サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.29
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 古物語とはまったく異なった、新しい物語のかたちのようなものを、かなり明晰に意識したとはいえ、それを実際に表現するには、彼女自身もそしてたぶん相当高いレベルで、彼女に共感していたであろう周辺の読者も、まだもう少し時間が必要だったようです。実作上の技術の洗練とは別に、そういう表現をする場合、書き手は無傷ではいられないし、もちろん読み手もたんに面白がって読み了せられるわけがない。
 藤壺や六条御息所との逢う瀬を、克明に描き出すのにずいぶん気を使った紫式部、この玉鬘の話のおおまかな筋書きや結末をどうするかについては、おそらく一連のb系物語を書き出した時点で、決めていたと思うのですが、それを実際にどのように持ち出すか、どう表現するかについては、彼女の心内ではかなり煮詰まってきたとはいえ、周囲の読み手が充分共感できる頃合いもまた注意深く探っていたことでしょう。

 そうした経験を、彼女はすでに今まで見てきた、a系物語の端々で何度も感じていたのではないか?とういわけで、「螢」の終りのほうでは、玉鬘の話はそのままにして、久しぶりに夕霧が登場します。

 「乙女」の帖の雲井の雁とのすったもんだで、内大臣に煮え湯を飲まされたと思っている夕霧、三年ほど経った十五歳の今も決して忘れていません。しかしこの賢明な若者は表面上は平静を装っている。光源氏もそのあたりはよく知っていて、息子をさり気なく応援しているのですが、六条院では世話役係の花散里と、南の御殿にいる明石の姫君とは立ち混じることを許しているのです。
 紫の上のいる春の御殿は厳重に隔てを置いて、夕霧にはいっさいこの継母には合わせないようにしている。もちろんこれは、源氏自身の閲歴から来るものでした。父子とも偶然とはいえ、実の母の顔を知らずに育った境遇で、そうした父の扱いを、夕霧自身はどのように感じていたのか?

―  おほかたの心用ひなども、いと、ものものしく、まめやかに物したまふ君なれば、うしろやすく思しゆづれり。まだ、いはけたる御雛(ひゐな)遊びなどのけはひの見ゆれば、かの人の、もろともに遊びて過ぐしし年月の、まづ思ひ出でらるれば、雛の殿の宮仕へ、いとよくし給ひて、をりをりに、うちしほたれ給ひけり。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 (夕霧は)おおむね性格なども、たいそう、慎重で、生真面目に振るまわれる君なので、(源氏の殿は、何事も)安心してお任せになっていらっしゃる。(明石の姫君は)まだ、幼いお人形遊びなどに興味があるように見えるので、あの人(雲井の雁)と、一緒に遊んで過ごした年月が、何かと思い出されて、(夕霧は、姫の御殿で)人形遊びのお相手を、たいそう心を込めてなさりながらも、時に、思い沈んでもいらっしゃるのであった。

 この夕霧、紫式部はことさらに「おほかたの心用ひなども、いと、ものものしく、まめやかに物したまふ」と、マジメ人間であることを何度も強調しますが、彼のマジメさというのは、生まれつきというよりは、多分に装われたもの、意識して演じたものではないか、という疑いが、次第に明らかになってくるのですが、ここでは彼は源氏と内大臣家をつなぐ橋渡し役として使われている感じですね。したがって彼の話は、もう少し後にしたいと思います。
 内大臣家には寄り付かないけれども、育ての親である大宮祖母には会っているようだし、雲井の雁だけには、相変わらず文も寄こしている。内大臣の息子たちから見れば、表面上涼しげな顔をしている夕霧というのを「なまねたし(生意気)」という感じで見ているのです。

― つづく ―





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Last updated  2010.01.29 14:42:06
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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