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***** 島村 の 「視線」 は、 駒子 の妹分である 葉子 にも向けられ、 駒子 よりもさらに激しい 「何か」 を感じ取ってたじろぎます。 島村 の中の空洞は、 葉子 の幼い直情を入れたが最後、持ちこたえられないのでしょう。ラストは、 島村 が 駒子 と天の川を見つめていると遠くで火事が起こるのですが、火事に遭った 葉子 が建物から落下し、 葉子 を胸に抱える 駒子 に 島村 が駆け寄ろうとするシーンで終わります。手が届きそうで届かない、ホッと安らぐことのないラストシーンですが、
「こんな日は音が違う。」と、雪の晴天を見上げて、駒子が言っただけのことはあった。空気が違うのである。劇場の壁もなければ、聴衆もなければ、都会の塵埃もなければ、音はただ純粋な冬の朝に澄み通って、遠くの雪の山々まで真直ぐに響いて行った。
いつも山峡の大きい自然を、自らは知らぬながら相手として孤独に稽古するのが、彼女の習わしであったゆえ、撥の強くなるは自然である。その孤独は哀愁を踏み破って、野性の意力を宿していた。
*****
「踏みこたえて目を上げた途端、さあっと音を立てて天の河が島村の中へ流れ落ちるようであった。」 と結ばれた掉尾の一文に身を任せるしかなく、そうすることで、この作品は、永遠に解けない謎のように読者の中に残り続けます。
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