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2015.02.12
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カテゴリ: 小説
学生時代の恋人同士が中年になって再開する話。

●あらすじ
沙織は学生のころに久里布竹雄と婚約したものの、虫好きな弟の光也にほれてエッチしたら光也がよくわからない理由で自殺したので沙織は竹雄と別れて相場保と結婚する。25年後に福岡に単身赴任になった竹雄が興信所を使って沙織を探し当てて保の骨董品店にやってきて、光也の形見のマレーシアの蜉蝣の箱を買っていき、マレーシア人ホステスのポーリンに箱に書かれた言葉の意味を教えてもらい、沙織と会って箱の言葉の意味は教えるもののまだ箱は返さず、ポーリンを愛人にすると、ポーリンが沙織に話してしまい、沙織は竹雄に会いに行くものの、保には貞節を守る約束する。保が竹雄に会いに行って病死する前に自殺することを仄めかして死ぬまでは貞節を守ってほしいという。やがて保が死ぬと、竹雄は蜉蝣の箱を沙織に返して東京に戻る。

三人称。沙織と竹雄の双方から現在と過去を織り交ぜて展開していて、この点は三人称ならではの描写の自由度が活かせていてよい。
エリート兄とぐうたら弟の確執、三角関係、沙織の子宮筋腫、腎臓病で死が目前に迫る保、拒食症でうつ病の竹雄の娘等、小説のネタになりそうな話題がてんこ盛りだけれど、登場人物に設定を負わせすぎていて病人だらけなのはよくない。作家は物語を面白くするためにプロットを工夫するべきであって、登場人物を訳ありにしたら物語が面白くなるというものでもない。長編なのに脇役の活躍が乏しく、プロットが一本調子というのもよくない。光也の苦悩を直接書かず、光也の死を竹雄と沙織がどう受け止めたかを探る婉曲的な物語にしてしまったことで、結局竹雄と沙織が何をしたかったのかプロットがはっきりしないのもよくないし、全体が陰鬱で、エロ描写も申し訳程度にちょこっとあるだけで、物語が盛り上がる部分がほとんどない。
三角関係や不倫は著者のデビュー作からの十八番で、よく言えば同じテーマを追い続けているといえるけれども、悪く言えばマンネリで進歩がない。どの小説を読んでも似た構成と展開で、作者の視野の狭さが物語のつまらなさにつながる。特に職業の書き方が不十分で、知らないことは書かないというのも作家のやり方だけれど、竹雄を石油会社の支社長に設定しておきながら仕事の話題がほとんどないというのはリアリティを損ねていてよくない。沙織にしても小学校の教師らしいものの、仕事の描写がほとんどなく、児童を気にかけている様子もなく、教師っぽさがない。人間観察に基づく人物描写ではなく、プロットに都合のいい人物像をでっちあげて取材した知識をちょろっと混ぜただけたという感じの雑な人物描写になっている。1995年の刊行だけれど、物語の舞台がバブル中なのかバブル後なのか、いつの時代なのか不明で、社会状況が物語に反映されていないまま、結局は狭い人間関係の中のいざこざで収まる小さな物語になっている。時代や社会と切り離されて生きている人間はいないのだから、その登場人物が生きている時代を書かなければ登場人物のリアリティの根幹部分が欠落するのだけれど、高樹のぶ子はいつもこの点で踏み込みが浅く、時代をとらえる目線がないまま目先のプロットだけを追ってしまい、プロットに沿うように設定された人物像のリアリティのなさと生死についての哲学的思考の浅さゆえに、背徳の恋や病気や自殺をテーマにしたところで、純文学でなくエンタメ小説になってしまっている。
津村節子と同じ雰囲気というか、女性の苦悩の半生を平凡に書けば純文学として評価してもらえた古い時代の小説という感じ。沙織と竹雄で文体の書き分けがあるわけでもなく、全体が同じ文体で表現技法としては面白みが乏しい。描写が安定しているというのは読みやすくて良い反面、長編だと飽きやすくなる。
裏表紙の宣伝文句は「透明な感性で生の根源を精密に描く、渾身の長編小説」というものだけれど、感性に透明も不透明もないだろう。それから裏表紙に誤植があって「兄、竹雄の婚約者沙織の心を奪い、自ら命を絶った弟の光雄が残した「蜉蝣の箱」。」と書いてあるものの、弟の名前は光雄でなく光也である。手元にあるのは1998年発行の第一刷の文庫本なのだけれど、第二刷からは直されているんだろうか。透明な感性やら誤植やら、裏表紙を書いた担当編集者がこの小説をぞんざいに扱ってそうな感じでよくない。渾身の小説ならそれにふさわしい渾身の宣伝文句を書きなさいよ、と編集者を屋上に呼び出して説教したくなる。

高樹のぶ子は自分にとっては読む価値のない純文学もどきエンタメ恋愛小説作家ということで格付けが終わった作家なので読まなくてもいいのだけれど、著作をまとめて買ってしまって、読まないうちには捨てられない貧乏性のせいで読んだ結果、やっぱり読まなくてもよかったと思う。高樹のぶ子は純文学でデビューして芥川賞をとって、芥川賞の選考委員までやって作家としてはデビューから晩年まで恵まれているほうだけれども、才能はエンタメ止まりで、不倫のテーマを追い続けながら芸術に昇華できなかったようだ。でもエンタメとして読んでもつまらないので、どういう読者層に受けているのか存在意義がいまいちわからないし、なんで芥川賞の選考委員をやっているのかもわからない。

★★★☆☆







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最終更新日  2015.02.13 08:23:46
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