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名探偵といえば誰もが名前を挙げるのが、シャーロック・ホームズです。そして、著者コナン・ドイルと同時代に生き、ホームズのライバルたる探偵を登場させたのが、R・オースティン・フリーマンです。 名探偵の名はソーンダイク。 彼が生まれるまでの経緯は、フリーマンのエッセイに書かれています。 フリーマンは法医学者でした。20年間の医師の仕事を経て、コナン・ドイルに影響を受け、作家になりました。ホームズと少し種類の違う法医学の観点に立った探偵を生み出すことは可能だろうか?という思いが原点でした。 眼科医として働いていたとき、眼鏡の処方箋の式と眼鏡そのものが身元の証明になるのでは、とフリーマンは考えました。 例えば、列車に残された眼鏡から、その制作者がわかれば、眼鏡の持ち主がわかるというわけです。 かくて、登場したのが、化学者探偵ジョン・イヴリン・ソーンダイク博士です。ソーンダイク博士は、指紋や血液などの科学手掛かりを分析しながら推理する科学探偵です。「科捜研の女」のルーツみたいな人ですね。 シャーロック・ホームズが活躍した『ストランド・マガジン』誌のライバル誌『ピアスンズ・マガジン』で活躍しました。 参照元:R・オースティン・フリーマン『私の探偵ソーンダイク』グーテンベルク21 析…セキ 斤…キン
May 18, 2020
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神楽坂のマンションで、ホステスが襲われる事件が起こりました。犯人の新宮は、ホステスの弟、武藤に交換殺人を持ちかけられたと供述しました。新宮の妻は既に殺されていて…。 法月綸太郎シリーズの中編集『法月綸太郎の新冒険』から。 探偵役の、綸太郎の父は警視で、綸太郎は父に協力する形で事件に臨みます。エラリークイーンと全く同じ設定です。警察官らしい父親の真面目な捜査に、自由な視点から事件を眺めて糸口をつかむ息子の推理が加わるテイストも。 作者の法月綸太郎氏は、影響を受けた作家の筆頭に、エラリー・クイーンの名を挙げています。 フェア・プレイ、サプライズ・エンディングの条件を満たす文句ない本格推理小説です。 参照元:法月綸太郎『法月綸太郎の新冒険』講談社文庫
May 17, 2020
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東京の商店街で生まれ育った俺、新井和也は、大学卒業前に急逝した父の後を継いで家業のアライクリーニングを継ぐことになりました。 4月、同級生たちは次々に就職が決まり、ぱりっとしたスーツに身を包んでいるのに、慣れない仕事で失敗して前向きになれない和也。 そんな和也も、厳しく、でもさりげなくフォローしてくれるアイロン職人のしげさん、喫茶店でアルバイトをする直也たちに助けられ、成長していきます。 集荷作業で預かった衣類から生まれた謎を直也に相談すると、思いがけない推理が返ってきます。 河野さんから預かる洗濯物に、子供服が交じるようになり、奥さんのパジャマまで入ってきました。奥さんが仕事で忙しいからというのですが、子どもの雅史くんは「洗濯しないで」と言います。河野さんに何が起こったのでしょう? しげさんは真相に気づいたようです。直也も。(『グッドバイから始めよう』) 道を歩けば、困った動物も人もどこからともなく和也のところにやってきて、捨てておけない和也は、つい面倒を見る羽目になります。「いきものがかり」のような和也ですが、一途でちょっと天然、エールを送りたくなるキャラです。 直也もまた同じ。突き放したようなところがありますが、人の悩みは捨てておけず、和也と一緒に出向いていくことになります。 街のクリーニング屋さんも、今は大体大手の工場への取り次ぎだけになってしまいました。預かった衣類からお客さんの生活が見えてくることもない、否、あえて見てはいけない時代なのかもしれません。 解かれた謎も、大きな犯罪に関わるようなことではなく、ごく日常のこと。でも、直也と和也の助言は当事者の生き方を少し豊かに、広く変える力を持っているのです。 参照元:阪本司『切れない糸』創元推理文庫
May 13, 2020
