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2006.10.29
■愛国の作法(3・下)■
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▽3戦後の「この国のかたち」
敗戦が、それまでの国家の機軸であった「国体」に決定的な影響を与えたことは言うまでもありません。(p.104)
「国体」にまつわる様々な「国民的使命感」(「皇道宣布」「八紘一宇」など)はトータルであっただけに、ひと度それが解体すると、その精神的空白は余りに大きく、それを満たす新たな「国のかたち」を見いだすことはきわめて困難でした。(p.105)
最も有力な「この国のかたち」が、新憲法を機軸とする「平和日本」と「民主日本」の理想でした。国民の厭戦気分に支えられた平和主義と国際主義、民主主義の実現は、「新日本国家の基本的性格」を形作るに違いないと思われたのです。
とはいえ、この理想は、それだけでは国民にとって漠然とした抽象的なものにとどまらざるをえませんでした。それを可視化する「象徴」が必要とされたのです。
ここに「国体」の中心的機軸であった天皇が再び登場することになりました。(同上)
民主主義の普遍的な根拠の上に日本に「固有の」天皇を「表象」とする独自の民主主義が確立されたという南原(*繁)の考えは、その後、国民の大多数に受け入れられていく「大衆天皇制」(松下圭一)の理念的な基盤をなしていたと言えます。この意味で、南原の「共同体民主主義」という考えは、戦後の「この国のかたち」の肯綮に中っていたと言えます。(p.107)
ただ、このような戦後の「この国のかたち」の「始まり」には、ハッキリと占領者の痕跡が刻み込まれていました。それは、明らかに戦後六〇年余り一貫して変わらないアメリカと日本の、保護者(パトロン)と顧客(クライアント)の関係を忠実に反映していたのです。(p.108)
それらは、アメリカの「日本派」主導による対日宥和的な「ソフトピース」という虚構のタペストリーを織り上げていったのです。
もちろん言うまでもなく、その「ソフトピース」は、上位の国際的権力との従属的な「談合」を意味していました。しかも、その「談合」的な合作(コラボレーション)が作り上げた体制は、部分的な微調整がありながらも、基本的にはほとんど変わらなかったと言えます。それは、ブルース・カミングスが指摘しているように、「国際的な観点あるいは戦後処理の観点からみる」とき、「日本はまだ戦後期を脱し」ていないことを意味しています。(p.109)
対米従属関係における「城内平和」。昭和という時代が、何か去勢された時代だと感じる保守派の直感の理由を示している。
われわれが考えなければならないのは、そうした原因・理由が以上のようなところにありながら、アメリカとの関係を問わずに「愛国」をいうことのおかしさだろう。まるでファッションとしての「愛国」でもあるかのようだ。次の節は、「愛国」の「重さ」を扱っている。
▽4「不満足の愛国心」
もちろん、言葉の重さや軽さを云々しても余り意味がないのかもしれません。ただそれでも、前首相(*小泉純一郎)や若者たちには決定的な何かが欠けています。少なくとも「愛国」という立場からみても、決定的な何かが欠けているのです。
そこに欠けているのは、「負けたとき、死者になんと言えばいいのか」という「敗残の悲痛」な「体験」の奥深くに刻み込まれていた煩悶と懊悩の痕跡です。それは、「祖国の祭壇」で自らの「不満足の愛国心」(unsatisfied patriotism)に生身を引き裂かれることを意味していました。(p.113)
祖国に対する強い愛情が一方にあり、政府が現に用いている政策に対する軽蔑と
呪詛とが他方にある。二つのものは噛み合いながら結ばれ合って、彼の心のうちに
充ちている。彼の心は分裂の状態に置かれる。(清水幾太郎『愛国心』)
こう述べる清水は、この分裂から逃れるのに三つの道があると言います。
その一つは、非国民あるいは国賊と罵られることを厭わない消極的な「非協力」の道です。二つめは、生命の危機をも覚悟した積極的な非協力の態度です。そして最後に「反対であるが協力するという道」です。
清水が最も強調したいのは、この第三の道です。(p.114)
