サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.10.20
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 繰り返しになりますが、自藩の常備軍によって旧政治権力を倒した伊藤や山縣にとって、新政府維持にとってのいちばんの不安要素は、残存する他の政治勢力が独自の武力を保持することであり、それは西南の役をはじめとして維新当時は切実な問題でありました。彼らは自ら行ってきた振るまいかたの危険性を、いちばん知悉していたので、それに大きなフタをしたのです。
 というわけで、政府・議会から軍事面の管掌権を排除し、軍隊はそれとは独立して天皇(君主)に直属するというのは、時々の政争から軍事的要素の介入を除くという意味で、当時としては、しかるべく理由があったのでした。しかし当然のことながら、では軍隊そのものは実体的には誰の管掌のもとに動き、最終的な責任は誰にあるのかという点は、あいまいにならざるを得ないのです。
 何度も言うように、政治と軍事の両面に通じていた明治の元勲たちが、世に隠然たる影響力を保持していたあいだは、その「属人的」要素でコントロール出来たのですが、「法的」根拠の脆弱性が後々の禍根になって現れたのです。ひらたく言えば、一国に二つの政府(政治権力)が存するという事態になったのでした。

 それともう一つ、明治新政府の権力を安定的に維持するために、伊藤たちはこの明治憲法を「不磨の大典」として、実質的な改正を不能としたために、後々の政党内閣といった、より強く民意を反映する新しいしくみを導入するに際して、憲法成文との間に次第に齟齬が生じて来ました。爾来、日本人というのは、一度決めた事柄を改変するという作業が苦手なようで、もともとの根っこは出来るだけ触らずに、何とかつじつま合わせの加上を行っていって凌ごうとする。何だか囲碁の棋譜を見るようですが、いちど盤面に置いた石はゼッタイ動かせないのです。
 明治憲法の大きな特色は、「首相」「総理大臣」「内閣」の規定がないということでした。これはどうやら伊藤博文がグナイストのアドバイスを受け入れ、プロイセン憲法を下敷きにして憲法を作ったからで、行政権はあくまで皇帝・国王の専権事項だったのでした。内閣や内閣総理大臣に関する規定は憲法典ではなく、別に内閣官制によって定められたわけです。
 いくらシノギの筋を工夫したからと言っても、それがサブシステムの位置づけで、便宜的に運用されているものであるかぎり、それがいくら世間に周知されたしくみであっても、原理的な問い直しを迫られた場合に、それに効果的に反駁する根拠がない。大正期に議会制民主主義が比較的作動したとはいえ(大正デモクラシー)、昭和の軍部(及び官僚組織)はその根底的脆弱性を巧みに突いてきたのです。

 まあしかし、このあたりの経緯はWikipedia他の「大日本帝国憲法」の項や「政党内閣」の項を参照してください。私としては明治維新以降の政府要人の考えかたが、議会制民主主義を唱える福澤や大隈重信のような考えかたを退けて、プロイセン型の立憲君主制を採用したのだ、ということが分かれば充分です。ここには当然、民意とか国民というものに対する、彼らの立ち位置というのが現れているでしょう。一言でいえば、多数の民意というものに対する不信、あるいは不定型きわまりない「国民」という名称が発する、恐怖といったものであったと思うのです。

― つづく ―





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Last updated  2010.10.20 11:46:46
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
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