「おむすびがない・・・・」
ということは誰かが持ち去ったに違いありません。
かすかに声も聞こえたのです。
「おむすびコロリンすっとんとん・・・・」
はっきりとその声が「神様」の耳にも残っていました。
「コリャ・・・誰かそばでこっちを覗ってる奴がいるな?」
その時、声が・・・・声だけが聞こえました。
「お前達早いよ・・・早すぎるよ!」
「誰だ!・・・出てこい!」
「俺たちのルールでは・・・・おむすびは2つ落ちてくることになっているんだ。・・・それなのに、お前達は一個しか落とさなかっただろ?」
なるほど、確かに民話では最初に一個落とし、歌声が聞こえたのが面白くって2個目も落とすことになっていました。
「ああ・・・そりゃあ・・・マロが悪かった」
そういうと「神様」は呪文を軽く唱え、そこへ大きな皿に乗っかったおむすび10個ほどを出したのです。
そのとたん、今までどこに隠れていたものか・・・何百匹というネズミが現れたのです。
そして見る見るうちに「大広間」はネズミで覆いつくされました。
「キャー!気持ち悪い!」
「孔雀」は大声で叫び続けます。
「そんなに気持ち悪がらんでもいいじゃろう・・」
一番奥にいて、ネズミたちがおむすびに群がっているのをじっと見ていた長老ネズミが「神様」たちに声をかけます。
「お前さん・・・なにものじゃね?」
長老ネズミがそういいながら「神様」たちに近づいてくると、その通路のネズミたちはいっせいに道をあけたのです。
「マロか?・・・マロは神様じゃ」
「ほう・・・お前様は神様か?・・」
長老ネズミは珍しそうに神様を眺め回しました。
「お前様は日本の神様ですかな?・・・・見たところ異相の姿をしてらっしゃいますが・・・」
「神様」は前のお話で高校生のお姿になってから・・・・ジーンズにTシャツがお気に入りで・・・・この日も白地に黒い文字で「御意見無用」と書いてあるTシャツを着ていました。
しかし、「孔雀」はあいかわらず十二単でしたから、すぐに日本の神様だと思ったらしいのです。
「マロは純日本産の神じゃ」
「神様」は胸を張って答えます。
「それならば・・・・私たちがおむすびコロリンのネズミだというのはおわかりですな。」
「おそらくそうであろうと思っておった。」
「それでは、私たちがおむすびの落ちてくるのを待っているということもおわかりですね」
「そうなのか?・・・マロは知らんかったが」
「神様ともあろうお方が・・・わからなかったですと?」
「偶然落ちてきたおむすびが美味しかったんじゃろうと思っておったんじゃが」
「わしらはおむすびなんぞ・・・・ただ飯粒の塊ではありませんか・・・・あんなものに喜びは致しません」
「しかし、今こうして・・・マロの出したおむすびに群がっておるではないか?」
「それは・・・わけがあるからでございます。」
言葉遣いがだんだん丁寧になってきた長老ネズミはさらに言葉を続けます。
「食べ物はこの天国にいる限り・・・いつでも霞を食べることができます。・・・しかし、わしらは硬いものを食べていないと歯が伸びてきてこまるのですじゃ。」
「そんなことを申しても、おむすびじゃとて柔らかいぞ?」
「しかし、霞よりは硬いものでございます。・・・・・ですから時々こうして穴から落ちてくる食べ物には仲間達が群がるのでございます。」
「それならば、外に出て食べ物を探すとか・・・・おお、そうじゃ・・・マロは聞いたことがあるのじゃが、お前達はたくさんのお宝を持っておるそうではないか・・・・それで買い物をすればよいではないか。・・・・・」
「外に出て安全ならばそう致します。・・・・・しかしこのネズミ穴の周りには最近2匹の猫が住み着いておりましてのう・・・・」
「お前達はいろいろなものに化けられるのではないか?」
「確かに天国におりますから、大きくなったり小さくなったり・・・化けたりはできるのですが・・・・匂いだけは消すことができませんのじゃ」
「そんなにネズミの匂いはせんがのう・・」
「猫の嗅覚を侮ってはいけません」
「その猫が怖くて外に出られんと申すのじゃな?・・・たかが二匹なのに」
「それが実に獰猛な猫でして・・・・」
「天国に住むからには・・・獰猛な猫はおらんじゃろう?」
「ところが、天国では最近、有名になると来れるようになってきてまして・・」
「つまり信者の多い猫じゃから、宗教の教祖のようになっておるのじゃな?」
「その通りでございます」
「困った風潮じゃのう・・・・最近は人気さえあれば代議士にもなれる・・・・人間の世界と同じになってきてしもうた」
「仰せの通り・・・・・」
「その猫の名前は?」
「一匹は、トムと申しまして・・・アメリカの猫でございます。・・・・現世では我々ネズミ族の一匹に翻弄され・・・・かなりネズミに恨みを持っておりますのじゃ」
「もう一匹は?」
「それが・・・・もう一匹はどうにもわからないのでございます。」
「わからない?」
「我々の秘密情報組織チュー・アイ・エーをもってしても・・・・」
「実際はおらんのではないのか?」
「いえ、確実におります。・・・・・・スパイとして外に出たネズミ一匹が、その猫に襲われまして・・・・命からがら逃げ出してきたのですが・・・・穴にたどり着き・・そのまま息絶えたのでございます。・・・・その際・・・・三毛猫に襲われたと・・・・申し遅れましたがトムは三毛猫ではございません。」
「それってもしかしてホームズ?」
「孔雀」が口を挟みます。
「誰じゃそれは?・・・・お前存じておるのか?」
「アタクシ以前推理小説にはまりまして・・・・」
「おう・・・明探偵ホームズか・・・それならわしも知っておるが・・・あれはイギリスの人間じゃぞ?」
「そうではございません・・・・三毛猫ホームズという猫がおりまして・・・あれならかなり有名でございます。」
「ほう・・・もしかしたらそうかな・・・・」
今度は長老ネズミが口を挟みます。
「いえ・・・・・わし達のスパイ網でも調べたのでございますが・・・・あの猫はまだ現世にとどまっておるようで・・・」
「ほう・・・それでは・・・・ここにいる謎の猫・・・・一体誰なんじゃろう?」
どうやら「神様」はネズミの応援をするようになりそうです。
続く
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