その「不満足の愛国心」は、敗戦の秋に際して「祖国の祭壇」にどんな言葉を捧げるのか、その色調に決定的な影響を与えることになりました。この点を身を以て示したのは、南原繁です。(p.115)
南原の深い「不満足の愛国心」は、敗戦国民の道徳的・心理的ジレンマと共鳴し合っていました。
戦争を「日本国民の過誤または罪過として受け取り、敗戦をもってその過を償う国民的贖罪として、健気にも自らその犠牲となって死んだ」若き「戦没学徒」たち。彼らの死を受けとめる「苦悩」こそが、「祖国の祭壇」にふさわしい、南原はこう語りかけているのです。
そしてその「苦悩」の中から「平和と道義の真正日本の建設と新日本文化の創造」が成し遂げられなければならないというわけです。これは、南原だけでなく、多くの日本国民が進もうとした「不満足の愛国心」の道だったのではないでしょうか。(p.117)
だが、それは、早くも挫折を余儀なくされました。敗戦直後の「戦没学徒を弔う」から二〇年(一九六三年)、映画やテレビ、マスコミや文学、学問の世界の中にも「戦争謳歌と好戦的宣伝」が見られるようになり、「こんどの戦争を日本の過誤や不法と見ないで、かえってその歴史的意義を強調しようとする試み」(林房雄『大東亜戦争肯定論』など)が注目されるようになったからです。(p.118)
南原は、明らかに「真正日本の建設と新日本文化の創造」が立ち枯れつつあることをはっきりと自覚していたはずです。(p.119)
ただ客観的に見れば、そのような憂慮すべき傾向は、戦後の「この国のかたち」の「始まり」によって予め定められていたと言えなくもありません。なぜなら、先にも触れたように、「この国のかたち」は、日米の「談合体制」によってその強固な基盤を築くことができたからです。(p.119-120)
それは同時にその後長く尾を引く論争(「東京裁判史観」)を残し、国民自らの力で歴史を総括する道を塞いでしまうことにもなりました。(p.120)
戦後六〇年を経て、戦後の「この国のかたち」は、南原が「戦没学徒を弔う」にこめたような痛切な悔恨と罪責の念をほとんど洗い落としつつあるようです。戦争は遠い過去となり、それとともに、深い陰翳を孕んだはずの戦後民主主義と平和人権教育こそが、「愛国心」を萎えさせてきた元凶のように批判の俎上にのせられつつあります。次のような南原のメッセージは、すでに南原がこうした事態の到来をどこかで予測していたことを思わせないでしょうか。
近ごろ、青年、ことに学徒の間に「愛国心」がないことを、とかく非難する声がある。
果たしてそうであろうか。……人誰かその生れた祖国、われわれの愛する者の住む
この国土、その美しい自然と、善きにも悪しきにも父祖の築き来たった長い歴史と文
化を持っている日本を愛しない者があろうか。けれども、それはむしろ血と地につな
がる自然的祖国愛である。われわれは、さらに、この祖国をして、内は同胞とともに
自由を享受する住みよい国土とすると同時に、外は世界の平和と文化に寄与する
偉大な国民たらしめたいのである。それこそ真の祖国愛でなければならぬ。いまの
日本に欠けているのは、青年の心に訴える、そうした民族の理想とヴィジョンと情熱
であろう。(『南原繁著作集』第9巻)
the good old days that never were
「古き良き~」を言う者たちが、実はその時代についてよく知らず、他人事主義的であることをわれわれは知っている。そして、何よりも、彼らが今を良くしようと努力しているのではなく、今をただ否定するためだけに昔を持ち出そうとするのに一生懸命なのを知っている。
われわれは時に知らないことについても語る。しかし、語る以上は、その事柄への責任を持たなくてはならないと、俺は思う。
ところで、軽さをもった前首相がまさにアメリカの年次改革要望書を丸呑みした張本人だったということは、著者の「戦後の「この国のかたち」の「始まり」によって予め定められていた」という言を見事に裏付けているように思える。
アメリカとの関係をしっかりと考えない戦後論は、無意味であるだけでなく害悪だろう。
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Last updated 2006.10.30 03:41:36
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