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店…テン、みせ 舗…ホ日常のちょっとした謎を解くミステリー。舞台は病院内のコンビニ店舗です。 売り上げに難ありの院内店舗に、本部から派遣された小山田昌司は、POS(ポイント・オブ・セールシステム)至上主義のエリートでした。けれど、院内の特殊な状況がわかるにつれ、患者や石たちの心に連れ添った仕事を目指すようになります。 ゴミ箱に捨てられた、真新しいサッカーシューズとボールの謎。最高級の猫缶を求める婦人の謎。…謎を解いた小山田は、売り上げ促進のキャンペーンにからめて、患者・医師の心を癒やしていくのです。 小山田の行動力と、それに応える商品開発部の紀田麻里の気概が凄い。小山田の…大人数のニーズに応えると同時に、たった一人の欲求にも眼を向けることをやめてはならない…Point of Satisfaction=販売時点満足度=数値で測りきれない、心に届く商品を提供することは、実際の企業内で実践しようとしたら大変なことだとは思いますが、心に響く言葉でした。 今、この時代に、インフラ最前線に立ってくださっている、コンビニやスーパー、小売店の販売員の方々に心から感謝いたします。
May 7, 2020
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29歳、版画家の真希は、7月の午後、交通事故に遭いました。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから覚めたところでした。昨日図書館で借りた本があり、昨日の服装で…。今日でないところに真希はいました。電話をかけても誰も出ない、街には人間どころか虫もいない世界でした。理性が壊れてしまっただけ。そう考えると説得力がある。でも、そうは考えたくない。…《だったら、どうする》に繋がらないもの。 それから、彼女は3時15分になると昨日に戻るという繰り返しの世界に、ひとりで暮らすことになります。戸惑い、慌てながらも、真希はこの世界のメカニズムをつかもうと、仮説を立て、検証し、次にするべきことを考えます。さしあたってできることをしようと行動します。 そして、150日が過ぎたとき、一本の電話がかかってきました。 《孤独の権化》になりながら、時に大きな失望を持ちながら、自分の世界を切り開いていく真希の強さにひかれます。強さというより、しなやかさかもしれません。 無限の繰り返しに過ぎないと思っていた日々が有限だと気づいたとき、真希は戦慄します。今、目の前を過ぎて行く一瞬一瞬がたまらなく愛おしいものとなった。 私たちの生活は、昨日に戻らないとはいえ、単調な繰り返しであることは同じかもしれません。でも、この一瞬一瞬が大切だと思いながら生きられたら幸せだと思います。 引用および参照元:北村薫『ターン』新潮文庫
May 3, 2020
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小劇団を主宰する女優、紅林ユリエの恋人であり同居人の三津池、通称ミケさんの特技は料理、そして謎解き。 劇団員のミーティングで、おいしい料理を提供しながら、謎を解いていきます。 『マイ・オールド・ビターズ』 ミケさんはビールの手作りセットを入手してご機嫌です。それを目にした劇作家の小杉隆一がひらめいて書いた台本が『マイ・オールド・ビターズ』。 ビヤ樽で眠り続けた男が目を覚まして、眠りにつくまでの出来事を語るという話です。 公演が終了した後、ある金持ちから、自分一人のために別荘で上映してくれないかという依頼がきます。200万円のギャラ、信州の温泉つきと、示されたのはとてもいい条件でしたが…。 おいしい話には罠が…ある…かもしれません。連作短編の形をとりますが、フルコース食べてからでないと、本当のおいしさはわかりません。 ミケさんにも秘密があり、ユリエと小杉は謎その謎に挑みます。 最終章は文庫版になったときに加筆された部分ですが、作家として売れてきた小杉がミケさんに合作をもちかけ、提案したペンネームに笑ってしまします。 全編ユーモアのうまみ調味料と、運命のスパイスに味付けされていて、あきずにいただけます。一冊食べればお腹も満足です。 参照元:北森鴻『メイン・ディッシュ』集英社文庫
April 29, 2020
