Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2018/09/16
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 87.トム&ジェリー(Tom & Jerry)

【現代の標準的なレシピ】 (液量単位はml)ダーク・ラム(30)、ブランデー(15)、卵黄(1個分に砂糖を加えてよくかき混ぜる)、卵白(1個分をよく泡立ててから使用する)、熱湯(または熱い牛乳)(適量)、砂糖1tsp、ナツメグ・パウダー(最後に振る) 【スタイル】 ビルド

 国内外のカクテルブック等では、19世紀の米国で(主にニューヨークで)活躍した伝説的なバーテンダー、ジェリー・トーマス(Jerry Thomas 1830~1885)が考案したと紹介されてきましたが、近年はこれを否定する見解が大勢で、19世紀初めから一般庶民の間で飲まれていたドリンクに起源があるとする意見が多数派です(出典:Wikipedia英語版ほか)。

 欧州でも似たようなホット・ドリンクがかなり古くから飲まれていたことは確実で、英海軍では18世紀中ごろ、「グロッグ」というカクテルをホット版にした(さらにアレンジも加えた)、このようなドリンクが普及していたと伝わっています(出典:Wikipedia日本語版)。

 一方、英国人ジャーナリストで劇作家のピアース・イーガン(Piearce Egan)が名付け親だという説も紹介されています(出典:Wikipedia英語版)。イーガンは1820年代に「米国では19世紀初めからクリスマスの時期に飲まれていた伝統的なドリンクだった」と書き残しています。そして1821年、自らが書いた戯曲「Life in London; or The Day and Night Scene of Tom and Jerry」の宣伝を兼ねて、この伝統的なドリンクを広く紹介し、「トム&ジェリー」と名付けたというのです。この舞台劇はロンドンでヒットし、その後1823年には米国でも上演されました。

 「トム&ジェリー」の名についても、以前はジェリー・トーマスの名前に由来する(トーマス自身が名付けた)という説が一般的でしたが、トーマス自身は自らのカクテルブックで誕生の経緯や名前の由来に一切触れていません。「トーマスの名前説」を記す専門サイトも、それを裏付けるデータ(資料)までは紹介していません(ちなみに、アニメの「Tom & Jerry」は1940年の完成・公開なので、このカクテルとは無関係です)。

 クラシック・カクテルの歴史に詳しい米国の作家、デヴィッド・ワンドリッチ氏は、自身の著書「Imbibe」で「トム&ジェリーの起源は、(マサチューセッツ州で現在でも発行されている週刊の新聞)『セーラム・ガゼット(Salem Gazette)』(1790年創刊)の1827年3月20日付に掲載された記事だ」と書いています。その記事は、13歳くらいの少年が窃盗で裁かれた警察法廷での出来事を次のように綴っています。
 「(少年は)頭がおかしくなった。おそらく(直前に)飲んでいた "地獄の酒(hell-broth) "のせいだろうと判断され、無罪となったのである。その飲み物とは『トムとジェリー』という名で、卵、砂糖、ナツメグ、ジンジャー、オールスパイス、ラムで作られる酒だ」(出典:https://www.chanticleersociety.org/index.php?title=Tom_and_Jerry)。

 しかしながら、冒頭に示したようなトム&ジェリーの「現代の標準的なレシピ」の原型をつくり、普及させたのはジェリー・トーマスと言っても間違いではないでしょう。トーマス・バージョンの考案年については、彼自身は「1847年」と言っています(出典:欧米の専門サイトなど多数)。

 ちなみに、トーマスのレシピは、米国で1862年に出版された彼の最初のカクテルブック「Jerry Thomas' Bartender's Guide: How to mix drinks, receipts for mixing」に収録されていますが、まず最初に、「ジャマイカラム Small glass0.5杯分、擦り下ろしたシナモン1.5tsp、 生卵(白身はよく泡立て、黄身は別途よくかき混ぜておく)、砂糖、クローブ&オールスパイス各0.5tsp」をよく混ぜて「Tom & Jerryのベース(the Mixture)」をつくった後、このベースのSmall bar glass1杯分にブランデーWine glass1杯分を合わせたものにお湯を注いで混ぜた後、最後に擦り下ろしたナツメグを上に振る」とあります(トーマスの言うGlassの大きさは不明です)。

