Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

2013/07/24
XML
カテゴリ: カクテルブック
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

4.ダイキリ(Daiquiri)

 ダイキリは、現代のバーでもとても人気のあるショート・カクテルです。 「1898年(1896年説もあり)、キューバのダイキリ鉱山で働いていた米国人技師のジェニングス・コックス(Jennings Cox)が考案し、鉱山の名前にちなんで名づけた」 という説があまりにも有名で、国内外のカクテルブックや専門サイトの多くは、この説を紹介していますが、その信憑性は?です。

 カクテル研究家の石垣憲一氏は、その著書「カクテル ホントのうんちく話」(2008年刊)で、「なるほどコックスなる人物はいたかもしれないし、現地(ダイキリ鉱山)では当たり前のように飲まれていたドリンクかもしれないが、それ以前から英海軍では飲まれていたし、実は誕生したのは英海軍でもなく、キューバ国内ではもっと以前から普通に飲まれていたドリンクだった」との見解を述べています。

 現代の標準的なレシピは、 ホワイト・ラム4分3、ライム・ジュース4分の1、シュガー・シロップ(またはガム・シロップ)1tsp (シェイク)です。
 ところが、欧米のカクテルブックでは初めて登場するハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)の 「ABC Of Mixing Cocktails」(1919年)では、ラム3分の2、ライム・ジュース6分の1、グレナディン・シロップ6分の1 というレシピになっています。s-IMG_3952.jpg

 「えっ! グレナディン・シロップ?!」と多くの方が驚かれると思いますが、これには訳があります。「ダイキリ」はもともと、バカルディ社のラムを使って一世を風靡した「バカルディ・カクテル」(ラム、ライム・ジュース、グレナディン・シロップ)のバリエーションとして生まれたといわれます(当初は、ライム・ジュースは入っていなかったようですが)。

 従って1910年代は、「ダイキリ」と言えども、グレナディン・シロップを入れるレシピも珍しくなかったようです。実際、1922年、ロンドンのエンバシー・クラブ(The Embassy Club)に勤めていたロバート・ヴァーマイヤー(Robert Vermeire)の著した「Cocktails: How To Mix Them」でも、ダイキリにはグレナディン・シロップが使われています( 写真 =Daiquiri @ Bar Cadboll)。

 それがその後、シュガー・シロップやガム・シロップなど、白や透明なシュガー(またはシロップ)を使うレシピへと変化していきます。 マッケルホーンが「ABC Of …」を編んでいた1910年代とその後の20年代は、そういう過渡期だったと言えます。 ちなみにマッケルホーン自身も、その後の改訂版では、グレナディン・シロップとは書かず、単にシュガーと記すだけにとどめています。

 ちなみに、1910~30年代の欧米の主なカクテルブックでの「ダイキリ」の登場状況は、以下の通りです。
・「173 Pre-Prohibition Cocktails」 (トム・ブロック著 1917年刊)米 
  → 収録なし(バカルディ・カクテルは登場するが)
・「Cocktails: How To Mix Them」 (ロバート・ヴァーマイヤー著 1922年刊)英 
  ラム3分の2、ライム・ジュース3分の1、グレナディン・シロップ少々
・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著 1930年刊)英 
  ラム1グラス、ライム・ジュース2分の1個分(またはレモン・ジュース4分の1個分)、パウダー・シュガー1tsp(ティー・スプーン)
・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイヤー著 1934年刊)仏
  ラム2分の1、ライム・ジュース2分の1個分、シュガー2分の1tsp
・「The Old Waldolf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米 
  ラム1グラス、ライム・ジュース2分の1個分、パウダー・シュガー1tsp
・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年刊)米 
  ラム45ml、ライム・ジュース1個分、パウダー・シュガー1tsp
・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英
  ラム4分の3、ライム(またはレモン)・ジュース4分の1、ガム・シロップ3dash

 なおダイキリは日本には、1920年代前半には伝わり、 1924年刊の「コクテール」(前田米吉著)にも登場 していますが、50~60年代くらいまでは、やはりグレナディン・シロップを使うレシピが一般的でした(村井洋著・JBA編「スタンダード・カクテルブック」=1936年刊=ほか多数)。調べた限りでは、日本のカクテルブックで シュガー・シロップを使うダイキリが登場するのは、1954年刊の「世界コクテール飲物辞典」(佐藤紅霞著)が最初 です。

 しかし、その後も60年代はグレナディン・シロップ派が優勢で、シュガー・シロップ(またはパウダー・シュガー)を使うレシピが一般的になるのは70年代になってからです。マッケルホーンのカクテルブックやロンドンのエンバシー・クラブのレシピが日本に最初に伝わった影響が大きいとのではないかと推察しています。


【追記】 マッケルホーンの「ABC Of …」の初版本では、ダイキリは「Dacqueri」と表記されています。同時代の他のカクテルブックでこのように綴る例は現時点では見当たりません。ただし、初期にはこういう表記(綴り)があったのか、それとも単なる誤記なのか、あるいはマッケルホーン自身が耳で聞いた音を文字に換えたのかは、今のところ定かではありません。






PR

Profile

うらんかんろ

うらんかんろ

Comments

kopn0822 @ 1929年当時のカポネの年収 (1929年当時) 1ドル=2.5円 10ドル=25円 10…
汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

Free Space

▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

神戸の残り香 [ 成田一徹 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2021/5/29時点)


▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。 ▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。

Favorite Blog

おことわり。 はなだんなさん

LADY BIRD の こんな… Lady Birdさん
きのこ徒然日誌  … aracashiさん
きんちゃんの部屋へ… きんちゃん1690さん
猫じゃらしの猫まんま 武則天さん
久里風のホームページ 久里風さん
閑話休題 ~今日を… 汪(ワン)さん
BARで描く絵日記 パブデ・ピカソさん
ブログ版 南堀江法… やまうち27さん
イタリアワインと音… yoda3さん

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: