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2020.03.05
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最近は『バイバイ、ヴァンプ!』という噛まれたら同性愛になるという映画が同性愛差別だと話題になっていたり、コロナウイルスの影響でカミュの『ペスト』が本屋で在庫切れになって増刷しているそうな。感染に関連するフィクションが注目されているようなので、感染とフィクションについて考えることにした。

・情報はウイルスのようなものである

言葉や映像などの情報は脳に直接作用して、思想を変えたり行動を変えたりする。さらには伝播の速度も速く、人から人へと次々に感染していく。伝染病に感染するのが怖いものだとしたら、情報に感染するのもまた怖いものでありうる。
今は中国で真偽不明な情報が出回って香港でトイレットペーパーの買い占めや強奪が起きたりして、その制御不能な暴動がウイルスとは別の社会不安になりつつある。これはコロナウイルスの伝染とは別の不安と恐怖の情報の伝染である。いったん流れた情報はSNSを通じて無限に複製されて拡散されて、もはや情報の出所が不明になって、政府が情報を否定しても収束できなくなる。政府やメディアに信用がないほど、否定が陰謀論を呼んでさらにデマが広がって逆効果になる。
脳は生存本能で生命の危機につながる刺激には敏感に反応するようになっていて、それが不安や恐怖という感情を起こすけれど、危険を刺激する情報は真偽に関わらず脳が敏感に反応するので、科学的思考ができない人ほど過激な情報をそのまま信じ込んで本能的に自己防衛のために買いだめや差別などの極端な行動をとるようになる。欧米だと馬鹿な人がアジア人を差別して殴りかかっているようだけれど、脅威に対して威嚇行動をとるのは猿の本能みたいなものだろう。

・情報への感染を防ぐためのフィルタリングはうまく機能していない

「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」という格言があるように、インターネットでは意図的に嘘の情報を流したり、ステルスマーケティングをしたりするのが常態化している。このような口コミでウイルスのように広がる情報をバイラルメディアやバイラルマーケティングという。Googleは間違った情報や陰謀論を検索結果に表示しないようにして権威ある情報源からの情報を表示しようとしているものの、それでも検索結果を通さずにSNSや掲示板を通じて直接間違った情報に接してしまう可能性があって、これは防ぎようがない。特にSNSだと信用している知人や有名人から間違った情報が発せられる場合があって、いっそう信じやすくなってしまう。中国では金盾という情報管理システムを使って個人情報やコンテンツを検閲して、国家の方針に逆らう情報を発信した個人を捕まえて思想教育をしたり、外国のコンテンツを禁止したりしているけれど、これは思想の自由や言論の自由がない中国だからできることで、他の先進国ではできない。

・フィクションは情報への免疫を作る予防接種である

いったん何かを信じ込んでしまった人を変えるのは難しい。いまだに進化論を否定するキリスト教徒がいるように、人間は最初に親に刷り込まれた情報を根拠なく正しいものだと信じがちである。それゆえに間違った情報を信じこむ前に科学的な教育をして、情報の真偽を見極める能力を身につけないといけない。
フィクションはいろいろな世界や思想があることを相対化して考える訓練で、物語の終わりとともに読者は現実に戻ってそのままフィクションの価値観を絶対的なものとして信じ込むことがないので安全である。もし家族を見捨てないと生き残れない状況になったときに自分ならどうするかとか、もし文明が崩壊したらどうやって生き延びるのかとか、社会の変化や極限状態に対する想像力を持つきっかけになる。こうして架空の世界と現実を行ったり来たりしていると、言葉を疑って、言葉に流されない思考力がつく。
フィクションを有害なもの、あるいはくだらないものとして全く見ない人がいるけれど、これはかえって危険で、免疫がないまま現実世界でいきなり強烈な思想に出会うと、ウイルスに感染するように脳が思想に侵されて、自我が思想に飲み込まれてしまう。傍から見たら見たら間違っているような思想でも、免疫がない人は反証せずにあっさりと信じ込んでしまう。ISISの宣伝を信じてかっこいい革命戦士になれると思ってISISに入国した女性が生む機械にさせられたり、生きる指針がない大卒のエリートがオウム真理教の教義を信じ込んで殺人をするようになったりする。

・感染はホラーの定番である

中世ヨーロッパでペストが蔓延して、しばしば絵画や音楽や小説で伝染病が恐ろしい死のモチーフとして書かれてきた。しかし現代は医療が発達してたいていの病気が治療できるようになって、伝染病はあまり恐ろしいものとは認識されなくなった。現実の脅威が少ないがゆえにフィクションとして伝染病の恐怖を楽しむ余裕が出てきて、感染を視覚的にわかりやすくゾンビが噛みつくという形にしたらヒットしてホラーの定番になった。ゾンビの怖さは単に感染して自我をなくすだけでなく、感染が広がって文明が崩壊するポストアポカリプス的な世界が訪れる点で、生き延びた人間も物資を奪い合って殺人をするようになって人間性をなくしていく。このようなホラーの不安や恐怖に慣れておけば、現実世界で過剰に不安になってパニックを起こして慌てて買いだめすることもなくなるかもしれない。

用法用量を守ればフィクションは薬になるので、コロナウイルスへの感染を警戒して外出を控えて暇な人はたまには小説を読むとよいと思う。






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最終更新日  2021.09.28 20:57:20
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Re:感染とフィクションについて考える(03/05)  
昭和の遺物 さん
へーっ、『ペスト』に増刷がかかっているんですか。あの本は私も愛読しているので、ちょっと嬉しいです。

こういう事態になると、普段は見えにくい人間の浅ましさが表面化して興味深いですね。どんなに文明が発達しても、人の本質は原始のまま、ということでしょうか。 (2020.03.07 13:50:50)

Re[1]:感染とフィクションについて考える(03/05)  
三角猫 さん
昭和の遺物さんへ

人間の脳は1万年くらい前から変化してないという進化心理学の話をどこかで聞いたような記憶がありますが、現代人は石器の代わりにスマホを道具として使う原始人みたいなものでしょう。科学的教育を受けてもなおパニックを起こして感情的に非合理的な行動をする有様なので、前頭葉がさらに発達して理性で冷静に合理的に物事が判断できるようになるまで何千年もかかるだろうし、そうなる前に人類は物資を奪い合って戦争して滅亡しているんじゃないかと思います。
哲学や文学はいかにして原始的な欲から抜け出してよりよい文明を築くのかという探求をしてきたので、危機に瀕して文学が売れるのは社会がまだ健全に機能していて理性を求めている証と言えます。『ペスト』が売れて、普遍性のある古典は折々に名前を思い出されて読まれるものだと感心しました。 (2020.03.08 03:25:32)

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