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北森鴻の『なぜ絵版師に頼まなかったのか』は、題名は言わずと知れたクリスティの名作のパロディー。 内容は全く異なりますが、クリスティーに劣らぬ本格ミステリーです。元町 昔 横浜新埠頭で、アメリカ人水夫が「なぜエバンスに頼まなかったのか」と言って、仲間の水夫を射殺した後、自分も自殺する事件がおこりました。 新聞記者の市川歌之丞は「エバンス」ではなく「絵版師」と言ったことを聞き込んできました。 東京医学校の教授ベルツは、給仕の冬馬に情報を収集させ、謎を解いてみせます。 連作短編集『なぜ絵版師に頼まなかったのか』の標題作。 本書でベルツが語る日本文化への思いは、実在したベルツの思いそのままです。西洋人が数百年の時をかけて育てた文明を、日本は十三年程度で吸収しつつありました。古き日本の文化を否定することで、外国文化に同化しようとする日本に対して、ベルツは文化は革命ではなく、進化によって成長を遂げなければならない。と説きます。ユーモラスかつ真面目なミステリーです。 引用および参照元:北森鴻『なぜ絵版師に頼まなかったのか』光文社文庫
April 27, 2020
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『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』は、言わずと知れたクリスティの名作です。 ポワロやパーカー・パインなどおなじみの探偵が出てこないノンシリーズの一作。 ゴルフの途中で、ボビイは崖下に転落した瀕死の男を発見しました。男は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」との言葉を残して亡くなりました。 その言葉のせいか、ボビイは命を狙われる羽目になりました。幼なじみの活発な伯爵令嬢フランキーも加わって、ボビイは謎を追います。 若い二人の主人公たちのキャラが好ましく、気持ちよく読めます。ボビイは、破格の条件の就職先より、友人との共同経営の約束を大切にするような、筋の通った性格です。行動的でピンチになってもユーモアを忘れないフランキーとはいいコンビ。 この二人だからこそ、応援したくなります。 最大のピンチの時、文字通り天から降ってきた助けにも笑ってしまします。 ポワロもののように、もったいぶったところがなく(失礼!)テンポよく読めます。比較的初期の作品で、『オリエント急行殺人事件』『三幕の殺人』と同年に書かれた作品です。 参照元:アガサ・クリスティ『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』早川書房
April 26, 2020
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北森鴻の連作短編集『なぜ絵版師に頼まなかったか』は、明治初期に東京大學医学部教授ベルツの給仕として、働くことになった葛城冬馬がワトソン役のミステリー。 冬馬を相手に謎を解き明かすベルツは実在の人物。ドイツ、ライプツィヒ大学で当時の最先端の内科医学を学んだエルウィン・フォン・ベルツは、医師として日本に招聘され、東京医学校(後の東大医学部)で29年間教鞭を執りました。 天皇家の侍医を務めた後帰国しています。 日本語が達者で、日本の伝統美術・工芸を頃なく愛し、日本人の戸田花子と結婚しました。 面白いことに医学のみでなく、温泉の開発、伝統的武芸の再発見などにも多大な貢献がありました。 第二話の『九枚目は多すぎる』が『九マイルは遠すぎる』からインスパイアされた作品。 ベルツの書生になって東大予備門に通う冬馬は、フェロノサの悪い噂を憂いています。《アーネスト・フランシスコ・フェロノサも実在の人物。先に来日していた(大森貝塚で有名な)モースの紹介で、アメリカから来日、東大で哲学等を教えました。日本美術に深い関心を寄せ、岡倉天心と共に東京美術大学の設立に尽力しました。》 古き良き日本の伝統工芸・美術へ人々の目を向けさせてくれたのはいいのですが、フェロノサが美術品を買いあさって、そのことで値をつり上げていると言われているのですが…。 古物商が毒殺されたことの調査から、日本の存亡に関わるようなスケールの事件に発展していきます。 第一話の『なぜ絵版師に頼まなかったか』では、ベルツ教授と友人が議論しているとき、冬馬が何気なく「なぜエバンスに頼まなかったか。雨の夜ならなおさらだ、とか」とつぶやきます。 これももちろん「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」にひっかけた台詞。 全編ユーモアに満ちていますが、史実には忠実です。実在のベルツの日本文明への考え方もきちんと踏まえています。その上に作者の文明観が構築されているので、とても厚みのあるミステリーです。 参照元:北森鴻『なぜ絵版師に頼まなかったか』光文社文庫
April 23, 2020
