卒業式の直後にある軽音楽部のライブを明日に控えた視聴覚室は、仮設ステージ用に運ばれたビールケースと机の余りがまだ乱雑に放り出されていて、ミキサーから伸びたケーブルはむき出しのまま床に伸びている。ステージの上では音響チェックが始まっていて、ディストーションとクリーントーンのカッティングの音がギターアンプから交互に繰り返されていた。3年生が引退して2年生が主役になれるライブなんだってマナブは張り切っていたけれど、助っ人で入った僕にとっては半分はどうでも良かった。ツカサは最後までJUDY AND MARYを唄うことを拒んでいたから、たぶんもっとどうでもいいと思っていると思う。JUDY AND MARYの『クラシック』の歌詞を英語に翻訳して唄うことで、ツカサはやっとマナブとバンドを組むことを了承したらしい。さすがは元・優等生だと思った。中学生の時から彼女を知ってる人間はみんな口を揃えて「変わった」と言う。その中のひとりであるところの僕は、同じバンドメンバーにでもならない限り、たぶん彼女と口をきかないまま来年の3月を迎えた筈だった。元・優等生は高校入学後、少ししてからカート・コバーンを敬愛するようになったらしい。その頃の僕はNIRVANAはSmells Like Teen Spiritしか知らなかったし、彼女はそんなクラスメイトたちのことを知ろうとしなかった。
視聴覚室の窓を覆う暗幕の隙間から外を見た。僕らの住んでいた山間の街ではこの時期には梅も花を咲かせない。誰がつけたのか"Spring Has Come!!"と銘打たれたライブの当日は、予報によると雪が降るらしい。春はまだ来ない。