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地下鉄を降りたら新宿方面へ少し戻って右に折れ、なだらかに住宅地を下っていく。谷川俊太郎はここ、東京都杉並区成田東の住宅地の一角に、生まれたときから暮らしている。(中略) こんな書き出しで本書は始められていますが、長年、 読売新聞 の文化欄の担当記者だった 尾崎真理子 による、詩人、 谷川俊太郎 に対するインタビューです。
「やあ、いらっしゃい」玄関で呼び鈴を押すと、たいてい本人がドアを開け、迎え入れる。(中略)
詩人、谷川俊太郎は、あらためて紹介するまでもなく日本でもっとも有名な、ただ一人の職業詩人である。しかし人はその名から、どんな作品を連想するだろう。火星人が〈ネリリし キルルし ハララしている〉、デビュー作の「二十億光年の孤独」だろうか。子どものころに覚えてしまった〈かっぱかっぱらった〉が反射的に出てくるのか。元妻の作家、佐野洋子に捧げた愛の詩集『女に』を女性たちが思い出すのもうなずける。東日本大震災後、被災地の人々の間に次々とインターネットを通じて広がり、一人ひとりの気持ちを支えたのは「生きる」という、四十年以上も前に生まれた一編の詩だった。(以下略) (「はじめに」)
尾崎 谷川さんにとって、やっぱり佐野洋子さんは特別な、別格の女性ですか? まあ、何とも言えませんが、すごいでしょ。 80歳 を過ぎているからとか、話に出てきた女性が三人とも、もう、この世にはいないとかいうことと関係なく凄いですね。
谷川
ええ。ぼくにとっては、全然、特別。でも、いろんな意味があるから。 佐野さん はプライベートな批評家として別格で、彼女のお陰で女性にも人間にも理解を深めることが出来たという意味で特別だし、 衿子さん は最初の女性だから、やはり別格なんです。 大久保玲子さん は二人の子どもを生んでくれて、一番長い時間、一緒にいたという意味で別格だし…。誰が一番とか、言えませんね。それぞれ別の関係で、今は言葉で言い難いな。
ぼくは怨んだりする気持ちは全然なくて、感謝の気持ちしか残っていない。そう言うとまた 佐野さん 、怒るんだろうけど。でも、僕は少なくとも詩を書くより何よりも異性とのつきあいが大事。それだけは彼女もよく知っていたでしょう。よく言われてたもの、「あんたは女が一人いれば、友達なんか一人も要らないんでしょう。」って。
(第4章 佐野洋子の魔法)
素足
赤いスカートをからげて夏の夕方
小さな流れを渡ったのを知っている
そのときのひなたくさいあなたを見たかった
と思う私の気持ちは
とり返しのつかない悔いのようだ
(「女に」1991)
いずれにしても、この本は、まず、今までの生活のどこかで 谷川俊太郎
の詩に触れ、その時々、共感や違和感をお感じになりながら、いい年になってしまわれた方にすすめます。
谷川俊太郎
の詩に出会ったことのある人は、彼の詩が生まれ、読まれてきた紆余曲折を、詩人が、かなり正直に語っていること、そして、語られている事実にまず驚かれると思います。で、
その驚きと一緒に、自分がそれぞれの詩と出会った、あの頃の有為転変を思い浮かべ、今、目の前に 「初々しく」
、しかし、あいかわらず 「泰然自若」
としてある 「詩」
そのものに驚くという、どうも、この年になったからできるとしか思えないおもしろい興奮をお感じになるのではないでしょうか。
まあ、加えていうなら、 「谷川俊太郎の詩って?」
という感じを、お感じになっている方なら、お若い方でも、是非お読みいただきたいですね。ある意味、現代詩の歩みをたどっているところもあって、とても分かりやすい入門書でもあるのです。
偉そうに言いましたが、お読みになった方が、皆さん、必ずそうなるとは思わないのですが、ぼくなんかは、なんとなく、 谷川俊太郎
をはじめとする、現代詩の作品を一つ一つ読んでみようかな感じる本でした。 皆様、是非どうぞ!
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