2003年12月22日
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父が退院した。

怪我して、発熱、救急車で搬送されてから、14日目。
もう、父の気持ちは、限界だった。
「早く、退院したい・・」
手の甲に点滴の針をさしたままなのに、
「明日の血液検査の結果が良ければ、退院しましょう」
と昨日先生に言われてから、
そわそわと、退院の用意をし始めた。
こちらは、熱がちゃんと下がってから・・・・。
帰ってきてからの対処の大変さに、まだ、準備が出来てないのに・・・と言う思い。
しかし、、夕方
「退院して良いですよ」
のお言葉。
ヒェーー大変だぁ。
まだ、空気清浄機も、「酸素、酸素」も買っていないよ~。
犬の事も決めてない・・・・。
慌てて、パパに電話。
「解った、すぐ行く」

しかし、父の行動は、素早かった。
あっという間に点滴の針を抜きに走り、
着替えてしまった。
片付けをしている母をせかせる。
ただただ、犬に会いたい一心なのだ。
しかし、その犬が、父の命取りに成り兼ねないのだから複雑だ。
こちらが、思うより早く、用意が出来、清算を済ませてしまった父は、そそくさと病室を後にした。
私は慌てて電話しに走った。
「パパ、大変、もう、退院しちゃうよ」
「そうか、仕方ないから先に帰っていてくれ」
ウ~、私一人で大丈夫だろうか・・・・。
あんなに犬に会いたがっている。
あれほど説得したのに、まだ、納得していないのだ。
それを何とか、今のうち、阻止できる方法は・・・?
・・仕方ない、私の父だ。
話して解らない訳はない。
やってみよう。

一階のロビーに下りた父は、感染防止の大きなマスクをしてソファに座って待っていた。
「お父さん、ちゃんと聞いて」
「何だ?」
「あのね、先生は、犬に触っちゃいけないって仰ったんだよ。」
「何言ってんだ、大丈夫だよぅ」
マスクを通して聞こえてくる下町調子の威勢の良い言葉が、返って私を不安にした。
「何言ってるの。あれほど言ったじゃない。大丈夫じゃないんだよ。本当に、お父さん感染したら死んじゃうんだよ。」
「・・・・。」
「お散歩は、良いって仰ったんだから、我慢してよ。触っちゃダメって言われたんだから、言う事を聞いて」
「・・・。」
まだ、納得していない。困った。最後の手段。
「良いよ、言う事聞いてくれないなら、今から電話して、Aチャンにうちに連れて行ってもらうから」
「そんな可哀想な」
「だったら、触らないって約束して」
暫く考えて、父はとうとうコクリと頷いた。
「本当ね、本当に約束だから」
「解ったっ!」本当にまるで駄々っ子のようだ。
やっと、攻防戦に勝った。
「約束だからね」
うん、うんと頷く父に一抹の不安は残ったが、今は仕方なかった。

車を回し、荷物を積み、帰宅途中で薬局に寄り、
消毒のためのポンプ式の消毒液と、大きな抗菌マスクの箱を買った。

車の中の父はおとなしかった。
ただ、ポツリとつぶやいた言葉が胸に刺さった。
「なんで、俺、こんな病気になっちまったんだろなあ」
本当だよね。
泣きたくなった。
でも、今は泣けない。泣かない!
お父さん、貴方が苦しむのは、多分これからです。
でも、いつも、私が傍にいる事、忘れないで。
心の中でつぶやいた。

大きな秘密を持った。
でも、それは、私一人の苦しみではない。
父の為の秘密をこれから、家族と共有していくのだ。
私は、もう、大丈夫。
泣くのは、検査結果がはっきりして、父の命が消えてから。
泣くのは、父の命を諦めた事になると言ったパパの言葉通り、私は諦めない。
症例を信じない。
数々の困難を運と努力で切り抜けてきた父が、また、奇跡を起こす事を信じよう。

家に着き、母と二人で部屋を消毒して、父を中に入れた。
ジュンは父の匂いを嗅ぎ分けて、甲高い声で鳴き続ける。
「触りたいなあ。抱いてやりたいなあ」
父がガラス越しに庭に放たれたジュンを見てつぶやいた。
可哀想になった。
これで良いのか?心が元気じゃなかったら、体も元気にはならないじゃないか。
でも感染が怖い・・・・。考えた。そうだ!!
「お父さん、触りたい?」「うん」
「じゃ、マスクして、コートを着て、帽子かぶって、庭の外からなら触って良いよ」
父は、本当に素早く用意をし、まるで子供のように靴を履いて外に出た。
門を出て、庭を駆け回るジュンを背伸びをして、外の塀の柵から手をのばして触った。
あまりの嬉しさに慌てていた父は
玄関横から、低い柵に行ける事に気づかないのだ。
父の姿に「哀れ」を感じ、
「お父さん、こっちにおいでよ、こっちからなら頭もナデナデ出来るよ」
と言うと、父は嬉しそうにゆっくり、しかし、今の父にしては精一杯の速さでやってきた。
興奮して甘える犬に「そうかそうか、よしよし」と言いながら、頭を撫でる父の嬉しそうな顔。これで良いんだ。改めてそう思った。

ひとしきり相手をして父は満足そうに家に入った。
手を洗い、消毒した父は
「満足したよ」
笑顔が嬉しかった。

それからの私は、父が寝るまでの間に寝室を消毒しておかなければならないため、
帰ってきたパパと、空気清浄機と、酸素を吸う事の出来る機器を買いに走り、父の寝室に設置したりと、大変だった。
そして、帰宅。
家にいた娘達に報告し、遅い夕食を摂りに出かけた。
これから、きっと、もっと大変になるだろう。
でも、負けない。






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最終更新日  2003年12月23日 10時47分45秒
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