Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2016/12/19
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22.チェリー・ブロッサム(Cherry Blossom)

【現代の標準的レシピ】 (単位ml) ブランデー(40)、チェリー・ブランデー(10)、レモン・ジュース(10)、トリプルセックまたはオレンジ・キュラソー1tsp、グレナディン・シロップ1tsp、飾り=マラスキーノ・チェリー 【スタイル】 シェイク 

 「チェリー・ブロッサム」は、かの歴史的名著『サヴォイ・カクテルブック(The Savoy Cocktail Book)』(ハリー・クラドック<Harry Craddock>著、1930年刊)にも収録されています。世界的にも知られるクラシック・カクテルで、現在では「スタンダード」の一つにも数えられています。

 日本のカクテルブック等ではこれまで、「1923年(大正12年)、横浜・伊勢佐木町にあったバー『カフェ・ド・パリ』(1923年の開業後、関内に移転し「パリ」と改名)のオーナー、田尾多三郎氏が、日本を代表する花・サクラをイメージして考案した」とよく紹介され(出典:Wikipedia日本語版ほか)、当時横浜港を拠点にして世界と行き来した外国航路の客船を通じて世界へ伝わったと言われてきました。

 しかし、『サヴォイ…』でのレシピは、「ブランデー2、チェリー・ブランデー2&2分の1グラス、キュラソー1tsp、グレナデン・シロップ1、レモン・ジュース1(シェイク)=6人分」という、(他のカクテルのレシピと比べても)曖昧な表記になっており、本の中では「田尾氏の名前や日本生まれ云々」については一切触れられていません。

 田尾氏は、店を始める前は日本の貿易会社のブエノスアイレス(アルゼンチンの首都)駐在員でしたが、絹の輸出を担当しながらお酒のことを勉強し、帰国後、「カフェ・ド・パリ」を開いたそうです(出典:geocities.jp/legend_bar/cocktail.html)。田尾氏が残したレシピ資料は現存しているそうですが、確認した限りでは、過去に公開されたことはなく、詳細は不明でした。

 ところが2020年5月、私も懇意にして頂いている横浜のバーテンダー、北條智之氏(バー「ネマニャ」オーナー)がご自身のブログ上で、独自の取材&調査研究に基づいて、現在一般的に知られている「チェリー・ブロッサム」の田尾氏考案説に疑問を投げかける記事を執筆されたのです(北條氏は、カクテル史の研究にも熱心な素晴らしいバーテンダーです)。

 北條氏のブログを要約すれば、以下のようになります。
・北條氏自身が、バー「パリ」で田尾氏の奥様=現在は故人=から聞いた話によると、「多三郎氏は当時、カナディアン・クラブ(ウイスキー)のキャンペーンをきっかけに創作した。レシピは、カナディアン・クラブをベースに、チェリー・ブランデー(銘柄はピーター・ヒーリング)、スイート・ベルモット(同チンザノ・ロッソ)などを加え、チェリーを沈めたカクテルだった」という。

・一般的には、ブランデー・ベースのレシピは『サヴォイ…』が初出で、著者のクラドック氏が独自にアレンジしたうえで、収録したと考えられてきた(※クラドック氏が田尾氏のレシピを知っていたかは不明)。

・しかし、古いカクテルブックを調べていたら、1900年にパリで出版された『American Bar』(Frank Newman著)に、現代とほぼ同じブランデー・ベースの「チェリー・ブロッサム」が収録されていた。

・1900年と言えば、田尾氏(1893年生まれ)は7歳。「カフェ・ド・パリ」開業の23年前で、田尾氏がブランデー・ベースの「チェリー・ブロッサム」の考案者ではあり得ない。

 以上のことから、カクテル史を書き換えなければならない、2つの新たな事実が分かりました。
 一つには、 誰の考案かは不明ですが、1900年頃(あるいは1890年代に?)現在のブランデー・ベースの「チェリー・ブロッサム」はすでに誕生していた ということ。

