2013/12/17
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トリーアに10年以上住んでいたとはいえ、セミナーでモーゼルのことを説明するのは、簡単なようでいてなかなか難しい。もともとあまりしゃべることが得意ではない上に、わりと大ざっぱな性格なので細かい話は苦手である。よく、心に響く言葉を語るには心で語らなければならない、と言う。わかってはいるものの、私のこよなく愛するモーゼルを言葉で伝えるのは、なかなか難しい。

ほぼ毎月恒例の『いまどきドイツワインセミナー』の今月のテーマはモーゼルだった。前回のバーデンと同様に概論を私、試飲解説をT氏が担当。概論なので誰でもモーゼルの輪郭を把握できるように、地理・気候・土壌という基本からアプローチすることにした。


ブレマー・カルモントから見える蛇行するモーゼル川。


1. 地理

モーゼルの水源はフランスはヴォージュ山脈にある。大体アルザスの裏手あたりだ。コブレンツでライン川に合流するまで544kmの高低差約700mを流れ下る。フランス国内の上流あたりは牧歌的で、川沿いの牧場で牛が草を食んでいるような、至極のどかな光景が広がっているが、メッツのあたりではおよそロマンチックとは言えない殺風景な工業地帯を流れている。それがフランスを過ぎ、ルクセンブルクとドイツの国境地帯に入ると途端に両岸の斜面に葡萄畑が広がる。そこから直線距離では約135kmのところを約243kmあまり、モーゼルは右へ左へと蛇行しながら父なるラインへと近づいていく。

なぜモーゼルは蛇行を重ねるのか。土地の葡萄農民に言わせると、通り過ぎる一帯の景色があまりにも美しく、去り難いためだと言う。雄大な葡萄畑の斜面が織りなす光景は、既に約1600年前にローマ時代の詩人アウソニウスが 『モゼラ』 に詠んでいる通りだ。


2. 気候

次に気候を見てみると、モーゼルという産地がいかに冷涼であるかがわかる。モーゼル上流、つまりルクセンブルクに近い内陸では年間平均気温は約9℃にすぎないが、下流では約10.5℃と上流と下流で既に1.5℃あまり差がある。降雨量も同様に上流で約900mm, 下流で約670mm。バーゼルのブライスガウが809mmであることを考えると、上流の雨の多さは印象的だ。そして年間日照時間は約1370時間とブライスガウより300時間あまり短い。それだけ冷涼で、降雨量が多く、日照時間が少ないが故に粘板岩の急斜面が意味を持つ。つまり斜面で直射日光を葡萄樹のより多くの葉にあてるとともに、粘板岩の散らばる地面からの照り返しの光も得て、さらに粘板岩に日中蓄えられた熱が夜間の冷え込みを緩和し、そして粘板岩が水はけを良くするとともに、一度土壌に浸透した水分を上から蓋をするようにして蒸散を減ずるのである。


ブラウネベルガー・ユッファー・ゾンネンウーアの畑。


3. 粘板岩

さて、その粘板岩は英語ではスレートslate, フランス語ではアルドワーズadroise、ドイツ語でシーファーSchieferと言う。粘土が堆積した後圧力と高温により軽く変性した結果、ある程度の厚さで剥離するようにして割れるものを粘板岩という。よくモーゼル地方では屋根瓦や壁の装飾に使われているのだが、それはもとを正せばおよそ4億年前のデヴォン紀に堆積した粘土である。

