あなた様が、いつまでも忘れないと仰って下さるお言葉は決して一時のそらごとではなく、本当にそう思って下さってのこととお受けしております。でも、人の情はうつろい易いもの、いえ、それがむしろ人の自然でございましょう。何事かをお疑い申しているのではございません。固い今日のお約束も、いつまでもとは頼み難いのが人の世の常。それゆえ、今日の逢瀬を最後の思い出にいっそ死んでしまいたい、それほど満たされている今日の私でございます。幸せの絶頂で命を断つことは、将来の不幸を念頭に置いている。恋の裏切りではないが、事実、詠み手の晩年は幸薄くなる。それを予感しての自暴自棄ではないこと。また感情にのまれた刹那的な叫びでもないこと。それら前後の詳しい説明とあわせて読めば、この歌の魅力が、行く末まで忘れ難いものになるのは確かである。
池田晶子さんのエッセイ 2015.04.29
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