 なお、トーマスは上記の著書の「Tom & Jerry」の項の最後に、注記として「このドリンクは『Copenhagen』または『Jerry Thomas』と呼ばれることもある」と記しています。Wikipedia日本語版は、「コペンハーゲン(Copenhagen)というカクテルはすでに存在したので、自らの名にちなんで『Tom & Jerry』と名付けた」いう説を紹介していますが、根拠としている出典は日本のカクテルブックなのでその信憑性は不明です。

 ご参考までにトーマス以降、1880年代~1930年代に出版された欧米のカクテルブックで、「トム&ジェリー」のレシピを見ておきましょう。

・Bartender's Munual(以下「BM」と略)(Harry Johnson著、1882年刊)米
 ベース(※上記Jerry Thomasのレシピ参照)2tsp、ブランデーWine glass1杯分、ジャマイカ・ラム pony glass( 【注1】 ご参照)1杯分、お湯またはホット・ミルク適量、ナツメグ・パウダーを振りかける  【注1】 かつて欧米で使われていた液量単位。1Ponyは約30ml。

・The Modern Bartender's Guide(O.H.Byron著、1884年刊)米
 ベース2tsp、ブランデーWine glass1杯分、ジャマイカ・ラムpony glass1杯分、お湯またはホット・ミルク適量、ナツメグ・パウダーを振りかける。

・American Bartender(William Boothby著、1891年刊)米
 ベース1tsp、コニャック1jigger( 【注2】 ご参照)、セントクロワ・ラム1dash、ホット・ミルク適量、ナツメグ・パウダーを振りかける。 【注2】 1jiggerの分量は英米で異なる。英国は1jigger=25ml(または35ml)だが、米国では1jigger=約45m(日本は米国と同じ)。このカクテルブックは米国人による米国での出版なので当然後者です。

・Modern American Drinks(George Kappeler著、1895年刊)米
 ベース2tsp、ブランデー0.5jigger、ラム0.5jigger、お湯またはホット・ミルク適量、ナツメグ・パウダーを振りかける。※1jiggerは約45ml

・Dary's Bartender's Encyclopedia(Tim Dary著、1903年刊)米 & ・Bartender's Guide:How to mix drinks(Wehman Brothers著、1912年刊)米 BMに同じ

・173 Pre-Prohibition Cocktails(Tom Bullock著、1917年刊)米
 ベース適量(※Mugに4分の1くらい)、 ブランデー0.5jigger、ラム0.5jigger、お湯適量、ナツメグ・パウダーを振りかける

・The Savoy Cocktail Book(Harry Craddock著、1930年刊)英
 ジャマイカ・ラムGlass半杯、ブランデーGlass半杯、パウダー・シュガー1tsp、生卵(白身を泡立てたものと別に黄身をかき混ぜたものをミックス)、お湯、ナツメグ・パウダーを振りかける

・The Artistry of Mixing Drinks(Frank Meier著、1934年刊)仏
 ベース1tsp、ブランデーglass1.5杯分、お湯またはホット・ミルク適量、ナツメグ・パウダーを振りかける

・Old Mr Boston Official Bartender's Guide(1935年初版刊)米
 ベース1tsp、ラム45ml、ホット・ミルク適量を混ぜた後、ブランデー15mlをフロートし、ナツメグ・パウダーを振りかける

 ちなみに、1994年に出版されたチャールズ・シューマンのカクテルブック「American Bar」での「トム&ジェリー」のレシピは以下のようになっています。
 ホワイト・ラム40ml、卵白(ホイップ)、卵黄(パウダー・シュガー1~2tspを加えてよく混ぜる)、耐熱グラスにラムと卵を入れ、熱いミルクを注ぎ、よくステアする。ナツメグを散らす(シューマンはブランデーは使わず、ホワイト・ラムだけを使っています)。

 「トム&ジェリー」は日本にも比較的早く1920年代初めまでには伝わり、20年代のカクテルブックでも紹介されています。

【確認できる日本初出資料】 「コクテール」(前田米吉著、1924年刊)。レシピは(原文のまま紹介すると)「ウオターグラスに角砂糖1個と熱いミルクを入れ、之にラム二分の一オンス、ブランデー二分の一オンスを加え、バースプーンにて攪き混ぜたる後、ナツメキの粉末を振ってすすめる」とあります。


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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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