PR
Keyword Search
Comments
「納得できません!」
オフィス中に響く大きな声だった。
朝礼が終わると、行き先を告げながら次々と部員が営業に出て行
く。
社員研修を請負う会社だけあって、朝のオフィスは見かけ上てき
ぱきとしている。
浅井徳子もすぐに出るところだったが、「5分だけ・・・」と忍
田部長に呼び止められて、オフィスのコーナーにある部長席の前
に椅子を置き、向かい合って打ち合わせを始めていた。
かれこれ15分を経過した頃、その大きな声が発せられた。
声の主は浅井だった。めずらしく忍田部長にくってかかっている。
内勤の事務職員と、残っていた数人の営業部員の耳が、一気に二
人の会話に集中した。
浅井は前月度、新規顧客獲得と聡売上金額の、全国1位を同時に
達成していた。
これだけ成績を上げていても、更に高い要求をつきつけ能力を引
き出そうとする忍田部長は、浅井を怒鳴りつけることもしばしば
あった。
しかし、このときばかりは防戦一方だった。
他部門の新人営業が、浅井が以前から追いかけていた見込み客に、
「浅井は辞めました」とウソを言って研修を受注したのだ。
社内の規定では新規顧客へのアプローチはフリーで、どの営業の
提案を選択するかは顧客の判断に任せている。
しかし嘘は当然ルール違反だ。
それでも、社内のゴタゴタを顧客にさらけ出すわけにはいかない。
部門長間で話し合った結果、売り上げは折半で分け合う。しかも、
今後の事を考えれば、良い提案と気配りのフォローで売り上げが
見込める浅井を担当に据えた方がいい。
それは誰もが理解できたが、浅井の力で今後上が見込める売り上
げまで、折半になるという。
浅井の数字は部の数字でもあるから、これには、恐らく部員全員
が納得しない。
この部門は以前にも、この「辞めました」事件を何度か起こして
いたが、たまたま受注前に見込み客が教えてくれていたので、大
きな問題にはならずにいた。
この部門長にしてみれば、自部門の新人がそうまでして必死に取
ってきた受注を、無にしたくないのかもしれない。しかしそうだ
としても、「新人だから他部門の営業の名前まで把握していない
し、本当に辞めたと思っていた」という苦しい言い訳が通ってし
まうのは不自然だ。
至近距離で耳をそばだてていた八木啓一はそう思った。
部門長間の政治的取引か、何かのしがらみのせいか?結局この判
断の真相は、最後まで明らかにされることは無かった。
涙目のまま営業に出ようとする浅井に「少し疲れてないですか?
身体壊したらなんにもならないから無理しないでくださいね」と、
八木は声をかけた。
浅井は出社も退社も殆ど定刻どおり、直行直帰も当たり前だった
が、毎日夜9時頃まで残業している自分より、よほど神経をすり
減らしながら仕事をこなしているように、八木には見えたのだっ
た。
浅井は曇った表情を一変させ、無理に満面の笑顔をつくって「あ
りがとう」と言うと、気持ちを切り替えるように、大きな声で行
き先と帰社時間を告げて出て行った。
つづく
共感クリック→ 拍手
↓↓↓
人気blogランキング
へ
ありがとうございました!
関連記事のトラックバック大歓迎です。
(但し、ポルノ・アダルト、その他、記事と
全く無関係なものは管理者の判断で削除させていただきます)
日本国憲法を、誰にでも理解できるようにすることが狙いです。
⇒ 日本国憲法 全文解釈
───────────────────────────────
~誰もが世界に一つだけの花を咲かせられるはず~
全ての人が成功者になれる可能性を探るメルマガ
『自分探しの心の旅』
↓↓↓
メルマガ登録
メルマガバックナンバー
←全て公開
───────────────────────────────
兄弟ブログ
スポーツ救急箱
カラオケ大好き
ネットマーケティングの勉強部屋
───────────────────────────────
その他発行メルマガ
メルマガ『 スポーツ救急箱
』
メルマガ『 カラオケ大好き!
』
メルマガ『 ネットマーケティングの勉強部屋
』
本当の自分と自己実現