よんきゅ部屋

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Mar 5, 2007
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私は基本的にドイツやオーストリアから派生していった音楽が好きで、フランス音楽はあまり好みに合わないなと思ってきた。ドビュッシーやラベルの作品でさえも、それほど深く聴き込んではこなかったように思う。「ボレロ」や「月の光」などの超メジャーな曲を除いて、唯一例外的に聴く頻度が高かったのがこの曲(と、以前は言っていたが、最近ではいろいろと好きな曲も増えてきた、それらの曲の話はまたそのうちに)。

この曲との出会いは、やはり高校時代に聴いたFM放送。フルートによる始まりが印象深かったが、実はこの曲もかなり長い間、カセットテープのコレクションの奥に隠れていた。それが取り出されたのは、大学を卒業して市民オケに入ってしばらくしてからだった。「演奏するからには、ちゃんとスコアを読みながら勉強しなくちゃ...」とスコアとCDを買って聴いてみたら、いつもの感想「いい曲じゃないか...」。やっぱり食わず嫌いだったのかな。

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この曲は、フランスの詩人マラルメによる「牧神の午後」という詩に挿絵を付けるかのようなつもりで書かれたものであるようだ。「牧神が昼寝から目覚めると水の精ががいて追いかけてみたが逃げられてまた夢へと落ちていく」というのが詩のストーリーのようだが、こうやって単純化して書くと情緒も味わいもなくなってしまうことに反省...。このストーリーはどう考えても絵や音楽で感じた方がわかりやすそうに思えてしまうのは詩心のなさか。

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冒頭はフルートソロで始まる。これが牧神の吹く葦笛を想像させる。この旋律は曲中に何度も顔を出し、重要な役割を担っている。このソロによる旋律は半音階で漂うような進行をして、それに続く和音はとても意外。ハープの使い方も絶妙。その後に出てくるホルンの音もなかなか予想できない音になっている。

ドビュッシーの音楽は、伝統的な和音の進行とはまったく違うものがある。いわゆるクラシックでの基本的な和音進行は、ポップスでも演歌でも使われているもので、どういう和音が続きにあるのかは普通ある程度想像がつくはずなのだが、それをことごとく裏切っていく。しかも、その裏切りが心地よい世界を作り出すところが心憎い。

最初はまどろみの世界だが、すぐ後にフルートの旋律が出てくるときには低弦が男性のハミングのような音を奏でてみたり、風が時には緩く、時には素早く吹くいたりするような感じで続いていく。

フルートの旋律が支配する世界が一段落すると(この部分はドビュッシーの「海」を思わせる)、今度はクラリネットに始まるつむじ風のような音楽。チェロによる細かいリズムの添え具合が面白い。続いてオーボエやヴァイオリンが新しい旋律を出して、それが展開され音量も増していくが(牧神が逃げる水の精を追いかけているところか)、それが急速におさまると(牧神があきらめた?)今度は透き通った世界へ。これが眠りに落ちていくところであるように感じる。この場面転換ではその美しさにいつも鳥肌が立ってしまう。演奏したときももちろん鳥肌もの。繊細なppを背景でいかに表現するか、とても難しいところだし、どういう音を出すかを考えるのが好きだった。

さらに今度は夢の中の世界、いろいろな調の要素を含みながら落ち着く場所なく漂う。ドビュッシーはこの曲によって作風が転換したとされるそうだが、漂うような音楽の流れは確かに当時において斬新だったのではないだろうか。これぞ「ドビュッシーの世界の始まり」なのだろう。これを演奏していて、それまでまったくなかった感覚があったのは、今にして思えばそういう理由であるように思う。この夢の世界をヴァイオリンの旋律が表現している間、背景では木管楽器がややこしい3連符を演奏しているのだが、これがまたいい味を出している(「ふわ、ふわ、ふわ」という感じ)。

と、そこを抜けると、いきなりヴァイオリン・ソロがある。たった5小節しかないのに、この寸前の緊張感はおそろしいものがある。一度だけ演奏したときにはコンマスだったので、このソロを弾かなければならず、直前にホルンの音がきこえてきたときには心臓が飛び出しそうな気分になったことを記憶している。楽譜にするととても単純で、ビビる必要はまったくないはずなのだが、それまで積み上げられてきた美しい世界を壊してはならない。しかも、最初の旋律が戻ってくるための転換点に当たる場所、責任は重大なのだ。

その後、フルートで最初の旋律が戻ってくる(調は違う)が、そこにまた少し軽やかな新しい合いの手が絡んでくる。このあたりの和音の移り変わりは面白い。そしてアンティーク・シンバルの「チーン」という音に導かれて冒頭の旋律が元の調で戻ってくる。ここにもまたヴァイオリン・ソリ(今度は2本で)演奏する旋律が登場、後でチェロのソロも参加し、移ろいゆく世界が展開される。最後は涼しい感じで終わる。

どこを聴いても、独自の色彩感が貫かれている。ドビュッシーの魅力が10分間にぎゅっと凝縮された名曲だと私は思う。






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Last updated  Mar 5, 2007 10:46:36 PM
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