女のキリム人生は、やはりへレケ絨毯からスタートしたということだった。

当時、トカット・へレケが作られていた別の村で絨毯の織り手の募集があった。
12歳のときにそれに参加し、絨毯織りを覚えたという。
そのころの地方の村では女子の教育は重視されず、学校へ行かせてもらえなかった代わりに絨毯修行に出された。
結果的にはそれが学校代わりであり、その時覚えた技術のおかげで現在の自分があると言う。

その絨毯織りの技術を基盤に、トカットのまた別の地域でかろうじて残っていたキリム織りを見よう見まねで覚えたのが20歳ころの話。
キリム織りの技術を教えてくれる人がいなかったため、全て自分で調べて試行錯誤を繰り返した。



現在、50歳。

市民講座のキリム織りの講師をしながら、自分の小さなアトリエで細々であるがキリムを織り続けている。

仕事柄、たくさんのキリムの織り手とかかわり、織られたキリムも見てきたが、彼女のキリムがとてもきれいなので興味を持った。
それが絨毯織りが基盤にあるからだろうとわかったからである。

絨毯は目を数えながら一段ずつ織っていく。
最悪、方眼用紙に書いた目を見ながら作れば間違いがない。
色の入れ間違いをするとモチーフが出てこない難しさがあるが、逆に言うと図面通りに作ればできる。

それに対してキリムは目数とか段という感覚がない。
方眼用紙上の図面がないからである。
山を作り谷を埋める・・・糸の部分の太さで凸凹ができるらめ、見た目で調整していくので、段数を揃えることはまずない。
ましてやモチーフの目数は重視されず、機の下のロールに巻いてしまった前に織った部分は見えないので、大きさや高さなどがマチマチになることが多い。
モチーフが入る位置が一致していないのもそのせいである。
(それらの歪みや不均一さが味になることもあるのもキリムの良さではあるが・・・。)

それが一般的に絨毯はテクニックは難しいが織るのは簡単で、キリムはテクニックは簡単だが織るのが難しいと言われる所以である。

彼女のキリム織りの特徴は、まず作るモチーフを絨毯と同じように方眼紙上に目数と段数として作図する。
もちろん絨毯ではないので、経糸の本数は別にして、高さを調整する段数はきっちりといかない。
それでも隣にあるモチーフの形に合わせて、色糸を変える場所を決めている。
そのためモチーフがほぼ崩れなく現れるのである。

絨毯織りの習慣がキリム織りにも続いているってことね・・・?
と確認すると、彼女自身もうなづいて。
「10代でやった絨毯織りの考え方でキリムも織っているから」と答えた。

その彼女が作っているキリムは、私たち絨毯屋が村の女性たちに作らせている新作キリムとは別ものの、キリム作家作品としてとらえなければならないと思う。
制作の姿勢も自分が納得する作品作りというのが伝わるもので、本人も好きでなければ続けられない状況・・・と。

というのはまず価格の設定。

絨毯業者が織ってもらう、村の女性たちの内職仕事は普通のトルコの人たちの賃金から比べた特別安い。
それは例えば私が売っている2平方メートル超サイズの新作キリムが、織り手の工賃、ウール糸代、仕上げ代、クリー二ング代、運送費、点検経費、弊社の儲けを含めて24000円ということからも想像してもらえると思う。
(とは言え、ここ数年は仕事のない農閑期の村ですら、この工賃では織ってくれる人がいないので作らせることもできないけど・・・・)

しかし彼女の場合、そのキリムを織るのにかかった制作日数をトルコでの最低賃金で計算したとしても、2か月かかった場合は10万円になる。

出来は確かに良いし、町に暮らす一人の女性の労力に対する報酬として当然のことだと思う。
しかし、商売としては村の女性たちが作った同じぐらいのサイズのキリムがいろいろ込みで24000円で私が売れるのに対して、彼女のキリムを販売しようとすると10万円に弊社の儲けや送料などを加えなければならない。
少なくとも5倍の価格差が生じることになる。

その違いを理解してもらえない限り、商売としては難しい。

でも出来がいいから何とかしたいなあ・・・と思って彼女のアトリエで見つけたのがコレです。



キリムのバック。
丁寧に時間をかけてほぼミスがない状態できっちり作られています。



内側もトルコ製品としては十分にきれいです。
男性の業者が手掛けたものでなく、女性の作品であることがわかるものです。
大量に制作できるものではないので、1点1点しか作られません。

2点しかありませんので、参考までにお見せしたいと思いました。
もし興味がある業者様がいらっしゃいましたら、もしくは個人でオーダーしてみたいというのもありですが、ぜひご相談ください。

現在、キリムとして出来上がっているものは以下の6点のみ。
これらをバックに加工可能だそうです。
(裏側は地の色の一色です)




思ったけど、昨日のランタン職人さん同様、伝統文化が継続されていくか、途絶えてしまうかということは、見返りを求めない公的な支援がない限り、結局商売として成り立つか成り立たないかの一言だってこと。

それが唯一の職人で最後の担い手であったとしても、続ければ続けるほど経済的に困窮するようであれば、もし本人は気持ちだけで頑張ったとしても、後継者が現れるわけないですよね。




バスク修行の話が出てこないなあ・・・・と思っていますよね。
すごい過密スケジュールで、まさに修行という言葉がぴったりの状況です。
予想していたトルコ・タイムの、のんびり滞在ではないことは確かです。
まだ3日目というのが信じられないぐらい、中身濃くてついていけてません。

毎日なんとか頑張って更新だけはしていきますので、見捨てずよろしくお願いいたします。


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Last updated  November 6, 2016 05:06:13 AM
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