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March 4, 2016
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カテゴリ: 音楽
久しぶりに鍵盤天国らしくシンセサイザーネタでございます.
Jo'zのキーボーディストよこち先生より修理の為お借りしてきましたので少々レビューをしてみたいと思います.

仕様を見ても,そのモンスター構造故に全貌が見えにくいのがKORG OASYSですが最近の人ですとKRONOSシリーズを取り上げると解り易いでしょうか?

いわゆるKRONOSの原型がOASYSでございます.
OASYS_001
PA機材に埋もれる事なく存在感を放つこのディテールは圧巻

基本音源としてPCMサウンドエンジンを搭載しているのはもちろんですがOASYSやKRONOSがモンスターと言われる所以はKORG屈指のシミュレータ技術を惜しげもなく投入した拡張音源システム部分やそれらを自在にコントロールするシステム部分にあるとも言えます.

<基本音源部分>
・HD-1 Program (High Definition Synthesizer)
PCM音源
4段階のベロシティースイッチで波形を切りかえる事も可能であり最大4つのフィルターや5基のLFO等を同時使用可能.

HD-1内部にはPCM波形のフィードバック以外にもWave Sequenceと呼ばれる『WAVESTATION』に搭載されていたような打鍵中に波形やピッチまた発音タイミングなどを自由に切り替え全く新しい音を構築してしまうと言う強烈な機能も搭載.

加えてAMS(オルタネートモジュレーションソース)も強力で,いわゆるあらゆるコントローラ等のパラメータを変調器として使用できてしまう機能も搭載.モジュレーション・ソース同士を変調させるなど複雑なモジュレーションを作り出すこともできる等,その表現力はまさに無限.


正直,PCM音源部分だけで最大限にシンセサイズする事が可能な仕様である.

また,拡張PCMライブラリー等をインストールする事が出来る.
EXs2-Concert Grand Pianoをインストールすれば,プリセット以上にクオリティの高いコンサートピアノサウンドを追加出来る為,ステージピアノとしての地位も確立していると言える.


<EXiエクスパンション・インスツルメント部>
・AL-1(Analog Synthesizer)
アナログモデリング音源
最大同時発音数84ボイスを実現した2DCOタイプ(サブオシレータも搭載)のアナログモデリング音源.
1ボイスに付き2基のフィルター(ローパス,ハイパス,バンドパス,バンドリジェクト※各フィルターにそれぞれレゾナンスを装備)を割り当てられたり,複雑な音作りには欠かせないモジュレーションやEG等も豊富に内蔵されておりオシレータ数からは想像もできないような複雑な音つくりまで実現できる.

また,OASYSに装備されているオーディオI/F部分より外部音声をフィルタリングやモジュレーション効果を与えたり,リングモジュレータのソース波形として使用したりする事も可能と,もはやパッチシンセ顔負けの自由度も備え持つ.

また,ドライブとロー・ブースト回路を装備しており,オールインワンシンセとは思えないビンテージアナログシンセサイザーを彷彿させるような歪感も演出が可能.

ステップシーケンサも単体で搭載しておりオシレータやフィルター等に割り当てる事でリズミカルに変化するサウンドも得る事が出来る.
また,Smoothing機能により,段階的に割り当てたステップシーケンスの間を無段階につなげる事も出来る.
この機能を応用しLFOとして用いれば,実質ユーザー任意の波形で変調するモジュレーションも作り出す事が出来るのである.

もはや,何もいう事は無い.
ただただ素晴らしい!


・CX-3(Tonewheel Organ)
トーンホイールオルガンモデリング音源
その名の通りKORG CX-3に搭載されたオルガンシミュレートシステムである.

いわゆる,物理的に歯車上の金属円盤(トーンホイール)を回転させ,隣接するピックアップから正弦波を発生させる従来のトーンホイールサウンドをノイズや音の揺らぎまでモデリングで再現している.

リーケージノイズまでもモデリングした『Vintage』とトーンホイールサウンドを忠実に再現した『Clean』の2タイプを内臓し,加えて真空管アンプ等が常時発生してしまう電気的ノイズをもシミュレートし本物を極限まで再現している.

フル鍵盤分の最大同時発音にも対応(CPU占有率により変動する)しておりビンテージオルガン宛らのプレイサウンドを再現できる.

フロントパネルにある9つのスライダーにはドローバーを,またロータリースピーカのSlow/Fast切り替え等もノブやスイッチ等にアサインする事でプレイヤビリティーあふれるリアルタイムコントロールも実現可能.

トーンホイールの再現だけではなく専用エフェクト群も優れており,特性の異なる3種類のアンプモデリングとユーザーカスタマイズが可能なビブラート/コーラスまたオルガンサウンドには必要不可欠なロータリーサウンドもSlowからFastへの回転速度変化スピードに至るまでをユーザーが変更できる等非常に自由度が高い.
ロータリースピーカを集音するステレオマイクシミュレータまでも内蔵されており,スタジオレコーディングからステージセッティングのサウンドまでも自在に再現が可能.
もちろん,これらのエフェクトは他の音源群にも使用が可能である.

また,従来の9つの倍音成分によるサウンドコントロールをはるかに超える18本のドローバーを駆使してサウンドメイクするEXモードも搭載.
固定の9倍音成分に加えてユーザー設定可能な4倍音成分と5倍音成分に対するパーカッションコントロールを加える事で,より新鋭的な音作りを実現.



