福内鬼外(月日が往く)
1
深い山峡にある古めかしい旅館【仙石楼】。一面雪景色の庭の中、突如現れたのは・・・坊主の死体だった!事件の幕が開いた。随分と簡単な導入ですが、いくらでも細かくなってしまいそうなのでこれくらいで(笑)まずはいつものように、【画面百鬼夜行】の怪しげな「絵」(“鉄鼠”)、古典からの引用文がそれに続き(“太平記巻十五”)、思わせぶりなプロローグへと。もうこれだけで、すっかり京極堂の世界へと導かれてしまいます(笑)箱根の山の奥深き処。やがて起きる事件の舞台の一つとなる【仙石楼】。「威風堂堂と云うか古色蒼然と云うか、旧態依然と云うか瓦解寸前というか-」by鳥口そして更に山中をいくと・・・聳え立つ、謎の巨刹【明慧寺】。京極堂もその存在を知らなかったという、明らかに普通ではない寺。二つの舞台を行き交いし、続々と不思議な事件が起こる。そしてもちろん登場するお馴染みの人物たち。【古本屋(京極堂)の主人兼憑き物の落としの拝み屋】中禅寺秋彦。秋彦の妹で、頭脳明晰、凛とした美女【辣腕編集者】敦子。事件解決に必要なものを悉く放棄する、自称世界一偉い【探偵】榎木津。逆境に強く順境に弱い【小説家】関口。常に喩え間違える【雑誌編集者】鳥口。もっとマシな紹介の仕方もあるのでしょうが・・・特に(関・鳥)口。他にも、骨董屋・今川、老医師・久遠寺、警部補・山下なども人物造形がとてもしっかりしていて、一人の人物をずっと追っていっても面白い。今回、榎木津の友人でもある刑事・木場は出てこないが、その分、豊富な僧がカバーしてます(笑)そしてもちろん、ストーリーのほうも流石の構成力で読み応え充分。常に感じている違和感の正体は?犯人はいったい誰なのか?そしてその目的とは?それぞれが囚われた【檻】が意味する物は?インパクト、巧さという点では『魍魎の匣』に軍配があがると思うが、このボリューム感はやはりなかなか他では味わえないもの。当然、薀蓄もたっぷりです。科学と怪異、禅と哲学、それぞれの性格の違い。【悟り】をはじめとする“禅”についての京極堂の講釈など。小難しく、理解出来ていない部分も多いのだろうが、とても興味深く面白いし、何となく分かったような気にもなってしまうのがまた良いです(笑)本文から幾つか。・無責任な立場が齎す解放感の裏には喪失感がつき纏う。P43・「肉体労働はしないと十四の頃に決めたんだ。」by京極堂 P214・「腹が減っては藺草(いぐさ)は編めぬ。」by鳥口 P308 (あざといが)・「榎木津は水気のない菓子と竃馬(かまどうま)がなにより嫌いなんだ」by京極堂 P710・自信を失った自信家程情けないものはない P1091・思い出すと云うことは思い出を殺すことなのだ。 P1136・時間に追われぬ解放感と云うのは時間に縛られてこその解放感である。 P1220・「この世には ― 不思議なものなど何ひとつないのだよ。関口君」本来なら、「禅」についての箇所を抜き出すべきだろうが、長いし、たくさん書き出したくなってしまうので、少し主題から外れたところを選択しました。さて、この本はいろいろあって思い出深い一冊となりました。読了後の私の本は、他の本とは少し違います。鼠に齧られたのならば、雰囲気も出てよいのですが(笑)ほんのちょっと油断したら容量が増えていた!まぁ、この話はもういいか。とにかく“見ずに水に!”とならないように注意!世間が新刊にわくなかで、何とかシリーズ4作目。はやく追いつきたいものです。なお、日記でとりあげた作品、アンソロジーを除くと・・・ちょうど <<【100冊目】>>!!とりあげる順番の問題もありますが。50冊目は筒井さんでした。切りのいいところはやはり大御所を。それにしてもよく続いたものです。この異常に読みにくい、ひとりよがりの本の感想を、読んでくださった方々、本当にありがとうございました。丁度100冊をもちまして、終了させていただきます、というわけでもありませんが、今後ともよろしくお願い致します。
2003年08月18日
閲覧総数 298