存生記

存生記

2006年07月01日
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斉藤美奈子、『紅一点論』、ちくま文庫、2001年。

 アニメと伝記における紅一点のヒロインについて論じられている。紅一点の女性は、誰によってどんな理由で選ばれたのか。また、紅一点のヒロイン像と偉人伝の女性像が時代とともに変化を迫られている状況も浮き彫りにされている。

アニメでは、桃太郎文化の「男の子の国」とシンデレラ文化の「女の子の国」に分かれている。アニメは、男の子らしく女の子らしく育つように仕組まれている。野球選手たちが女子マネージャーを取り合う構図などは、一般的には「男の子の国」の産物だと言えるだろう。本書でも「宇宙戦艦ヤマト」は高校野球部であり、紅一点の森ユキは女子マネだと喝破されている。本書では、番組名の語感の分析から細かくそれぞれの特徴を挙げられ、男の子は組織に滅私奉公することが正義であるような、そしてそのストレスは風呂場をのぞくことによって解消するような軍事とセクハラの世界に、女の子は理想の王子様に出会うことが幸福であるかのような色ボケした恋愛の世界に空想をめぐらす仕掛けになっている。

宮崎アニメは、なぜ主人公が女の子ばかりなのかという点にも触れている。男がヒーローを演じる物語にリアリティがなくなってきている、という言ってみれば20世紀以降の文学の問題がからんでいる。「女の子の国」を描き直すことによって「男の子の国」を批判する視点が宮崎アニメには見られるという。戦えないヒーローと戦うヒロインの時代だと総括されている。現代でリアリティを持ちうるヒーローというと、せいぜいスポーツ選手だろうか。日本人で世界でもトップレベルのスポーツ選手など一握りにすぎないから、感情移入できるような身近さはないけれども。

紅一点は、「クインビー症候群」と揶揄されるオトコ社会で例外的に成功した「名誉男性的女性」と「バタフライ症候群」という苦労を回避して意図的に伝統的な性役割によって成功しようとする女性に分けられる。どちらも病人扱いされているのが、これまた一つの症候群だと揶揄したくなるが、アニメではこれらの女性像が理想の女性像だとされて量産され続けてきたのだという。要するに、現実社会への適応を第一と考え、その変革へと努力することのない女性像を押しつけていることへの批判があるのだろう。ローザ・ルクセンブルグの子供向け伝記が日本にないという指摘は、あまり政治的な女性に育って欲しくないという社会の教育的配慮が働いているのだろう。

このような批判は、キュリー夫人、ナイチンゲール、ヘレン・ケラーといった人たちの伝記にも向けられる。子供向けの偉人伝には、哲学者や政治家が少なく、芸術家や科学者が多いと批判されているが、子供に哲学者の偉大さを教えるのは難しいという現実的な理由もきっとあるのだろう。いずれにしても、白人の偉人が多く黒人やヒスパニックの偉人が少ないといった偏りがあることは確かだ。本書では、キュリー夫人、ナイチンゲール、ヘレン・ケラーといった人たちが「偉人伝」にはない人間臭い面をもっていたことが明らかにされている。聖人君子や清貧の人というのは敬して遠ざけたくなるような退屈さをおぼえるが、ヘレン・ケラーは芸人のように演説をこなす達者な人だったそうである。子供の頃に読んだ伝記では、サリヴァン先生とのWATERのエピソードが印象に残るばかりで、スピーチやユーモアの達人としての大人のヘレン・ケラーについては記憶がない。

ともするとフェミニズム的な著作というのは、御説ごもっともと思いながらも一本調子の男性社会批判の退屈さにうんざりするのだが、この人の文体にはところどころクスリとするようなスパイスがきいているので最後まで読み通すことができた。根底に相当な憤怒のパトスが著者にはあって、それが筆を走らせているようで、そのエネルギーがあるおかげで頁を繰ることができる。

描かれている女性像にリアリティがない、オトコの勝手な妄想の産物だという指摘は、そりゃそうだろうと言うほかないのであって、現実逃避的なファンタジーの役割を引き受ければそうなってしまうのは物の道理である。すべてがそういった紋切り型の女性像であったら退屈だし、男性の読者も減っていくに違いないわけだから、実際には創作や営業のしかるべき努力はあるはずである。他方で、メイド喫茶ブームのように、イメクラ遊びにオトコもオンナもはまっている現象というのは、妄想は妄想と割り切って演じてしまおう、演じてもらおうという確信犯的な退行・倒錯趣味も認められる。そう考えると、紅一点というロマンチックイデオロギーは、複雑でストレスに満ちたオトナ社会の産物であるという点において、手をかえ品をかえてこれからもしぶとく生き延びそうである。





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最終更新日  2006年07月01日 17時03分22秒


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