サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2022.07.18
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プーチンと山上容疑者
 と、昨年末にボヤいていたら、今年に入るや、まことに前時代的なウクライナ戦争に始まって、このたびの安倍元首相銃撃殺害事件。いったい人間という生き物は、どこまで退化していったら気が済むのだろう、と思ってしまいますね。

 人間が自意識を持った社会的動物である以上、各々が何がしかの不満やハレーションを抱えているのは当たり前。そこを何とか他者と折り合って生活を維持しようと、みな知恵を絞って日常生活を送っているのに、この種の人たちの頭の中には、「他者」あるいは「外部」というものは、一切存在しないらしい。
 以前、「想像」と「空想」の違いをここで話したような気がしますが、私の独りよがりな見かたでは、「想像」とは「他者」あるいは「外部」に向けられるような「開かれた」エートス(性格・習性)。対して「空想」というのは、厳密に自己完結というか、自身の中空をブンブン飛び続けるようなエートスであって、絶対に「他者」ないし「外部」に開いていかない。プーチンも山上容疑者も完全に「閉じた」人たちなのです。私たちは我から「閉じた」人格性を、まともな社会の成員にカウントすることなど到底出来ません。

 こうした黒々とした地獄をしょった人格性というのは、何も犯罪者や独裁者だけに見られるエートスではなくて、しばしば芸術家や作家などにも見られます。となると、これは何やら人間の基本的属性として、あらかじめ遺伝子に刻印されたものであるようにも見える。大多数の人間はそうした危ない因子になるべく触れないよう、無意識にその近くを回避するように振る舞うのですが、中にはそうした暗黒をどうしても覗きたい、触れずにいられないという人たちも、多くはないが「必ず、いる」のです。
 早い話、幼児たちはこうした「暗黒」を回避しません。大多数の人は成長するにつれ回避のすべを身につけるのですが、少数ですがそうでない人もいる。(ピカソなど幼児の目線を、いつでも起動出来る人だったでしょう)。
 というか、そういう性向が少数とはいえ、人間の基本的因子として刻印されているからこそ、人類は多様性を獲得し世界中に広がったわけでしょう。

 先ほど「暗黒」という言い方をしましたが、それは犯罪者や独裁者を見る私たちからはそう見えるのであって、その外形的相貌はしばしば甘味な形を取って現れるものらしい。リルケは長詩「ドゥイノの悲歌」で、「まことに美の天使は恐ろしい(手塚富雄訳)」と言っているでしょう。甘味な美的相貌を凝視し続けるうち、彼の眼はイカロスのごとく焼き尽くされそうになる。この詩のなかで、美の光芒のすさまじさに、思わず手をかざしてしまう場面がありましたね。
 三島由紀夫や村上春樹なども、あるいはそうした美的相貌の芯に隠れた、マグマのような暗黒を見続けた作家だったのかもしれず、三島はエロティックな身体の裏、村上ならファンタジックな相貌の裏に隠れた得体のしれない何物かを、「確かにこれだけは、私は見た」という仕方で、文字に刻んだのです。という意味で芸術家と私たちは言葉とか色とか音とか形で、かろうじて繋がっていると言えます。
 私たちはそうした得体のしれないマグマに近づいてリポートする彼らの振る舞いを、ハラハラしながら見守るしかない。しかし、そうして残された彼らの営為の結果は、しかるべき敬意を払って検証されるでしょう。なぜなら、それらは仮にかなりドス黒い相貌を放っていたとしても、私たちの社会的資産としてカウントされるからです。
 暗黒のマグマに気づきそれに近づくにしても、何とか正気で踏みとどまって、言葉や色彩や音楽といった表現手段で記録しようとするとき、それらはおそろしく孤立した営為であったとしても、間違いなく「社会と繋がっている」と見做せるでしょう。

 しかし犯罪者や独裁者は違う。暗黒のマグマに魅かれるにしても、彼らはその甘味な相貌に簡単に我が身を投じてしまえる性向があるのではないか?プーチンと山上容疑者には不思議な共通点がある。二人ともバカではないということです。否、むしろ恐ろしく冷徹沈着かつ無慈悲に事柄を見すえ、自身の感情をコントロール出来る人物たちである。プーチンはそもそもそういう訓練をKGP時代に何度も受けて来ただろうし、山上容疑者は奈良の県立トップ高校出身だそうだから、世間並み以上の知力を持っていたでしょう。
 オウムの時もそうでしたが、犯罪と知力のレベルはあまり関係ない。犯罪を犯すトリガーは、どうも知力とは関係のないところからやって来るらしいのです。と、ここまでプーチンと山上容疑者のことを考えてきて、犯罪とカルトとの関係について思いつくことがあるのですが、ここではしません。

 要は、こうした人格性に共通するのは、心の深奥に潜むドス黒いマグマに対してのハードルが恐ろしく低い、言ってみればそうした事象に出会うとき、ほぼ無抵抗に酩酊してしまえる性格なのだろう、で、それはおそらく最近あったほかの大量殺人事件、例えば「京アニ放火殺人事件」とか、「大阪心療内科放火事件」の容疑者たちにも共通する心象なのでしょう。
 自身の抱えるドス黒いマグマを解消するためには、いかなる理由をつけてでも、「他者」あるいは「外界」を攻撃しなければならない、そして「私にはそれが特権的に許されている」といった心理的経路を持つという点で。

 プーチンならば旧ソ連の版図と名誉の回復のためには、目の前で起きているウクライナ人ロシア人の死体の山は簡単に捨像される。山上容疑者の場合は「旧統一教会」への復讐のためには、それが一国の元宰相であっても、自分には関係ない(今のところの証言他が事実であれば)。
 こうした自己完結的な論理というのは、最終的には自分以外は全部敵、したがって自分は何をしてもいい、「私にはそれが特権的に許されている」という帰結に至らざるを得ないのでしょう。





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Last updated  2022.07.18 10:29:20
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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