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直径が1メートルはあろうかという大きな水玉が川岸の草原をゆっくりと転がっていく。さすがにきれいな球形を維持するのは難しいらしく、重力の影響で少し横方向につぶれた楕円形をしている。水玉の中を水が回転するように流れていて、とてもゆっくりであるが、確かに水玉が前進している。川から上がってきたのだろう、その大きな水玉の進んできた水の跡がそれを示している。私はこの水玉の前に立ちふさがり、通せんぼをする。それでも、水玉は私に向かってきて、私の下半身を飲み込んで、進んでいく。私の体を通りすぎると何事もなかったように、あいかわらず前進を続ける。でも、水玉は疲れたのだ。進む方向が少しづつ変わり、出てきた川に帰っていった。私は、体が濡れたせいであろう、大きなくしゃみをした。これは、月が空高く上がっている真夜中の話である。
Oct 28, 2007
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洗面所で手を洗ったと言うのに、殺菌ティッシュで手をふかないと気がすまないシャロン・ルーの若い妻は、飛行機の中で夫を殺害してしまった。フライトアテンダンドは、たまたま数人の客がまとまってトマトジュースがほしいと言い出したので、そちらに気がとられていたし、周囲の乗客はいつものように自分のことで手がいっぱいだった。不幸にも、シャロン・ルーは半透明になりかけていた。透明人間の彼らはその透明性を利用して悪事を働き巨万の富を得ていたにもかかわらず、飛行機代を浮かそうと透明なままでその飛行機に乗り込んでいたのである。シャロン・ルーはやんわりと妻の若いわりには節くれだっている指による最初の一撃をかわした。しかし、若い妻は透明なままで、彼女の居場所がわからないシャロン・ルーは明らかに不利だった。彼の首はきゅっと絞められ、それで終わりだった。夫婦喧嘩が思わぬ結末になった。なるたけ乗客に見つからないようにと、若い妻は彼の死体を飛行機の一番後ろの隅に置いた。不思議なことに透明性が回復し、そこに置いたシャロン・ルーの死体はまったく見えない。帰宅した若い妻は、その日以来、新聞をいくつも読んだけれども、飛行機の中に死体があったというニュースは見つからない。もしかすると、今だにその飛行機は透明な死体を運んでいるのかもしれない。
Oct 21, 2007
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高校の同級生だったO君が自殺したことを知ったのは、去年の秋だった。もう高校を卒業してから30年以上経ってしまったけれど、彼の肉付きのよい風貌やら育ちの良さそうなおおらかな性格を思い出す。 彼はクラスの窓際に座っていて、授業中に先生を見ているよりは窓から外を悠然と眺めている方が似合う男だった。成績は決して良くなかったけれども、いろいろな武道や筋肉トレーニングに励み、高校も高学年になると筋肉で体が包まれているように見えた。ただ体を鍛えていたわけではなく、ヘーゲルの哲学やブラームスの音楽について語っていたことをわたしは覚えている。 彼とはそれほど親しかったわけではないけれども、わたしは彼に可能性を感じていた。将来こんな人間が、作家や音楽家といった表現する者になるのだろうと想像した。 僕は自宅のそばのY川の土手に彼の思い出を埋葬した。捨てたのではなく、彼の面影を精神的に固定したのである。もう彼はわたしの中では変わらない。Y川のその場所に来れば、わたしはその彼を思い出すだろう。 彼ですら功をあげ、名をあげることなく存在をあきらめたのである。わたしがその想いを遂げられないとしても、それは当然のことにように思えた。 Y川では、毎年秋の初めに人の背の長ほどにも伸びた草を刈る。刈られた草も運び出されて、土手沿いの河川敷はまさにさっぱりする。なぜか、今年は真っ赤な彼岸花がその土手にかたまって咲いた。草刈の人がその花だけは避けて草を刈ったのである。きれいに刈り取られて土手の一箇所につくんと彼岸花があった。 2005年の秋の初め、O君は自分の経営していた企業が倒産した日に、そのオフィスビルの屋上から飛び降りた。赤い肉片はとても小さなしぶきとなってあたりに飛び散っていたと言う。
Oct 14, 2007
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わたしが眠りに落ちる直前に玄関に置いてある金魚鉢からかぽんと音をたてて金魚が飛び降りて足をにょきりと出して床を散歩する。わたしの寝室のドアの所まで来ると軽くノックして、引き返していく。こんな日には神経的な胃の痛みから解放されてわたしは深く眠ることができる。翌日の朝にわたしが金魚鉢を見に行くと何事もなかったと言い訳をしているのか金魚は口をぱくぱくさせている。
Oct 8, 2007
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