存生記

存生記

2010年01月17日
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「レスラー」のDVD。盛りの過ぎたレスラーが心臓発作で引退を余儀なくされる。近所の子供とテレビゲームをしたり、ほったらかしにしていた娘と和解しようとしたり、年増のストリッパーを口説いたりする。生き急いだツケを払わされて右往左往している感じだ。特に流血しまくりのプロレスシーンと同じくらい、主人公がスーパーの総菜屋で働く場面が痛い。明らかに雇用のミスマッチである。プロレスシーンより痛いシーンかもしれない。そういえば、心臓発作を気遣うストリッパーに「外の現実のほうが痛い」と主人公がぼやく場面があった。

総菜屋の客や上司に比べてプロレスの客やスタッフは暖かい。「アンヴィル」ではプロモーターと喧嘩するくだりもあったが、この映画では人気が衰えて年をとっても、これまでの付き合いの蓄積があってか和気藹々としている。

プロレスにはフィクションの要素もあることは小学生でも知っていることかもしれない。だが、フィクションのなかに現れる真実については気づかなかったりする。カール・ドライヤー監督のジャンヌ・ダルクの拷問シーンは、本当に痛めつけていたなんて裏話を聞いたことがある。観客は迫真の演技だと思ってリアルな表現を目にしているわけだ。ヒッチコックの映画もヒッチコックの性格を知れば知るほど、女優の演技に釘付けになる。

プロレスファンもきっとそうしたリアルで濃密な瞬間が噴出するときをいまかいまかと待ち受けているのだろう。ラストの宙に舞う決死の必殺技に見入る観客は、レスラーの人生が瞬間的に凝縮され啓示される神々しい場面を期待している。会場には同じように体を張る仕事に身を削ってきた例のストリッパーの彼女もいる。まさにここという場所と時に人生のピリオドを打つことは実に難しいことだが、この映画では戦いの神が最後に微笑んだ(と理解したい)。





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最終更新日  2010年01月17日 23時45分44秒


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