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January 24, 2018
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カテゴリ: 教授の読書日記
先日のブログにも書きましたが、最近、鈴木晶さんに興味が出てきたもので、その鈴木さんがお書きになった『フロイト以後』(講談社現代新書、1992年)という本を読んでしまいました。

 『フロイト以後』とありますが、フロイト以前のことも、またフロイトのことも書いてあるわけで、それにプラスしてフロイト以後の様々な心理学・精神分析学の発展を追っているわけですから、なかなかの力作、それを40歳くらいの時にものしているわけですから、大したもの。

 で、フロイト以後のパートで出てくるのが、(有名どころだけ名前を挙げるだけでも)ユング、ライヒ、ラカン、ジュリア・クリステヴァ、ミハイル・バフチーン、ミシェル・フーコー、ジャック・デリダ、ポール・リクール、ドゥルーズ=ガタリ・・・という感じ。

 ・・・もうさ、私が苦手な面々総ざらえじゃん。

 そう、私はこの手の思想家たちが超苦手なのでした。思想家本人の言っていることもさっぱり分からないし、その解説書もまったく分からないし、読んで面白いと思ったことが一度もないし、その内容が自分と縁があると思ったことも一度もない。だから、1980年代半ば過ぎ、アメリカ文学関係の学会でもこれらの思想家の言説がやたらに援用されるようになってからというもの、私は学会内に自分の居場所が全くなくなってしまったという感じを受けたのでした。そこで私は学会とは縁を切って、自分の興味のあることだけを研究するようになったのですが。

 もっとも、あれほどデリダだ、脱構築だ、と言っていたのに、今じゃそんなこと言う人、学会の中にもいなくなったけどね! 鈴木晶さんも書かれていましたけど、「最近はほとんど耳にしなくなったが、数年前にはどんな雑誌を開いても「脱構築」という言葉が目に入ってきたものだ。この言葉を言い出したのはジャック・デリダだが、これがアメリカにわたって、テクスト分析の一方法として、デリダの思想から独立して一人歩きをはじめ、大流行し、それにつられて日本のアメリカ文学者たちが大騒ぎをしていたのである。」(193-194頁) 

 「それにつられて大騒ぎ」か。まさに。だけどここに一人、つられなかったアメリカ文学者が居るぜ。

 さて、それはともかく、この本がそういう本であるのなら、私には無縁の本なんじゃないの?と思われるかも知れませんが、そうでもないんだなあ。先ほど言ったように、私は自分に興味のあることしか研究しませんから、この本だって私の現在の興味から読む。そう、自己啓発思想の観点から読むのであります。

 自己啓発思想、とりわけ「引き寄せ系」自己啓発思想の祖であるフィニアス・クインビーという人は、精神治療の人なんですな。1802年の生れだから、1856年生れのフロイトより半世紀も早く生まれている。で、そのクインビーは、人間の心を「意識」と「無意識」に分けて考えていて、無意識に巣食っている病巣を取り除くことによって病気を治すということを行なっていたわけ。また、その後発展していく自己啓発思想の中では、この宇宙というのはエーテル状のもので出来ていて、それが固体に凝縮したものがいわゆる「モノ」であり、また人間を含む動・植物だ、という風にな独自の宇宙観が生まれてくる。

 で、この辺のややインチキ臭い思想と、正統的な(と言っていいのか分かりませんが)フロイト系列の思想と、どうつながるんじゃ、というのがワタクシの興味のありどころなわけ。

 で、そういう観点からこの本を読んで行きますと、フロイト以前、そしてクインビー以前の決定的なモーメントというのは、フランツ・アントン・メスメルの登場なんだということがはっきり分かる。

 ちなみにメスメルという人は1734年にスイスとドイツの国境付近に生れ、ウィーン大学医学部卒ですからフロイトの大先輩。ただし、33歳でものした学位論文のテーマは「人体疾患に及ぼす惑星の影響について」。いきなりインチキ臭い。で、その後自宅に劇場まで備えるような大金持ちの未亡人と結婚し、この劇場でモーツァルトが書いた最初のオペラ『バスチアーンとバスチエンヌ』が初演されたというのだから、これはすごい。

 で、メスメルはこの大豪邸で治療を始めるのだけれども、1774年のある時、様々な発作に悩む25歳の女性の治療において、まず彼女に鉄を含んだ薬を飲ませ、その後身体に磁石を貼りつけたところ、数時間で全快するということが起きるんですな。で、この治療がなぜ成功したかを考えた挙句、メスメルは次のように結論付けた:人間(さらには宇宙全体)は、ある流体に充たされており、患者が治癒したのは、メスメル自身の中に蓄積していた流体が患者の中に磁気流を生じさせたためだと(35ページ)。

 で、これがメスメルの有名な「動物磁気(magnetisme animal)」ですな。

 で、メスメルはこの動物磁気による治療法を引っさげてパリに進出、当時のパリの科学ブーム(熱気球で人は空も飛べるようになった!)の時流に乗って大人気となるわけ。

 で、あんまり人気が出ちゃったもので、一人一人治療していたらまどろっこしいということになり、患者を「磁気桶」に浸からせて、みんな一遍に治しちゃったと。で、こりゃいいってんで、この独自の治療法をアカデミズムに認めさせようと一生懸命になったのだけど、ルイ16世から委任された委員会(このメンバーに、アメリカ自己啓発思想の祖の一人、ベンジャミン・フランクリンが居た、というのがめっちゃ面白いところなんですけど)から全否定されて、それでブームは去り、失意のうちにメスメルは亡くなりましたとさ。

