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2006.03.09
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カテゴリ: 映画-な・は行
-1987年作品-

[監督] 市川準
[出演]  (森下麦子・鈴女) 富田靖子、 (胡蝶) 大楠道子
(揚羽) 伊藤かずえ、 (津田邦彦) 高嶋政宏


BU・SU2

▲似顔絵は森下麦子役の富田靖子さん

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BU・SUという、挑発的なタイトルです。
けれど内容は、静かな青春映画であります。
もちろん、それまでの青春映画が全て、叫んだり、走ったり、熱く語ったりしたわけではなですが、この映画の静かな感覚はとくに自分にあっていました。

また公開当時、主人公と自分の年齢が近かったせいもあり、これといった目標もなく、何をやっても中途半端、今いる場所にも何となく違和感を感じている主人公の気持ちが、なんとなく分かる気がしました。

【逃げまくれば、何か見つかるかもしれない】
主人公、麦子(富田靖子)は高校に通いながら、鈴女という名前で芸者の見習いをやっている。
実家ではいろいろあったらしく、蔦谷という芸者屋を営んでいるおばさん(大楠道子)の家に居候しているのだ。(実家でのことは、何かがあったらしいのだが、多くは語られない)
けれど、学校にもなじめないまま、芸者見習いにも身が入らず、結局、町をふらふらする日々を送る。


それを知ったおばさんの、麦子に言ったセリフは特に印象に残っています。

「いいから学校なんてもうやめちまいな。故郷から逃げて、この蔦谷からも逃げて、逃げて逃げて逃げまくればいいよ。そうやって逃げてるうちに何か見つかるかもしれないねェ」

おばさんは、どなりつけるのではない。
麦子の目を見ながら、叱るのでもない。
ただ静かに、ちょっと突き放したように「逃げれば何か見つかるかもしれない」という叱り方が、この映画らしいと感じました。


BU・SU画像1


【人形浄瑠璃】
麦子は学校の文化祭で、人形浄瑠璃「八百屋のお七」を踊ることになるのだが、もちろん自分から踊ると言ったわけではなく、やる気もまったくない。
けれどもある晩、コンプレックスを持っているのは自分だけではないという事に気づき、まわりの全てが嫌いになっていた気持ちに変化がおこり、猛練習の後、本番を迎える。

踊りは途中までとても良かったのだが、舞台が壊れ結局失敗に終わる。
するとボクシング部の津田(高嶋政宏)がやってきて、麦子をグラウンドにつれて行く。
(クラスの人気者であった彼にも、実は家族に対するコンプレックスがあったことが途中で分かる)
グランドには文化祭のファイアーストーム用に用意していた薪が積んであり、津田は麦子にランプを渡す。
麦子はランプを投げ、薪に火をける。


このラストがいいんですよね。
舞台の「八百屋のお七」では、江戸の町に火を点けることはできなかったんだけど、麦子はファイアーストームに火を点けることで、「八百屋のお七」は見事完結する。
そして最後に顔を洗うんだけど、はればれとしたその笑顔が麦子の気持ちを良く表していたと思いました。
(映画の途中、バレーの授業の後で同じように顔を洗う時には、何か暗い顔をしている)
もちろん、これで全ての状況が変わったわけでもない。
けれど今までの、全てが嫌いという気持ちからほんのちょっとでも、周りの世界を受け入れるようになった気持ちがとてもうれしい。


BU・SU画像2


この映画では、何か起きても多くは語りません。
静かに、ちょっと距離をおいています。
けれどその距離感が自分にはとても新鮮で、何度も繰り返して見た映画でした。

(エンディングの富田靖子さんの白黒写真と、バックで流れる原由子さんの「あじさいのうた」がまたいいんです)


BU・SU画像3


2008年9月にお亡くなりになった市川準監督。
とても残念で仕方ありません。
市川準監督が作られた『BU・SU』というこの映画は、自分にとって心の中でずっと抱きしめていたいような、本当に宝物のような作品です。
市川準監督のご冥福を心からお祈りしたいと思います。


パンフ&チラシ:BU・SU

▲パンフとチラシ

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2009年10月28日発売Memories of 市川準 DVD-BOX





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Last updated  2010.03.29 12:44:35
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