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『三四郎』で野々宮さんが実験していたのが「光圧」でした。 光に圧力があるということは、普通に生活している中で実感がわきません。そんなものが存在するのでしょうか。 光とは何なのでしょう。 光は電磁波です。電波や紫外線の仲間で、これらはみな波長が違う電磁波です。目に見える光を可視光線といいますが、人間の目は可視光線以外は認識できません。 太陽光は白色に近い色に見えますが、波長の違う全ての色が混ざったのがこの白色です。私たちが目にする物体の色は、その物体が反射する色です。赤いりんごだったら、光の中の赤色だけ反射し、ほかの色を吸収しているので、私たちの目には「赤」ととらえられます。 光が電磁波だとすると、「光圧」(ぶつかったときのエネルギー)があることも少し理解できそうです。放射性物質から放出される波長の短いガンマ波は、鉛やコンクリートでないと遮蔽できないほどの透過力と強力なエネルギーを持ちます。X線にも電子をたたき出す力があります。 光は「波」としての性質を持ちますが、物体が振動する波でないところが、音波や水面の波と決定的に異なります。空気を振動させて伝わる波の「音波」は空気がないと伝わりません。水面の波も、水が振動して伝わるので、当然水がなければ伝わりません。 対して、電磁波は周囲の物体を振動させるのではなく、電場と磁場が交互に作られて伝わっていく波です。なので、空気や水という媒体を必要としません。 波である一方で、光はエネルギーを持つ粒子でもあります。光のエネルギーの最小単位はアインシュタインによって「光子」と名付けられました。 光の圧力はとても小さいので日常で感じられることはありませんが、ニコラスとハルの光圧実験装置でしっかり計測されました。(野々宮さんの実験装置の元ネタです)マックスウェルが立てた理論が測定値から実証されたのでした。 参照元:Newton別冊『光とは何か?』江馬一弘・監修 ニュートンプレス
August 26, 2023
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寺田寅彦に師事した中谷宇吉郎は、ふた夏かけて線香花火の実験を行いました。① 線香花火の火花の実体を見る。 ←硝子板を火球に近づけて火花を受け、顕微鏡で見る。 沸騰している火球を急に水の中に落としてその溶液の定性分析をする。 硝子板に受けた火花を洗いとってその液を調べる。② 火花の写真を撮って分裂の模様を見る。③ 火花の速度測定④ 温度測定という内容でした。1927年のことでした。 2018年には、井上智博氏が、高速度カメラによる撮影、液滴の温度計測を行って、線香花火の松葉の分岐について科学的に解明しています。吹き出しが中谷宇吉郎の観察によるものです。 宇吉郎の指摘通り、火球には酸化剤としての硝酸カリウムはもはや残っておらず、主成分は炭酸カリウムと硫酸カリウム、炭素であることを井上氏が確認しました。 井上氏の研究結果から、火球を飛びだした液滴が最大8回、連鎖的に分裂しながら描く軌跡が松葉火花の形になることがわかりました。 松葉火花の分裂については科学的に解明されましたが、気泡のガス発生機構についてなど、今後の研究が待たれる課題も残っています。化学とは花火を造る術ならん漱石が第五高等学校教員時代に作った『熊本高等學校秋季雑昹』の中の一句です。 ちなみに、寺田寅彦は第五高等学校での教え子で、漱石に俳句について教えを請い、それから長く交流が続くことになりました。 その寅彦の門下生が宇吉郎です。 寅彦は、中谷宇吉郎の線香花火についての研究がヨーロッパでも紹介されたことを喜び、「曙町の狸爺、ひとりでニヤニヤしているところをご想像くだされ」と宇吉郎に手紙を送っています。 参照元:『日本の名随筆73 火』作品社から 中谷宇吉郎『線香花火』 『日本燃焼学会誌第60巻193号』から 井上智博『線香花火の最前線』 小山慶太・編著『漱石と「學鐙」』丸善出版から 上林暁『漱石と五高』
August 11, 2023
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6月30日は「アインシュタインの日」です。 1905年(明治38年)のこの日に、アルベルト・アインシュタインが、相対性理論に関する初めての論文を発表したことから。 アインシュタインは1905年に「特殊相対性理論」「光の性質に関する理論」「ブラウン運動に関する理論」と3つの重要な論文を発表しています。このうち「光の性質に関する論文」でノーベル賞を受賞しました。 相対性理論については、この時代には実験で検証することができなかったため、ノーベル賞の対象にならなかったといわれます。 後に、光速度不変の原理、時間の後れと空間の縮みが実験によって確かめられ、アインシュタインの理論の正しさが証明されました。 「特殊相対性理論」は、重力を考えない慣性系の中での理論でしたが、1915~16年にはさらに一般化された「一般相対性理論」が発表されました。 「特殊相対性理論」を考えてみます。 昔は、音が空気を媒介として伝わるように、光はエーテルというものを媒介に伝わると考えられていましたが、マイケルソンとモーリーがエーテルは存在しないという実験結果を出していました。 後世になって光子(光)の速度測定ができるようになって、光の速度は約30万km/秒で一定であるという実験結果も得られました。(真空中での話です。物体の中を通るときは遅くなります。) 