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有栖川有栖の『四分間では短すぎる』は、ハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』にインスパイアされ執筆された作品です。学生アリスシリーズの短編集『江神二郎の洞察』の中の一編。 ぼく有栖川有栖は、部員4人という弱小の、英都大学推理小説研究会に入りました。駅で電話をする用事があったぼくは、隣の公衆電話で話す男の話が耳に残りました。 「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。…いや…Aからです」 奇妙な言葉にどんな意味があるのか、ぼくは研究会の先輩たちに話してみました。『九マイルは遠すぎる』ゲームが始まります。 導き出される推論は理にかなっていながら、時にこじつけになるところが愉快です。本筋からそれた推理小説論がさらに面白く、読ませます。 『九マイルは遠すぎる』の書かれた経緯は、推理小説ファンには有名です。教職にあった時代、ケメルマンは生徒に、新聞の見出しにあった「九マイルもの道を~」の文章から可能な推論を引き出すようにと、問題を出したのですが、芳しい答が得られませんでした。それなら、と自分で考察して解答を得るまで14年かかったそうです。 「四分間」から、清張の『点と線』の「四分間の空白の不自然さ」に話が飛び、エラリー・クイーンの『日本樫鳥の謎』、都筑道夫まで登場します。 ミステリー愛にあふれた作品。パズルのような面白さの作品です。 参照元:有栖川有栖『江神二郎の洞察』創元クライム・クラブ
April 22, 2020
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安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)は、現場を見ずに、その場にいた人の話を聞いただけで謎を解くミステリーです。 最初に有名になったのは、バロネス・オルツィ『隅の老人』シリーズ。また、会食や会合での話から謎を解く設定では、アシモフの『黒後家蜘蛛の会』や、クリスティーのミス・マープルものも有名です。 安楽椅子探偵として『隅の老人』に次いで名前が挙がるのが、ハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』です。 郡検事選の候補になったばかりのわたしは、ニッキイ・ウェルト教授と食事をしながら、論理的な推論について話していました。 ニッキイ・ウェルトの「たとえば十語ないし十二語からなる一つの文章を作ってみたまえ。そうしたら、きみがその文章を考えたときには思いもかけなかった一連の論理的な推論を引き出してお目にかけよう。」の言葉に対して、わたしは「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という文を言い出しました。 ニッキイと私は歩きながら、どういう状況で発せられた言葉なのかを討論します。九マイルというきっちりした距離、車や電車を使わなかったこと…などから、具体的な状況を導き出していくと…とんでもない犯罪の推論が浮かんでくるのでした。 納得できる根拠を示しながら、飛躍する推論の行き先に引き込まれます。読んでおきたい古典的ミステリーの一つ。 参照元:赤木かんこ・編『安楽椅子の探偵たち』ポプラ社 から ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』
April 21, 2020
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この世界には多くの並行世界が存在して、人々は無自覚にその間を行き来している、というのが、話の前提です。 乙野四方字の『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ』の二冊は、同じ「高崎暦」を主人公にした並行世界の話。 ごく近い隣の世界から、全く違う遠い世界まで、いくつもの世界があって、それぞれの自分が生きていると考えると、複雑な気分です。過去のある時点で、自分が選ばなかった選択肢を選んだ世界が存在するのです。 いろんな世界にシフトして一番居心地の良い場所を選ぼう、この世界で失敗したら、失敗していない遠い世界へシフトしちゃえばいいか、なんて都合のいいことにはなりません。二冊とも、重い現実をテーマにしています。別立てのストーリーですがシンクロする二冊なので、まとめて読んだ方が面白くなります。 世界は一つであってほしい、自分は一人であってほしい、というのが感想です。 参照元:乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』 『君を愛したひとりの僕へ』 ハヤカワ文庫
