サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.03.29
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カテゴリ: カーネーション
The Last Itoko
 糸子像について出来るかぎり多様な声を響かせること、それが「糸子的在りよう」をより高みに引き上げ、「普遍的な世界性を有する人格」をもたらすことになるということであったなら、その方向性は決して間違っていない。ただし、仮にもそんなに高い「志」(私見ですよ)を掲げれば、その達成にはとてつもない困難が生じる、という話なのでした。
 それはむしろ作り手側が、小原糸子という自らが創り出した、とても魅力的な人物像をリスペクトするあまり、逆に虚構の人物に呪縛される、という「偶像化」現象に繋がったのかもしれない。「偶像」は「普遍性」を持ち得ないのです。

 話は少し変わりますが、アメリカ映画に描かれる日本人像、かつてのキツネ目メガネ、ガニ股の図像で表象されたような、蔑視・嘲弄的なそれではなく、かなりマジメに取り組んだ(あるいは美しい誤解から生まれた)ような映画であっても、例えば「ラストサムライ」のように、どうしようもない「異和」を感じてしまうでしょう。
 で、その「異和」の根源は何かというと、結局それは渡辺謙演じるところの、西郷隆盛をオマージュしたような殿様が「流暢な英語をしゃべっている」、というところに行き着くのではないか?発語が英語に変わるとき、殿様の表情や身ぶりまで「異和」が生じてしまうのです。これは何も渡辺さんの演技の話ではなくて、英語で「Yes」と発語するとき、私たちは「はい」とは別の表情をそこに看止める、というレベルの話です。
 それって別人格が招来している兆候と言っていいのではないか?英語で「発語」を始めたとき、私たちは別の「文化を背景とした、言語体系に組み込まれて」、思考回路も身体の動作も多かれ少なかれ、知らずそれに「規制されている」ということなのです。

 同じようなことが、もうすっかり古い映画ですが、「戦場に架ける橋」の早川雪舟演じる日本人将校に、もっと露わになっていましたね。彼はあたかも「シェークスピアの主人公のように」よくしゃべる。米英の将校たちとまるっきり対等な会話を交しているのですが、私たちはそうした形で英米人と対している日本人を、現実には今だかつて見たことがないのです(居丈高に轟然と振るまうか、卑屈な笑みを浮かべるか)。D・リーンという監督、さすが英国演劇の伝統を引く人なのか、「アラビアのロレンス」においてもアラブのベドウィンの族長たちに、似たようなことをさせている。ネイティヴでなければ絶対有り得ないような、流暢な会話を彼らにやらせることによって、リーンの壮大な映画は成り立っているのです。
 つまり、明らかにこれは英国人の「語法」によって、発語された「物語」なのでしょう。

 私たちは異民族、異国民同士の会話だと、あまり気付かなかった「異和」を、自身のネイティヴの会話とか表情と、「異国語」を否応なく対比させられるとき、たちまちそこに明らかな「違い」を敏感に検知するのです。
 しれみれば、これまで山のように描かれて来たハリウッド製先住民やアフリカ系、ヒスパニックやアラブ人、その他白人以外のエスニックのイメージというのも、すべからく壮大な白色の「幻想」で観せられていた、ということなのでしょうか?(私がC・イーストウッドの最近の映画を評価するのは、例えば「グラントリノ」に描かれたモン族の人々、イーストウッドのほうから「理解」しようとするのではなく、言わば「放置状態」で描いている。プア・ホワイトやブラックがそうであるように、モン族にも好い奴も悪い奴もいる、というような。まあこれは別の話ですが)

 と、話をいかにも大げさにしてしまいましたが、要はナツキ糸子の紡ぎ出す「糸子像」が、真摯に演じられれば演じられるほど、逆にどうしようもない「異和」を生じてしまう。で、その根源を追い詰めて行くのに、例えば上のような次第で、仮に「泉州弁」を一種の外国語として眺めてみれば、不用意な「普遍化」というのが、どのような危うい狭隘を進む作業であるか、何やら見えて来ません?
 同じ日本語、多少の「異和」はあっても、「そこまで考えなくても、いいじゃん(意味は通じるのだから)」と言われそうですが、通じてるつもり分っているつもりでいたのが、「泉州弁」という「発語」体系を持ち込んだ途端に、その「異和」ゆえにこの交代騒ぎになるのだとしたら、我々が分っているつもりの中味というのは、はなはだ「危うい信憑」に基づいていることになる。
 で、「危うい信憑」であるぶん、その「異和」に関しては、ことさらに神経質な反発を繰り返す、という仕儀と相成るのでしょう。「どうせ、岸和田(日本)のことは、岸和田(日本)の人間にしか、分からへん」みたいな。
 つまり「普遍性」への道は、「程遠い」ということになってしまいます。
 何だか、話が重くなってしまいましたね。

― つづく ―





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Last updated  2012.03.29 11:11:56
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ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
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