 もう一点は、 田尾氏が当時、ブランデー・ベースの「チェリー・ブロッサム」を知っていたかどうかは知る由もありませんが、ウイスキー・ベースで偶然、同じ名前のカクテルを考案した。しかし、そのレシピは”門外秘出”となっていたため、国内の文献で紹介されることもなく、その後、日本に伝わったブランデー・ベースの「チェリー・ブロッサム」が、何かの理由で田尾氏のオリジナルと誤解されて広まってしまった ということ。

 ご参考までに、『サヴォイ…』以外の、1930~40年代のカクテルブックでの「チェリー・ブロッサム」を見ておきましょう。
 ・「World Drinks and How To Mix Them」(William Boothby著、1934年刊)
 ブランデー3分の1ジガー、チェリー・ブランデー3分の1ジガー、キュラソー1tsp、グレナディン・シロップ1tsp、レモン・ジュース1tsp(ジン・ベースの同名の別レシピ・カクテルも併せて収録しています)
 ・「Mr Boston Official Bartender's Guide」(1935年初版刊)
 ブランデー1オンス、チェリー・ブランデー1オンス、キュラソー4分の1tsp、グレナディン・シロップ4分の1tsp、レモン・ジュース4分の1tsp
 ・「Trader Vic's Bartender's Guide」(Victor Bergeron著、1947年刊) 
 ブランデー4分の3オンス、チェリー・ブランデー4分の3オンス、キュラソー2分の1tsp、グレナディン・シロップ2分の1tsp、レモン・ジュース2分の1tsp(ジン・ベースの同名の別レシピ・カクテルも併せて収録しています)
 ・「The Official Mixer's Manual」(Patrick G. Duffy著、1948年刊)
 ブランデー25ml、チェリー・ブランデー20ml、キュラソー1tsp、グレナディン・シロップ1tsp、レモン・ジュース1tsp

 なお、冒頭にレシピを紹介したブランデー・ベースが多数派ですが、欧米ではジン・ベースの「チェリー・ブロッサム」も見かけます(日本国内では、他にリキュール・ベースのものもあります)。

 ちなみに、ジン・ベースでのレシピをいくつか紹介しておきますと――。
(1)ジン(45)、ラズベリー・シロップ2dash、オレンジ・ビターズ2dash、卵白(1個分)。シェイクし、カクテルグラスに(出典:Wikipedia日本語版)。 
(2)ジン(30)、チェリー・リキュール(ライウイスキー・ベースの「Cherry Bounce」)(30)、ライム・ジュース(30)、バニラ・シロップ(15)、ビターズ1dash、ソーダ(適量)。シェイクし、氷を入れたトール・グラスに(出典:socialsutudies.com)

 バー「パリ」は田尾氏亡き後、奥様の幸子さんが継いでいましたが、奥様が他界された後、店は一度閉じられました。しかし2004年、田尾ご夫妻の息子さんの奥様が店を再開、現在は息子さんがスタンディング・バーとして営業を続けられているようです(出典:tabelog.com/kanagawa/A1401ほか)。多三郎氏直筆のチェリー・ブロッサムの「レシピ・カード」は今も店に残っているとのことです(見せてもらえるかは分かりませんが…)。

 なお、ブランデー・ベースの「チェリー・ブロッサム」は1930年代には日本にも伝わっていたはずですが、日本国内のカクテルブックで紹介されたのは戦後になってからです。

【確認できる日本初出資料】 「世界コクテール飲物辞典」(佐藤紅霞著、1954年刊)。収録されているレシピは「The Savoy Cocktail Book」とまったく同じです。


【おことわり】最新の知見に基づいて2025年、修正・追記いたしました。バー・ネマニャの北條智之氏の貴重な調査研究を参考にさせて頂いたことに、心から感謝いたします。



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Last updated  2026/02/19 03:30:10 PM
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kopn0822 @ 1929年当時のカポネの年収 (1929年当時) 1ドル=2.5円 10ドル=25円 10…
汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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