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2006.04.09
■買ってはいけない出版社■
カテゴリ:
その他
畑正憲『人という動物と分かりあう』(ソフトバンク新書)
■「バカに本を売れ」
出版業界の矜持が失われて久しいが、ひどい出版社がまた現れたものである。だめな政治が続いて小泉が現れたように、だめな出版が続いてソフトバンク新書なるものが現れた。これらに共通するのは、先人の「矜持」によって積み重ねられてきた「制度」が壊れ始めたときに、「そんな制度しらんよ」と言って居直り強盗のように現れていることだ。彼らにかかれば、「矜持って何ですか?」くらいの言葉は平気で出てくる。この書も、そのような酷い出版社の三流編集者をあてがわれたものの一つだ。この会社がだめなことは、シリーズの他の作品を眺めてみてもわかる。書き手は有名どころを揃えているが、少しでも中を覗いてみれば、この本を作るのに大した時間も労力も掛けず、編集者が編集者としての仕事を放棄したものだということがわかるだろう。書き手は、好きに書いているが、本としての体裁など整えられてもいない。恐らく、著者達の名前で売れれば良いと考えているのだろう。この会社は、出版の社会的意義よりもお金が儲かることを第一としているはずだ。社内会議での命令は簡単だ。「バカに本を売れ」。
■垂れ流し原稿が本に
そんなバカのひとりとして俺も本を買ったわけであるが、これを読み通したひとつの理由は、こうした出版社を告発し少しでもまともな出版状況を願っているからであり、いまひとつは、それでもムツゴロウ氏に聞きたいこともあったからだ。しかし、結果として得られた情報は満足の行くものではなかった。この本におけるムツゴロウ氏は、動物との触れ合い経験のデータから仮説を導くというアプローチを採っておらず、もっぱら世の中の研究成果を自身の動物との経験の内にも見出し、二番煎じの言説を生むというものであった。これでは学術的には周知のことを、動物の例を使って繰り返す本ということにしかなっていない。残念なことだが、タイトル「人という動物と分かりあう」にも、三流編集者のつけたであろう帯の説明ムツゴロウ流「人間論」にも、内容が及んでいない。だが、さらに酷いのは、本の構成である。伝えたいことがはっきりしていなければ、コンセプトもよくわからない。ムツゴロウ氏から送られてくる原稿に文字校正を加えただけで本にしてしまったような代物だ。担当編集者は編集者の仕事というものをわかっていないのだろう。彼に「矜持」を語っても、たぶん通じまい。
■本をバカにする編集者
もちろん、ムツゴロウ氏にも責任はあろう。だが、それはこの出版社を選らんだという一点につきる。この本の失敗の大部分は間違いなく編集者に帰される。というのは、このような新書レベルにおいては、著者の役目は知識の一部を提供することにつきるからだ。それを一般の視点にたって企画し、わかりやすく構成立て纏めるよう方向付けるのが編集者の役目である。著者が書けることと、世の人間が知るべきことの間に接点を見出し、著者に働きかけ、励まし、良い仕事を後世に残そうとするのが、編集者の矜持であったはずである。この本は、その編集者の役目が全くと言っていいほど果たされていない。そのためほとんど本にもなっていない。なにやら目新しい装丁の新書に「畑正憲」という文字と、帯には馬と一緒のムツゴロウ氏の写真を載せる。この三流編集者がやったのは、「バカ」を騙し売るための仕掛けだけである。この編集者は本を読まない人間よりも、本を馬鹿にしている。
■目的の無い書きもの
内容にも触れたいのだが、先述したように、コンセプトも何もなく、ただ文章を垂れ流しただけになっており、これがどのような本なのか伝えるのは容易ではない。なにしろ、「まえがき」も「あとがき」も無いのだ。つまり、この本には著者=編集者の「狙い」が無いのである。そのことをご理解いただいたうえであれば、俺にも少しくらいは紹介ができる。ムツゴロウ氏がこの書で強調するのは心=脳である。それがホルモンやアドレナリンの分泌によって行動に変調を与えると。ここまではわれわれの知っていることである。そして、心は簡単ではない、と言っているように感じられる。「感じられる」というのは、紹介者としてはいささか情けない書き方なのではあるが、これはどうしようもない。そういう本なのだ。子育ては簡単ではないよと。あとは、自身の経験を垂れ流しているだけだ。俺の読書力では、その垂れ流しの経験が「何のために」書かれているのかも理解できなかった。
■この本はいったい何だったのだろう
俺の読書力のことを棚に上げて言えば、この本は良いところ質の悪いエッセイであり、最悪の場合、目的の無い「報告書」である。本屋に行ってみればよいだろう。立ち読みでも十分理解できる本だ。なにせ、最後がこう締めくくられる。
相談室への出席が百回を超えたら、私は具体例を並べ、私なりの分析を加えてみたいと思う。そのような、脳の外側からの観察は、脳の内側からの研究に役立つと信じているからだ。
では、この本はいったいなんだったのだろう。
この本はともかく、最後まで付き合わされた俺がマーケティングの対象とされた「バカ」であったことは間違いない。
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Last updated 2006.04.09 21:17:28
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