存生記

存生記

2006年06月30日
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スタン・ブラッケージ作品集の2と3をビデオで見る。1については2006年2月15日のブログで書いた。その他の作品も気になっていて「DOG STAR MAN」と一緒にビデオを取り寄せてみたのである。

BRAKHAGE EYES 2 (41分)
FIRE OF WATERS 16mm B&W 7min. 1965 
思い出のシリウス SIRIUS REMEMBERED 16mm color 11min. 1959
THE DEAD 16mm color 11min. 1960
窓のしずくと動く赤ん坊 WINDOW WATER BABY MOVING 16mm color 12min. 1959 

BRAKHAGE EYES 3 (36分)
MOTHLIGHT 16mm color 4min. 1963
自分自身の眼で見る行為 THE ACT OF SEEING WITH ONE'S OWN EYES 16mm color 32min. 1971

 パッケージの解説文にブラッケージの作品がバッハのフーガに比せられていたが、そんなに整然とした作風ではないだろう。むしろ猛スピードで生成する混沌とした世界を生け捕りにしたような映像でバッハ的な安寧の秩序、あるいは「バッハのフーガ」と形容する言語からはみ出てしまうような世界が展開されている。むしろノイズや不協和音をふんだんに用いた現代音楽に近いのではないか。かなりの負荷が視神経その他にかかるので、人に勧められるような作品ではない。下手をしたら恨まれることになる。

 「自分自身の眼で見る行為」はまさにその典型で、今までに夥しいグロテスクな映像を見てきたが、これがベストワン?だと断言できる。いや、グロテスクという形容もふさわしくない。それほど身も蓋もない即物的な人体が撮られている。死体検死所に次々に運び込まれる死体。老いた男もいれば若い女もいる。二人がかりで死体の寸法を測る。太い注射器を指して血液を吸い取る。頭蓋骨をかちわり、脳味噌を取り出す。「ネジ巻き鳥クロニクル」に出てきた皮剥ぎボリスのように頭皮を綺麗に剥がしてしまう。腹を裂き、内臓を取り出して検分する。なんとも凄まじい仕事だ。バラバラ殺人なんてたいしたことはないと思うほどだ。家畜の解体のような作業が終わると、男も女も惨殺されたエイリアンのようになっている。しなびた力無い性器がクローズアップされるが、ボカシはない。死体そのものが猥褻なのだから、ここだけボカしても意味はないだろう。

 「窓のしずくと動く赤ん坊」は出産シーンが撮られている。女性器から赤ん坊が引き出されるシーンも「グロテスク」ではあるが、「自分自身の眼で見る行為」と並べてみると、生まれてくるのも死んでゆくのも醜悪な面を伴うことを強く感じさせる。美と醜は表裏一体といってしまえばそれまでだが、そうした図式化を揺るがすのがこの作品の映像の力であろう。先日、「ミクロコスモス」を若い人たちに見てもらったが、虫たちの生態を目の当たりにして、気持ち悪がる子とそこにある種の神々しさを見出す子に分かれたのがおもしろかった。カタツムリたちの抱擁は、一見するとグロテスクである。「キモイよう」と目を覆ってしまう子は、自分も生物の一員だという事実から目をそらしている。形なきものへと帰っていく生命の仮借なき真実を抑圧しているとも言える。

虫は確かに気持ち悪い。部屋にそれなりの大きさの虫がいたらパニックになるかもしれない。虫が侵入することによって、馴致した空間が異質なものに脅かされるから不気味に覚えるのだ。生命を単純に礼賛すると嘘くさいヒューマニズムになりがちだが、「ミクロコスモス」は虫にこだわることで生命の普遍性に切り込むことができた。要するに、「ミクロコスモス」のように虫を撮ったり、あるいはブラッケージのように死体を撮ることによって、生命の持つ輝きと暗さに迫ることができる。生命を礼賛するロマン主義でもなく、死に取り憑かれたリアリズムでもなく、生と死を同時に考察すること。死体を見ることさえも社会や文化によって馴致された見方――グロ画像、倒錯した享楽――へと誘導されるとすれば、自分自身の眼で死体を見ることはかなり困難な作業であるはずだ。それはおそらく見ることのできない死を、死体を通じて感知しようとすることだからだろう。
brakhage





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最終更新日  2006年06月30日 23時07分22秒


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