April 18, 2020
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奥さんが亡くなって一人暮らしになった亀井のおじいちゃんが、兎野さんに相談に来ました。「家の中に座敷童がいるみたいなんだが。」びっくりした兎野さんは、息子と一緒に亀井さんのうちを訪ねます。「えっと、あの、座敷童…わたしたちにも見えるみたいなんですが」 座敷童の正体は?おじいちゃんには、すっと消えてしまうように見えたのは何故?友人に相談して謎を解いた、兎野さんの息子。現代的な座敷童です。座敷童が住む家は栄えるというので、今後もきっといい方向へ向かうでしょう。 『Acrobatic 物語の曲芸師たち』というアンソロジーの一編です。題名がぴったりの、ひねりのきいた短編でした。 参照元:『Acrobatic 物語の曲芸師たち』から 加納朋子『座敷童と兎と亀と』
April 15, 2020
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〔円紫師匠と私〕シリーズ第4作ですが、好みは分かれるところだと思います。 芥川龍之介が自らの短編『六の宮の姫君』について《あれはまさに玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ。》と、若い作家に語ったという設定で、その言葉の意味するところを推理するミステリーです。 謎はそれだけ。日常の謎からも遠く、書籍の中の話が大部分なので、多少とも近代文学をかじっていないと疑問符の連続になります。 芥川龍之介を中心に、菊池寛、谷崎潤一郎、志賀直哉…といった錚々たる文豪たちの書籍・書簡を通したやり取りから、彼らの関係が掘り下げられ、主人公は推理します。 著者の博識には脱帽です。普段知らない、出版社の事情や国立国会図書館の様子なども面白いです。 芥川龍之介たちが浮き彫りにされるのに比べると、主人公の私を取り巻く人物は、どちらかというと平凡な印象です。文豪たちの方が生身の人間らしく思えてしまいます。 同じ大学の文学部所属とはいえ、女の子二人の旅行で、ずっと芥川龍之介の話題で盛り上がるというのは、考えられないかな。 参照元:北村薫『六の宮の姫君』創元推理文庫
April 12, 2020
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当たり障りのない話題と言えば、天気の話題などがそうでしょう。 伊坂幸太郎の短編『Weather』の主人公、ぼくは、天気の話題をふるために、かなり専門的な話まで研究してしまいました。それというのも、女性関係盛んな友人清水のせい。 今日は、清水の結婚式。清水が選んだのは、格別有名でもないレストランでのカジュアル・ウェディングでした。 場所決めやキャンドルサービスの順路にこだわり、何かを隠しているような清水の行動に、妻になる明香里は、女性関係を疑います。 新郎なのにやたら料理を頬張り、明香里にも勧める清水の行動は、僕からみても変でした。 しかし、披露宴の終わりに、僕は謎の真相に気がつきます。明香里も。 ペンネームに「幸」がつく作家による「幸せ」をテーマにしたアンソロジーの一編です。ひねり技から鮮やかな着地が決まる、伊坂幸太郎氏らしい物語です。 参照元:『Happy Box』PHP文庫 から 伊坂幸太郎『Weather』
April 11, 2020
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落語の『死神』は、人間の生死を決定し、黄泉へと導く存在ですが、こちらの『死神』は、人の命を奪ったり死後の世界へ連れて行くのでなく、ひたすら死を看取るのだけが仕事です。 吉祥寺の行きつけのバー〈キャリオット〉で、偶然死神にウィスキーをかけてしまったことから、私は死神の姿が見えるようになってしまいました。他の人はバーに死神が入ってくると、挨拶し、会話し、けれど彼が帰ってしまうと存在を忘れます。 私だけは彼の存在を覚えています。バーで何度も会い、話す死神は、人間のような感情はないと言いながら、豊かな感性を感じさせました。 やがて、私は死神の「幸せ」を知ります。本当の幸せはただそっと寄り添うように訪れる。(だから、気づきにくい)という死神の言葉が、染みとおります。 ちょっとビターな「幸せ」のミステリーです。 引用および参照元:『Happy Box』PHP文庫 から 小路幸也『幸せな死神』
