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釈迦楽

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June 21, 2006
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カテゴリ: 思わず納得!



ところが、これにクレームがついたんですな。県内の中学校で使われているA社、B社、C社の英語教科書すべてに使われていない英単語は使ってくれるな、というわけ。しかし、ただでさえ中学で習う英単語の数が限られているのに、その上さらに、3種の英語教科書のすべてに使用されている英単語だけを使って試験問題を作るなんて、並大抵なことではありません。で、結局出来上がった試験問題の英語は、どうみてもヘンテコリンな英語になってしまったのでした。それを監修した私としては、もう恥ずかしくて、恥ずかしくて・・・。

つまり、日本の教育界のおかしな平等主義からすると、「スカイ」という、なかば日本語と化した言葉すら公式には使ってはいけない、そういう妙な英語が教えられているわけですよ。

馬鹿馬鹿しいじゃ、ありませんか。

文部科学省の学習指導要領がどうやって「中学必修英単語」を定めているのか、私は知りません。多分、コンピュータで使用頻度などをもとにはじき出しているのでしょう。しかし、その結果がこれですわ。本来、「最低限の教育内容」を示すべき学習指導要領ですが、結局、「これ以上のことは教えるな」という禁止方向の目安として使われているのが実際なんです。

ところで、この種のアホ臭い学習指導要領の対極にあるものとして、「ベーシック・イングリッシュ」というものがあります。イギリスの言語学者C・K・オグデンという人が開発し、オックスフォード大学が特許を持っている外国人向けの英語教授法で、もうかれこれ70年を越す歴史を持っているのですが。

で、ベーシック・イングリッシュの最大の特徴は、原則としてわずか850語の英単語のみであらゆる英語の発話を可能にする、ということなんですね。850語って、すごく少ないですよ。しかもその大半は、それこそ中学校で習うような、ごく簡単な英単語ばかり。日本の高校生なら、大概、これ以上の英単語を覚えているはずです。で、ベーシックのすごいところは、850語で発話するからこそ、ナチュラルで優れた英語が話せるようになる、という風に考えていることで、これは決して、学習者に負担をかけないよう、このように少ない語数に設定されているのではありません。そこが、日本の学習指導要領とは大違い。ちなみに、この850語の中に「sky」という語は含まれています。ベーシックでは、「sky」という言葉がなくては英語は言語として成り立たない、と考えているんですな。

逆に、「ええ!」と思うような英単語が、この850語には入っていません。たとえばベーシックの世界には「can」という言葉はありません。その代わり、「able」という言葉と「possible」という言葉が入っているので、「can」は必要がないと見なしているんです。同じように、ベーシックの世界には「home」という言葉もなければ「chair」という言葉もありません。その代わりに「house」という言葉と「seat」という言葉があるので、それ以外は必要がない、と判断しているわけ。もちろん、こうした一つ一つの単語の取捨選択は、恣意的なものではなく、逆にベーシックの世界を知れば知るほど、そこに恐ろしいほどの熟慮がなされていることを感じさせられます。英語を成り立たせるのに必要最低限のものだけがそこにあるので、他の言葉で代用が効くものは一つも入っていないんです。

しかも、もっと驚くのは、ベーシック・イングリッシュで使われる動詞が16個しかないこと。これは一体どういうことなのか。

つまりベーシック・イングリッシュの世界が我々に指し示しているのは、「英語というのは、名詞中心に成り立っている言語だ」ということなんです。

たとえば「座りなさい」という言い方を、英語に直すとしましょう。日本語は動詞中心の言語なので、この文章の中心を成すのは、「座る」という動詞です。ですから、日本人は通常、この「座る」という日本語の動詞を、英語の動詞に変えようとします。つまり、「sit」ですよね。で、「座りなさい= Sit down.」ということになる。

ところがベーシックの世界には「sit」という動詞がありません。「座る」ということに関連して、ベーシックの世界に残っているのは、「seat(椅子)」という名詞しかない。そこでこの名詞に、ベーシックの世界にある16個の動詞のうち「have(ないし、take) 」を組み合わせ、「Have a seat. Take a seat.」という言い方をするわけ。ベーシックでは、大概、基本的な動詞と名詞を組み合わせて発話することになっていますのでね。

ちなみに、「Sit down.」という、まるで警察が犯人に向かって命令するような口調の英語と、「Have a seat. Take a seat.」という英語と、どちらが一般的な英語表現として優れているかは、言うまでもないでしょう。

ま、ベーシック・イングリッシュというのはこういう調子で、名詞中心に厳選された850語という非常に限られた単語数の言葉を組み合わせることによって、きわめて英語らしい英語の発話を可能にする、非常によく考え抜かれたシステムなんです。英語の世界全体を「大宇宙」とするなら、ベーシック・イングリッシュは非常にコンパクトなひな型、英語の「小宇宙」と言っていい。

ところで、小宇宙としてのベーシック・イングリッシュの存在意義が奈辺にあるかと言えば、それはもちろん、外国人が手っとり早く英語を習得するための道具、ということに尽きます。850語の英単語さえ覚えれば、基本的にすべての英語の発話が可能だ、というのですから、外国人が英語を習得するという時、これほど楽なことはないでしょう。ということで、私は個人的に、ここ数年「ベーシック・イングリッシュ」というものに興味があって、大学での英語の授業でも、これを教えています。

ただ、ベーシック・イングリッシュは、ここ数日話題にしている英語教授法、すなわち「メソッド」というものとは、少し違うような気がするんですよね。英語の「システム」をミニマムな形で提示しているだけで、トータルな訓練法を用意しているものではないですから。ですから、私はベーシック・イングリッシュをもって、日本の英語教育のためのメソッドにせよ、と言いたいわけではありません。

しかし、すごく興味深いシステムだとは思うんですよね。少なくとも、日本人が一番苦手とされる、スピーキング技能面について、ベーシック・イングリッシュのシステムをもとに、メソッドを開発する、ということはあり得ると思うんです。

ただ・・・、ベーシック・イングリッシュって、どういうわけかマイナーなんです。一部に少数の熱烈なファンを持つものの、日本の英語教育界で大きく話題になったことなんか、ほとんどないのではないでしょうか。むしろ、「色物」視されていることの方が多いような気がする・・・。そこが残念なところなんですが。でも、繰り返しますが、ベーシック・イングリッシュの世界をかいま見ると、なるほど英語というのはこういうものか、というのが判ってくることは確か。英語教育に携わっている人はもちろんのこと、英語に興味のある方は、ぜひ一度、お試しあれ、と言っておきましょう。


さて、ここ数日、実現可能な英語教授法が確立していないことへの不満に端を発し、この問題を巡ってあれこれ書いてきました。明日は、その最終回として、先日、友人たちとの雑談の中で耳にした、大学における英語の授業のあれこれについて、お話することにいたしましょう。それでは、また明日!





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Last updated  June 21, 2006 10:49:12 PM
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