Rock's cafe

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March 10, 2005
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近頃、また「天使たちのシーン」を聞きとおすことが、僕の中でちょっとしたブームになっている。カラオケで誰かが歌うのを聞きながら、その歌詞を見て、改めて(何回目なんだろう)そのすごさに感嘆しきったことがきっかけだ。「天使たちのシーン」は、マジですごい。完璧にレビューしようと思うと、多分かなり長くなってしまうだろう。なので今日は少しだけ話そうと思う。

「天使たちのシーン」の中で、次のような印象的な歌詞がある。

太陽が 次第に近づいて来てる  

横向いて しゃべりまくるぼくたちとか

僕はこの歌詞がとても好きだ。というより共感を覚える。そして自分にはこの表現は書けないだろうなと、素直に作詞した小沢健二を尊敬する。「太陽が近づいて来てる」って、書けそうで絶対書けない。また、この部分を聞くと、必ず連想してしまう歌がある。森田童子「ぼくたちの失敗」の一部だ。

きみと 話し疲れて いつか黙り込んだ

ストーブ代わりの電熱器 赤く燃えていた

うーん、思わずうなってしまう。分かりますか?この2つの歌詞の近さ。
自分で引用しといて、今かなりびっくりしている。そういえば「天使たちのシーン」と「ぼくたちの失敗」というタイトルも、なんとなく対になってるしね。
「ぼくたちの失敗」という曲は、最初どこかで聞いた時すごくメロディがきれいだなと思いつつ、レンタルしてさあ録るか!とCDをかけた時に、スピーカーの中から「暗さ」というものが具現化して出てきてるような気がするぐらいぞっとして、録音しないまま返した覚えがある。でも少し大人になって聞いてみると、やっぱり名曲だ。上の部分の歌詞なんか、何気なく書いてるようで出色の出来である。

ぼくは前から言っているけど、小沢健二の歌詞のすばらしさは、誰もが経験しながらうまく表現はできない機微な部分をたくみに表現しているところだ。だから人々はそれを聞いたときに、言いようの無い不思議な共感を覚える。ぼくは高校時代から「天使たちのシーン」と「ぼくたちの失敗」を聞きながら、ずっと同じ部分にひかかっていた。そして今やっと分かるのは、それはぼく自身がそうだったから、ということだ。

友達や、恋人と一緒にいる時、なぜか内側から湧き上がってくるさまざまな感情と思い、それを伝えたいという欲望。誰かの悪口かもしれないし、社会への不満、感動した作品の話、或いは相手のことについて、いっぱい話したいことがあって、しゃべりまくって、しゃべり疲れてだまる。その時に感じる虚しさや、焦燥感のようなもの。まるで何かに追われているような、ジリジリとした感覚。
これらのことは、感じていても人に話せない。他人に話すと「えっ、そんなのおれにはないよ」と言われそうだから。恋人にさえ分かってもらえないかもしれない。自分だけの意識過剰?それとも何かの衝動?精神分析家じゃないから分からない。でもぼくは「天使たちのシーン」と「ぼくたちの失敗」を聞くことですこし安堵していた。そんな気持ちになるのはぼくだけじゃないんだという事を知って。そういえば村上春樹の「風の歌を聴け」の中にも、思春期に堰を切ったように話が止まらない子供の話が出てくるね。

なんで「しゃべりまくる」んだろう、一番の原因は、いろいろ考えて結局「ヒマだから」ということに尽きると思う。学生で、ヒマで、金も無ければ責任も負わない。しゃべる時間はいくらでもあるし、しゃべることぐらいしかできない。で、あのしゃべり疲れた後の感覚はいったい何なんだろう?それは、上に書いたことをひっくり返せば分かる。つまり、

「 そ ん な に し ゃ べ っ た と こ ろ で 、何 が ど う な る の ? 」

ということだ。結局何にもできやしない。金もないし、権力も無い。魅力もないし、行動力もない。何一つ動かせやしない。一番困ったことは、しゃべり終わった後で、その意味を見出せないこと。自分の限界だけが見えてくる。なんとかしなきゃ、でも何ができるんだろう?何から始めるべきなんだろう?この若き時代に特有の焦燥感と虚しさが、結局「太陽」であり「電熱器」なのかもしれない。もちろん、あらゆる物事は背反する側面を持っている。歌詞から分かるように少なくとも小沢健二は、そのことを肯定的にとらえているように見える。そう、何にもできやしない、何一つ動かせやしないという現実だって、何にでもなれてなんでもできるようになるという希望を孕んでいるのだ。若さということは、希望の象徴として語られる、その一方で挫折のイメージもつきまとう。それらがコインの裏表であること、つまり若く希望を持ち雄弁であるということが、常に何もできないかもしれないという不安と焦り・空虚を背負っていて、逆もまたしかりということ。それを2行の歌詞で示唆する小沢健二や、森田童子は、やはり不世出の天才だという気がする。





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Last updated  March 11, 2005 06:23:36 AM
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