・STR-1(Plucked String)
フィジカルモデリング音源
従来のギターやベースをはじめクラビネットやエレクトリックピアノ,また伝統的なハープシーコードやハープにエスニック楽器等々の音色から実験的な音に至るまでをカバーする物理モデリング音源(Yamahaの物理モデリング特許による)

ダンピング(現に伝わる波の高域減衰量)やディスパーション(弦の剛性),ノンリニアリティー(ブリッジの不安定さ)にハーモニクス(倍音)と言った,弦楽器,打弦楽器等の特有な響きのコントロールを解り易いパラメータでまとめ,クイックにコントロール出来るのが特徴.

AL-1で使用可能なフィルター群等もそのまま使用が可能でビンテージサウンドの再現から独創的なサウンドつくりまで幅広いサウンドメイクに使用可能.

その他,オプション拡張音源にはKORG Legacy Collection のMS-20,Polysixを再現した『LAC-1 Legacy Analog Collection』,VPM(Variable Phase Modulation)シンセシス音源(YamahaのFM音源と同種の技術)によりアナログモデリングでは得られない複雑なシンセサイズを実現する『EXi MOD-7 Waveshaping VPM Synthesizer』そしてその名のごとくBrassとWoodwindsの高品位な波形を収録した『EXs3 Brass & Woodwinds』(OASYS専用)がある.
OASYS_002
ファンの皆さまには御馴染みの『I love Jo'z』ステッカーもバッチリ!

もちろんPCMのドラムキットも装備されており,これらの音源群はコンビネーションで最大16ティンバー分立ち上げる事も可能です.
CPUの処理スピードが追い付く範囲で発音数を自動コントロールしながらマルチに立ち上げられる為,ハードウェアシンセサイザーとしての限界に挑戦しているかのようなマニアも大喜びする仕様と言えます.
ここまでの複雑なエンジンを1台に収めた企画・設計力には脱帽です.


また,これだけの音源エンジンを同時に使用できるのに加え最大16基同時使用(インサーション12基,マスター2基,トータル2基)が可能な高品位エフェクトに48kHz/16bitサンプリング機能(AKAIフォーマット等一部の規格もロード可能),16トラックMIDIに16トラックハードディスクレコーダまで内蔵されたシーケンサ,そしてKARMA機能に至るまでを搭載しています.
もはや本サイトの文字数制限が邪魔をして詳しくは紹介しきれません!

※KARMA:いわゆるMIDIを使ったオートアルペジオの応用でプロが作り込んだ楽器特融の奏法等から生まれるアーティキュレーション等を自動で発生させるKORG KARMAに搭載されたシステムの総称


KORGのノウハウ全てが投入されていると言っても過言ではない仕様であり,シンセサイザーで出来る事のほとんどが1台に収められていると言えるのがこのOASYSなのです.
逆を言えば,初心者にはどこを触れればよいのか皆目見当つかない仕組みでしょう.
高品位なプリセット音色はもちろん用意されていますが,シンセサイザーとしては紛れもなく上級者向けのモデルです.

ちなみに,今回お借りしたのは76鍵モデルですがこちらの鍵盤は仕様書にも詳しい記載がありません.
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが,OASYS 76の鍵盤部分はYAMAHA製FS鍵盤のOEM配給らしいです.
筐体剛性等メカ構造が違うので多少タッチ感に差はありますが定評のある演奏しやすい鍵盤です.

ただ,ここまで来ると色々不都合もあります.
販売時の価格や仕様からもわかるかと思いますが高額なお値段といい,大型のLCDタッチパネルといい,重厚なデザインに相反する事ない重量と言い持ち運びに優れたパッケージングとは言い難いです.

尚,今回の修理依頼もタッチパネルの動作が不安定になっている(一時期は一切動かなくなった)と言う内容でしたが,この液晶パネルユニット自体も調べてみるとOEM配給品で振動・可動がどうしても多くなってしまうシンセサイザーでは耐久性に難があるようです.
一時期は修理依頼が立て続いたような噂もありますね.

USBポートが内蔵されているのでマウスが使えれば少しは救いなのですが,残念ながらマウスコントロールの仕組み自体が実装されていない模様で認識はしません.
Pentium4を独自にカスタマイズしたLinuxで動作させている為ファームでどうにかなりそうな気もしますが,メーカーとしては液晶パネルユニットの交換で対応している模様です(16年現在,保守部品の在庫があるかは不明)

それらの事からも判る通り,一部のプロユースや制作ベースでの使用が主な用途と言えます.

現場での「対応性の高さ」、PCにはないリアルタイム性にこだわったミュージック・ワークステーションKORG KRONOS (Kronos2) 61 Key Model【p5】

実はOASYSプロジェクトと言うのは発売された2005年よりもはるかに昔から開始されており,プロトタイプ等は1994年のNAMMショーより出展されていました.
その後,量産機としてのKRONOSへと受け継がれた為,残念ながら現在では製造完了品で市場にはなく,OASYSブランドの長い歴史に幕を閉じています.

しかし,後継のKRONOSシリーズは音色フィードバックに対応していますのでスタジオ制作はOASYS,ライブは可動性のよいKRONOSシリーズと言ったKORGユーザーに優しい互換性が保たれ現在でも維持されています(ただしKRONOSからOASYSへのリロード等一部未対応)

以上の事から,車で例えるならばピュアスポーツカーのようにユーザーを選ぶモデルとは言えますがシーンさえ合えば非常に強力な機種である事は言うまでもありません.


修理目的での調査の一環でしたが,個人的には非常に盛り上がりました.
修復可能かはこれから内部を詳しく見ての判断となりますが,早くタッチパネルを復活させて第一線に戻っていただきたいですね.

発売当初は仕様を見るだけでも興奮したものですが再び購買意欲が甦ってきました!
皆さんも,店頭等でKRONOSシリーズに出会ったら是非試演してみてください.
お値段以上の価値があると思いますよ.





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最終更新日  March 5, 2016 01:09:55 PM
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