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2007.04.06
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カテゴリ: その他
要は結末まで考えていないが、
敢えてこういう謎かけで終わっているのだ、
と格好を付けた文章であろうか。

とりあえず例として、その「思わせぶり」
などというものを記述してみることにする。

別に何か見つかったから添付した訳ではない。
ほ、ほんとうなんだからね。



ここはお忍びには丁度いい位置にあるお部屋です。
というと他の部屋を否定するようですけれど、
この部屋は別名浮島と呼ばれておりまして、
窓外からは優雅に拡がる湖を一望出来るのです。

そしてこれは驚かれるお客様も多いのですが、
実はこの室内の半分はすでに湖上となっておるのです。
もちろん構造に抜かりはありませんので、
床下浸水や倒壊などの恐れは一切御座いません。
ご安心してお寛ぎになられて下さいませ。

では何か御用、御入用でしたら、
ベッド右に備え付けられております電話。
その電話で番号564を入力して頂ければ、
フロントにいつでも繋がるようになっております。
のでご認識なさっておいて下さいませ。
564で御座います、はい。
可及的速やかに担当の者がお伺い致しますので。

では、お連れ様がお見えになられましたら、
こちらにご案内する、でよろしいですね?

――はい、承りました。
いえ、当館ではチップの類は一切――
そういうことでしたら、懐に収めさせて頂きます。
真にありがとうございます。


バタン。
確かに慇懃無礼に近いホテルマンが言った通り、
窓外からは流水音が絶えずしているのがわかる。
しかし、部屋半分が湖上にあるとは面妖な。
どういう構造になっているのだろうか。
途中から切り立った崖岸にでもなっているのだろうか。
少し確認したい思いに私は駆られたが、
件の場所が床板に遮られてしまっているのでは、
たかだか弱い女の御腕一つではどうにもならないだろう。
私は殊の外諦めの早い女でも有名なのだ。
執着はしない。探究心においても、男においてもだ。

男との密会にここを選んだのは、
男がここまでくれば妻に事がばれぬだろうと、
そう言い出したから。それ以上でもそれ以下でもない。
私は正直この関係がばれて破局になろうとも、
全く痛くも痒くもないのでどうでもよかった。
どこまでも諦めは早い方なのだ、私は。
むしろこんな辺鄙な土地に一時でも一人でいる方が、
よっぽど私にとっては受け入れがたい現実だった。

見知らぬ土地に来たからだろうか。
水のせせらぎに感化されたからだろうか。
唐突に喉が渇きを訴えていることに気が付いた。
確かフロントへの直通番号は563――
いや、564だったか。
私は受話器を取ると素早く番号を押してみる。
コール音が耳に響くこと四回目で、
「はい、こちら番頭です!――じゃねぇや。
 フロントです! だ。あ、これ内緒でお願いします」
恐らくフロントだと思われる処と繋がった。
その凡そ接客業に携わる者とは思えない馴れ馴れしさよりも、
むしろ完全に地元民というような癖のある訛りに、
私は苛立ち半分、とりあえずの注文を伝えた。
「え? 何でもいいんですか?
 何でもいいってのが一番困るんだよなぁ。
 うーん、わかりました。適当にお持ちしますね。
 でも後でこれじゃヤダとかはやめてくださいよ?」
私は先程ここまで案内してくれたホテルマンを思い出した。
どうして同じ環境で働く者同士であるはずなのに、
ここまで歴然とした差異が生じて憚っているのだろうか?
これが職業意識というヤツの仕業だとしたら、
やはり人には適材適所はあるのではないだろうか。
私は早々に受話器を戻すと、ベッドに仰向けになる。
男はどんな言い訳をして家を出て行くのだろうか。
それより何より本当にここに姿を現すのだろうか。
ただただ耳障りな水面が織り成す音だけが私を包む。
いっそ静寂が覆いきってくれれば楽になれるものを。

コンコン。
ドアがノックされる音に反射的に身を起こす。
もう注文の品を届けに来たのだろうか。
あのフロントの男。意外にあんな言動をしていても、
仕事は迅速にこなせるタイプなのかもしれない。

私はのっそりと立ち上がるとドアノブを握った。
この時の私は決して予期していなかっただろう。
まさかこの瞬間、もう待ち人がこの世にはおらぬなどとは。





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最終更新日  2007.04.13 18:23:15
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