April 10, 2020
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妻の瑠璃子さんに先立たれ、男手一つでふうちゃんを育てる、ハルさんの父親成長記録。 ふうちゃんの成長の節目節目でぶつかる、5つのミステリーに、瑠璃子さんの声がアドバイスをくれます。一つ一つ謎が解かれるときはまた、親子関係の変化の時でもあります。 そして今日、ふうちゃんは、ハルさんの元を旅立って結婚します。ハルさんは、ふうちゃんが長谷さんという伴侶を選んだ訳という最期の謎を解きます。 第5話 人形の家 人形作家として高名になったハルさんの、エンジェルシリーズの一体を買ってくれた三輪坂夫人から、浪漫堂に電話がかかってきました。「うちの可憐ちゃんが、よその子と入れ替わっているんです。」と。 気になったハルさんは浪漫堂主人と一緒に三輪坂夫人の家を訪ねました。ハルさんの作った人形には間違いないのですが、もともと三輪坂夫人に納品された人形なのか、他の人に売られたものなのか、ハルさんにもわかりません。 瑠璃子さんの声は、「パン職人さんだったら三つ編みもお手のもの」と告げます。 作り手が人形に命を吹き込み、所有する人の慈しみが、人形を生かし続けるのでしょう。それは子育ても一緒。 不器用でぽわんとした雰囲気のハルさんと、器の大きな浪漫堂さんと、しっかり育っていくふうちゃんの、やさしいミステリーです。 参照元:藤野恵美『ふうちゃん』創元社推理文庫
April 8, 2020
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ユニークな人々が暮らす花咲小路商店街。 「和食処 あかさか」に孫の「ジュンちゃん刑事」が帰ってきました。転勤に伴って二階に同居することになったのですが、非番の度に、ばあちゃんから、「あのね、淳ちゃん」と商店街に起こる事件を相談されることになります。 餌を食べなくなった猫のマロンは、どこでえさをもらっているのか?本屋の店先にレモンが置かれていたのはなぜ?などなど。 「テイラーメイド騒動」では、トラックの運転手が年2回高価なテイラー・メイドのスーツを注文するのは何故?という事件です。しかも帳簿には代金が計上されていないのです。その訳は…深い。 ごく日常的な事件なのですが、たまに非日常的スパイスで味付けされています。事件現場ごとに先輩刑事が目にするミケさんも謎めいた女性。 昔は「昇り龍の辰」と呼ばれたという、背中に龍を背負ったじいちゃんの言葉には説得力があります。「悪い方に考えりゃあ何でも悪く思える。良い方に捉えりゃあよく思える。」「…休みの日は信じることで終わってみるのも一興じゃあねえのか」 都会のマンション暮らしとは真逆の、地域密着型生活のミステリーです。昭和がここに残っていたか感のある商店街。でも、住んでいる人の中には、一癖二癖ありそうな人がちらほら。 「花咲商店街」シリーズの一冊です。 引用および参照元:小路幸也『花咲一丁目の刑事』ポプラ文庫
April 5, 2020
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『サイン会はいかが?』は、書店、成風堂シリーズの3冊目 しっかりした書店員の杏子と、不器用ながら勘の鋭いバイトの多絵が、書店に持ち込まれる謎に挑みます。ほかは長編ですが、この一冊は短編集です。 「君と語る永遠」 平日の午前11時は、本屋に訪れるつかの間の平安の時。今日は小学生の一団が社会見学にやってきました。 説明を聞く子供たちから離れて、上段の分厚い辞書に手を伸ばす一人の男の子の姿が、杏子の目を引きました。 「まだ持てない。ちゃんと掴めない。」つぶやいた少年の秘密は? ペーパーレスの時代になっても紙の本が存在することの意味を教えてくれる作品です。辞書の厚さは、人間の叡智の詰まった厚さ。そのことを少年は学んでいくでしょう。本に託す、人の気持ちが響きます。一冊の中で1番好きな話です。 本屋事情もわかって、ワーキング小説としても面白く読めます。「取り寄せ」の大変さ、帯のトラブル、付録の輪ゴムがけ・紐がけにビニール封入という雑誌類の準備からゴミの片付けの苦労まで。さりげなく描かれた雑多な仕事が、きちんと伏線になっています。本の数だけトラブルの芽が潜んでいる。そして、ありがとうの笑顔も待っている。 引用および参照元:大崎梢『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』創元社推理文庫