 でも、とにかく、メスメルの思想を要約すると、

①宇宙には物理的流体(動物磁気)が充満しており、それが人間・地球・天体を、そして人間どうしを媒介している。

②人体内にある流体の分布が不均等になると病気になる。したがって、その流体の平衡が回復すれば病気は治癒する。

③ある種の技術(磁気治療)を用いれば、この流体の流路を開いたり、流体を貯留できたりする。他の人間に移送することもできる。

④かくして患者に「分利」(発作の激発のこと)を誘発することによって病気の治療が可能である。(39ページ)

 となるんですと。

 で、なにはともあれ流体が宇宙を、そして人体を満たしているという発想、これがフロイトのリビドーの概念に繋がるそうなんですけど、もちろん、クインビーの思想にもつながるわけね。何となれば、クインビーもまた、メスメル派の治療を受けて自分の病気を治し、自分でもメスメルを勉強していたのだから。

 つまり、メスメルを根っこにして、その後継者としてクインビーとフロイドは並び立つわけだ。ある意味。

 もっとも、患者をトランス状態にして治療する、ということ自体は、メスメルが発明したものではない、ということも鈴木さんは指摘しております。例えばメスメルの同時代人の「ガスナー神父」なんてのは、メスメル以上にこの種の治療が得意だったとのこと。

 だけど、ガスナー神父がやったのは、「悪魔祓い」なのね。病気は悪魔の仕業で、悪魔祓いをすれば病気は治るという発想。そういうのは昔からあるわけですよ。

 だから、そういう昔からの宗教的な説明を、非宗教的なものにしたという意味で、メスメルは近代精神療法の祖なわけね。で、メスメルの近代的精神療法の流れは、以後、シャルコー、リエボー&ベルネーム、ブロイアー(あるいはアンナ・O)に受け継がれ、やがてフロイトのところまで来ると。

 ちなみに、このメスメルの流体説は、その後、フロイトの弟子であるウィリアム・ライヒに受け継がれ、「オルゴン・エネルギー説」っていうのになるんですと。鈴木さんに拠りますと、ライヒは若い頃にフロイトに傾倒し、その若き弟子となるんですけど、その後生物学に関心が移り、オルゴン・エネルギーの研究に没頭、ライヒによれば、宇宙に遍在している生命エネルギーを措定し、これが滞ると人は病気になるとして、このエネルギーをオルゴン・エネルギーと命名、その後アメリカに渡り、オルゴン・エネルギー集積器を開発したりするんですけど、当然、マッド・サイエンティストとしてキ印扱いされるようになり、1957年に獄中で死ぬという悲惨なことになる(何ソレ?)。

 だけど、ここからがまた面白いところなんだけど、このライヒのオルゴン研究は、その後、アメリカ西海岸のカウンターカルチャーに少なからぬ影響を与えた(138ページ)というのですな。西海岸のカウンターカルチャーって、やっぱエサレン研究所ですかねえ。

 あと、ライヒの思想は、世界一自由な学校として知られる「サマーヒル・スクール」の創設者A・S・ニールに影響を与え、それがトモエ学園の小林宗作にも影響を与えたと言いますから、トモエ学園の卒業生であるトットちゃんこと黒柳徹子氏なんてのは、遠くライヒの影響を被っているのかもね。

 あと、もう一つ面白かったのは、私が敬愛してやまないアメリカの作家・絵本作家ウィリアム・スタイクがライヒの崇拝者で、ライヒ本人に頼まれて『聞け、小人物よ』の挿絵を描いたという事実。マジですか・・・。

 それから、フロイトの時代になりますと、動物磁気がどうのこうのという部分が、例の「無意識」がどうのこうのということに変化してくるわけで、それゆえ「無意識」というものはフロイトが発見したんだという俗な理解があるわけですけれども、それは全然事実に反する。鈴木さんはここでフロイトを徹底批判したアイゼンクという人を引用しているのですが、それによると:「1870年頃は、「無意識」は専門家ばかりでなく、教養をひけらかしたいひとびとにとっても既に格好な当世風の話題であった。ドイツの作家フォン・スピールハーゲンは、一八九〇年前後に書かれた小説の中で、一八七〇年代のベルリンのサロンの雰囲気を描写し、当時の主な話題は二つ、すなわちワーグナーの音楽、つまりトリスタンと、フォン・ハルトマンの無意識の哲学、つまり本能であった」と(52ページ)。

 無意識というのは、だから、フロイトの専売特許ではないと。

 ただし、フロイトの無意識の解釈というか、理論は、それはフロイト独自のものであり、そのフロイトの無意識論が後世に影響を与えたという意味では、やはりフロイトの専売特許とも考えられる、という風に鈴木さんは仰ってます。

 ・・・ってなわけで、この本はもちろん入門書ではありますが、上に書いてきたようなことが一応、私の頭の中で整理されたので、やっぱり読んで良かったかなと。

 ただ、この話題に本格的に取り組むとなると、それだけで大研究になっちゃうので、私としては、あくまで自己啓発思想研究の枝葉の一つ程度に扱わないとね。



【中古】フロイト以後 / 鈴木晶





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Last updated  January 24, 2018 03:58:30 PM
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