切実な人 南風一
思い出が愛情の量に比例しているのなら
35年も過ぎて鮮明に憶えている記憶は
彼女よりむしろ祖母の方だったに違いなかろう
彼女と3年半ぶりにデートした日の夜
祖母が亡くなって
そんなことで彼女とデートした最後の記憶の方が
鮮明に残っている
それから1年と経たずに
きみが俺に靡くことはないと諦めてしまった後
自宅の姉に電話があったという
連絡が欲しいとのことだったが
全ては遅過ぎた
何事にも時機というものがあって
きみと俺はすでによりを戻すことは不可能だった
それから35年が過ぎて
きみも俺ももう若くはない
今さらきみの姿を見かけたところで
多分きみだと分からない
それは俺の方だって同じこと
きみはいつものように気紛れで電話をかけてきて
俺に何を伝えようとしたのかな?
好きな人が愛する人切実な人になるなんて
なかなか難しい
35年が過ぎて
彼女が連絡を待っていることなんぞ
もうないだろう
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