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2011.04.17
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SSS

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『そう。彼は今も、あの館を彷徨い続けているのです――』

最後に言葉の響きを引き立たせるようなBGMの後、通常のCMに切り替わった画面を見つめながら吉子は震える息を吐いていた。

「……な、なかなか良く出来てるじゃない……」

その表情が若干引き攣っているのは、物語の舞台があまりに此の家に酷似していたからだ。
たまたま似たようなコテージを利用したのだろうが、今夜はTVの中と同じく嵐が夜の中で蠢いている。
今にも玄関のチャイムを鳴らす音が聞こえるような気がして――無意識にクッションを手繰り寄せようと動いた手が、暖かな何かに触れて大きく肩を震わせた。

「どうしたんですか?」

これで口元に笑みでも浮かべれば、あの人そっくりだわ――なんて事を内心呟きながら吉子は誤魔化すように笑いかける。
あと数ヶ月で小学六年生を迎える倫伝は成長期らしく、少しだけ身体から丸みが取れてきたような気がした。誰かの遺伝子を伺わせるような顔立ちや背の伸び具合に伴ってか、多少怪談話に耐性が出来てきたらしい。自分がライト片手に怖がらせたあの日が嘘のようだ。

「う、ううん。番組も終わったし、そろそろお風呂とかどうかなって思って」
「大丈夫です。お父さん、まだ根詰め中みたいだし邪魔できませんから」

そう見上げる先――龍之介の部屋からは、特にこれと言った物音は聞こえては来ない。
だがそれもそのはず。彼は今夜、締め切りに追われて切羽詰まっていたのだ。
倫伝が泊まりに来る日はいつも事前に伝えてある。今日だって大変なら別の日に、と申し出があったにも関わらず『夜までに終わらせる!』と本人が豪語した為にこうして吉子と二人で過ごしている。
夕飯時も手早く済ませて行ったのも早く終わらせたい一心だろう。それをほんの少し寂しく思いながらも怒りを覚えたりしないのは、彼なりに一生懸命だと理解しているからだ。
そしてそんな人だからこそ、応援しようという気持ちで待つことが出来る。でなければ倫伝はとっくに家に帰していただろう。

「待っててもいいですか?」
「そうねえ。でもあんまり夜更かしさせるのも……あ、じゃあ私の部屋で入りなさいよ」
「ええ?」
「そうよそうしましょ。この際だから一緒に寝ましょ。ね!」
「……吉子さん、もしかしてさっきの怖」
「さーお風呂お風呂っと!」

強制的に部屋に連行する吉子に若干呆れつつ、倫伝は促されるままに風呂場へと追いやられる。
だがそこでようやく倫伝の荷物が龍之介の部屋にある事に気付き――なんとなく気まずさを覚えながら其れを告げれば、部屋のドアを閉める音がして倫伝は溜め息を吐いていた。


**


あれから吉子が部屋に向かったものの、荷物を取りにいける雰囲気ではなかったらしく、とうとう同じベッドで寝る事になってしまった。
一緒に寝るのが嫌だとか、そういう訳ではない。だがあの頃の『怖さ』が無くなった分、なんとなく落ち着かない気がして。

「じゃあ倫伝くん、電気消すわよ」
「……あの、吉子さん」
「ん?」
「僕今成長期ですし、一緒のベッドはやっぱり……僕はそこのソファで寝ます」
「なーに今更遠慮してんのよぉ。昔は一緒に寝た仲じゃない!それに貴方が居たって落ちたりしないわよ」
「でも、あの」
「大丈夫よ!貴方のお父さんが乗ったって大……いや、それはどうでもいいんだけど」
「いつも一緒に寝てるんですか?」
「ま、ま、毎日な訳無いじゃない!やーねぇもおー!」
「じゃあたまに一緒に寝てるんだ」
「どどどうでもいいでしょそんなこと!さ、もう寝る寝る!」
「えー僕まだ眠くない……」
「寝・る・の!」
「……はい」

半ば強制的に布団に押し込まれた倫伝だが、その表情は少し苦笑気味だ。

(……お父さん、この事知ったら多分拗ねるだろうなぁ)

そんな倫伝を他所に、さっさと寝に入る吉子はある意味凄い。

(まぁ、いいか)

眠くないと言いながらも眼を閉ざせばいずれ眠気はやってくる。





――翌日、倫伝が予想していた通りご機嫌斜めな龍之介に色々な意味でお叱りを受けることになるのだが、今は二人夢の中である。


君はなにをしているだろう


「こい、つらぁ…」

ようやく仕事を纏め上げ、一時的とは言え頭から忘れ去っていた二人を思い出して罪悪感を抱いていた龍之介だが、呑気に眠る姿を見れば苦笑さえ浮かんでくる。
――とはいえ。

「……いくら子供だっつったって、一緒のベッドで寝るのを赦した覚えは無いぞ。スエキチ」

覚えてやがれと呟く声は本人が思うよりも優しい。
掛けなおした布団をそっと撫で、欠伸を噛み殺しながら彼は部屋を後にした。



(女.神.の.恋/龍之介×吉子)





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Last updated  2011.04.17 23:51:25


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