光速近いスピードで走っている宇宙船から光を発射しても、速度は光速です。外にいる人から見ても光速です。(もし、見えるとしたらですが。)私たちからすると直観や常識に反するのですが、実験から確認されています。 この「相対性原理」と「光速度不変の原理」が「特殊相対性理論」の土台になります。光速が不変だということを認めると、不思議なことが起こってきます。 よく「時間はだれにでも平等に与えられる」と言います。はたしてそうでしょうか? アインシュタイン以前は、空間・時間というものは絶対だとされてきました。時間は誰にとっても等しく流れると思われてきました。 電車に乗っている人も、電車の外で止まっている人も、お互いの時計は「同時」の時刻を指しているはずでしたが…。 以下は特殊相対性理論の時間を考えるモデルです。光速に近い速度で動く宇宙船を人間の目で見ることはできませんし、光を天井に向けて発射したら1秒かかるという宇宙船の天井の高さは30万kmになってしまいますから、あくまでモデルです。 宇宙船の中で真上に発射した光は、宇宙船の外から見ると斜めに進んで見えます。真上に行くより長い距離を進んだことになります。かかった時間=進んだ距離÷速度で、速度が一定だったら、Aさんの時間の方がBさんの時間より長い、つまり流れがゆっくりになります。 ただし、Aさんはゆっくりだとは感じません。宇宙船全体の時間がゆっくりになるので、Aさんにとっては普通の時間の流れになります。Bさんから見たときだけ時間が遅れたと言えます。 今度は等速で動いている宇宙船の中から、Bさんが上に向けて発射した光を見ます。 Aさんには、宇宙船の進行方向と反対に、宇宙船の速度でBさんが後ろに去って行くように感じられます。光は真上に行くのではなく、斜めに後退していくように見えます。 Aさんからすると、Bさんの時間が遅れているように感じられます。 空間にも不思議なことが起こります。光速に近い速度で運動する宇宙船から見ると、自分以外の空間が縮んで見えます。一方地上から見ると近づいてくる宇宙船が縮んで見えます。 光速だけが変わらず、時間も空間も絶対ではなかったのです。 実は新幹線に乗っても、旅客機に乗っても時間の流れはゆっくりになります。ですが、乗り物の速度が光速に比べると比較にならないくらい遅いので、時間のずれを感じることがありません。航空機に乗せた原子時計の進みがわずかに遅れることは実験で確認されています。 光には質量がありません。質量を持つものは光速に到達することはできません。質量は「動かしにくさ」になるからです。 特殊相対性理論から、エネルギーと質量は等価であることが導かれました。質量はエネルギーに変わり、エネルギーは質量に変わります。化学反応や核反応でエネルギーが失われると、その分の質量が減ります。 アインシュタインの公式はどんな物質でも莫大なエネルギーに変わることを示していますが、実際に効率よくエネルギーに変えるのは大変です。 広島に投下された原子爆弾では、ウラン235が0.7g程度軽くなったそうです。1g未満であの威力が出せるのですね。 太陽は核融合により、水素をヘリウム原子に変換して発熱・発光しています。毎秒約430万tの質量が減るそうです。桁違いのエネルギーの大きさです。 天文学や物理学は、誤りを訂正しつつ発展してきました。ある時代で絶対正しいとされた理論に反する理論を発表するのは大変なことです。観察・実験装置の精度が追いつかないため、発表の時点で証明できないこともあります。 アインシュタインの理論も、予言(ブラックホールの存在)も、時を経て次々と正しさが証明されました。 アインシュタインは、時代の先を行く天才であったと、改めて思います。 参照元:『相対性理論 増補第3版』ニュートン・プレス
June 30, 2023
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『砂の女』では、男が溜水装置を研究する場面が出てきます。きっかけは、鴉を捕ろうと仕掛けた罠に鴉はかからず、水がたまったこと。 砂地の底で水を手に入れるのは死活問題ですから、男は溜水装置にのめりこんでいきます。 男が作った鴉の罠に水がたまった原理は「毛細管現象」だと述べられています。 容器に入った水に細い管を立てると、水面が管の中のほうが管の外より高くなります。管が細ければ細いほど、水面の差は大きくなります。 詳細は文系おばばには??ですが、表面張力によって周りから水が押し上げられるらしいです。 植物が根から土中の水分を吸い上げる秘密も「毛細管現象」にあります。 管の形に見えなくても、タオルの繊維の隙間からも水は吸い上げられます。何気なく洗面器の縁にかけておいたタオルから水がぽたぽたたれていたという経験があります。『砂の女』の男が仕掛けた装置も、毛細管現象によって、砂の中から水が吸い上げられて、桶の木片の隙間を通って桶の中に水がたまったものでした。 ちなみに水銀は水と反対に、管の中の水面は周囲より低くなります。 男は気候に左右される溜水装置の観察、研究をしながら、誰かにこの話を伝えたい、そうだ村人に…と考えます。 もともとは「ニワハンミョウ」の新種を発見したいという、日常から離れた夢を追って砂地に来た男でした。 男はこの後、不自由な中に自由を見いだせる生活になじんでいったのだろう、村の生活をよくする発明、発見をほかにも考えていったのだろう、と想像しています。
April 26, 2023
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