April 3, 2020
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『横濱エトランゼ』は、横浜を舞台に、普通の人たちの何気ない想い出にまつわる謎を解いていく連作短編集です。一話ごとに『元町ロンリネス』『根岸メモリーズ』『関内キング』…と、おしゃれな題名がついています。イギリス館 タウン誌の「ヨコハマ・ペーパー・コミュニティー」(「ハマペコ」)編集部でバイトをすることになった高3の千紗は、撮影で借りたランタンを、ビストロ・ランタンのシェフに返しに行きました。 千紗が読者からの葉書で知った「横浜 山手 洋館七不思議」が話題になりました。スマホで関連サイトを見せると、急にシェフの顔色が変わって…。(『山手ラビリンス』)234番館 「4人の家族でもない人が、山手234番館に住んだのは自分だというが?時代は同じ、場所ももちろん同じ。」「111番館は二階建てか三階建てか」など、現地を訪れるとわかるちょっとした謎が出てきます。 全体のテーマは、高校時代のシェフのもっとおおきな謎。 横浜名所案内のような要素もあり、行ってみたくなります。また、横浜の歴史も解説されていて、勉強になります。 殺伐とした犯罪ミステリーではなく、日常のちょっとした謎が解決されるミステリー。過去にすれ違ってしまったロマンスは取り戻せるでしょうか…。 大学進学とバイトの終了の時期、千紗は思います。今日のこの日の眺めだけは忘れずにいよう。と。心の風景も、街の風景も。
March 29, 2020
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原田マハの『あなたは、誰かの大切な人』には六つの短編が収録されています。主人公は、職業や経歴は様々ですが、現在おひとりさまの大人の女性。単純に大切な人とつながってハッピーエンドという話ではありません。 ビターチョコの味がする短編集です。 『月夜のアボガド』メキシコ人の移民の両親から生まれたエスター79歳は、私の大切な友人。おいしいメキシコ料理で歓待してくれます。彼女は60歳で再婚してわずか4年の結婚生活の後、夫を見送りました。“あの四年間のために、彼も私も、この人生を授かった気がするの。”最愛の夫との間には感動的なエピソードがありました…。 私のパートナーとの関係も交差する、大人の恋愛のお話です。 引用および参照元:原田マハ『あなたは、誰かの大切な人』講談社文庫
March 25, 2020
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妻を邪魔だと思う二人の男が偶然出会って、交換殺人を計画しました。岩城は、酒の上の話だと思っていたのに、妻は本当に殺されてしましました。しかも現場は密室…。 捜査に乗り出したのは、密室大好きな黒星警部。 「黒星」という名前だけで、どんなキャラか想像もつこうというもの。不可能犯罪マニアであることが災いして、話をややこしくした上、手柄は部下にとられて、左遷に次ぐ左遷の末、埼玉県白岡署に飛ばされたという経歴の持ち主です。 本来「交換殺人」であるべきタイトルが「交換密室」となった意味は??二転三転の展開があり、犯人は意外でした。 参照元:折原一『模倣蜜室―黒星警部と七つの蜜室』光文社文庫
March 13, 2020
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3月7日は、仁木悦子の誕生日です。 仁木悦子は、児童文学から出発し、明るい作風から「日本のクリスティ」とも言われました。 胸椎カリエスのため車椅子生活であり、知識も独学で身につけた作者だとは、言われなければ全くわからない、きちんとした、しかしナチュラルな文体が好きです。『空色の魔女』は、幼稚園教諭、深瀬妙子が受け持ち児童の家庭に起こった事件の謎を解きます。 妙子が子供たちに描かせた「白雪姫」の絵のうち、さゆりの絵は変わっていました。空色のきれいな服を着た魔女が、真珠のネックレスを差し出しているのです。 PTA の集まりの日、母親にその話をすると、顔色が変わって…。 妙子は、この後の事件の真相に迫ります。 仁木悦子の作品はみなそうですが、本当に真面目な推理小説らしい推理小説です。もちろん時代背景もあるのですが、余計な味付けで誤魔化さないミステリーです。 参照元:『メルヘン・ミステリー傑作選』河出文庫 から 仁木悦子『空色の魔女』
March 7, 2020
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