4億年前と言ってもスケールが大きすぎてピンと来ないのが普通かもしれない。地球が誕生したのが約45億年前と言われている。それから比べるとけっこう最近の話ではある。当時、南にゴンドワナ大陸、北にローレンシア大陸という、二つの大きな陸地があった。その間にあったのが、ライン海盆と呼ばれる遠浅の海である。そこに陸地から雨や風で流されてきた細かい土の粒子が堆積して、3000~12000mというから富士山やエベレストよりも高く堆積した。堆積しただけでなく、大陸は徐々に移動しつつあった。日本とハワイは約6000km離れているのだが、現在も毎年8.3cm近づきつつあるという。つまり1億年で約8000km近づく、ということは、ハワイはやがて日本を通り越して中国大陸まで突進することになる。4億年前もゴンドワナ大陸とローレンシア大陸は移動しており、約2億年前には衝突してパンゲアという超大陸になった。その過程でライン海盆にたまったエベレスト並に堆積した粘土は膨大な自重と、大陸衝突の結果活発化した火山活動の熱で脱水・変性して粘板岩となった訳である。これが、今もモーゼルの葡萄畑の至る所にころがっている。ちなみにブルゴーニュの石灰質地層はジュラ紀でデヴォン紀の約2億年後、シャンパーニュは白亜紀でさらに1億年あまり新しい。ま、古ければ古いほど良いというものでもないのだが。

モーゼルに堆積した粘板岩はやがて盛り上がり、現在モーゼル渓谷を挟み込んでいるフンスリュック高地とアイフェル高地となり、風化と浸食を受け、隆起と陥没を起こし、いくつもの氷河期と気温の上昇を経て、約1500万年前から260万年前に古モーゼル川がスレートの台地を彫り込んでいった結果、約300mの高さにそびえる急斜面と、谷底を蛇行する川からなる渓谷が出来上がったのである。


3.1 粘板岩のヴァリエーション

さて、粘板岩と一言で言っても様々な種類がある。まずデヴォンシーファー(粘板岩)と言った場合、これはデヴォン紀に起源をもつ粘板岩の総称であり、その中にも違いがある。まず色の違いだが、青みを帯びた黒っぽい粘板岩をブラウシーファーと言う。次に灰色のグラウシーファー、赤みを帯びたロートシーファー、さらにブロンズ調の緑を帯びたグリュンシーファー、他にも黒や紫もある。もともと粘板岩は青黒い、いわゆる瀝青(コールタール)に近い色をしているのだが、これが風化で色が抜けたり酸化したりして灰色になったり赤っぽくなったりする。モーゼルの場合粘板岩の組成は石英30%, イライト(雲母鉱物)30%, クローライト(緑泥石) 30%, 長石5%、磁硫鉄鋼、黄鉄鉱、海底腐植土に由来する炭化(瀝青)物質なのだが、このうちクローライトが風化で溶出すると、粘板岩の色は白っぽくなる。クローライトはまた二価鉄を多く含むので、これが酸化されると錆の赤っぽい色を帯びる。

粘板岩はまた粒子の細かさによって砂質、シルト質、粘土質粘板岩に区別される。一般には直径1/256mm以下を粘土、1/16mm以下をシルト、2mm以下を砂と称するのだが、ライン海盆の位置によって、また堆積年代によって粘土質だったり、シルト質だったり砂質だったりする。これがモーゼル川沿いに位置をかえて分布している。

フンスリュック・シーファーという生成年代が最も古い粘板岩は、モーゼル川の東側のフンスリュック高地寄りに、だいたいモーゼル中流域をカヴァーするようにして分布している。下流に行くとシルト質、砂質が増えて、砂が圧力と高温で変性した珪岩が増える。例えば下流のヴィニンゲンのウーレンにある、Roth Layと呼ばれる区画は粘板岩よりも珪岩が主体になっている。また、同じウーレンでもRoth Layの隣のLaubachと呼ばれる区画では、灰色の粘板岩に多量の貝や甲殻類の化石が混じっている。つまり石灰質の含有量が高く、それが区画ごとのワインの味わいに影響している。

このように、色も粒子の大きさも異なる粘板岩が分布するモーゼルの葡萄畑は、蛇行によって斜面の向き、傾斜、地形、高度、風の通り道や岩石の大きさと土壌に占める割合、深さなど、そのテロワールは実に様々なヴァラエティに富んでいる。一説にはブラウシーファーは繊細さと冷涼感、ロートシーファーはニュアンスと気品が特徴とも言われるが、果たしてどうだろうか。概論の後試飲に移った。


(つづく)





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Last updated  2013/12/18 12:56:09 AM
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李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002 @ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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