ある時(といっても、上の経験からこの時まで20年近くが経過していたのだが)、70年前後にリリースされたストーンズをアルバム単位で聴くきっかけがあった。その中でも本作『Let It Bleed(レット・イット・ブリード)』(1969年)は、今までの自分の中でのストーンズのイメージをひっくり返すものだった。
ちなみに、以前聴いていたベスト盤はもっと後の時代が中心で、この時期の曲はほとんど収められていなかったのだから、印象が違うのは当り前かもしれない。けれど、『Let It Bleed』にも、いかにも後の「ストーンズ節」につながるノリの曲が含まれているので、必ずしもそうとは言い切れない。
考えてみるに、シングルやベスト盤で「ストーンズの真骨頂」のような曲をひたすら詰め込んで聴かされることで、いくらか食傷気味になっていたようだ。様々な曲がうまく散りばめられ、配列されたアルバム単位で聴いてはじめて「真骨頂」な曲が映えるのだ。『Let It Bleed』収録曲で言えば、2「むなしき愛(Love In Vain)」や、7「ユー・ガット・ザ・シルバー」のような曲は、シングル発売やベスト盤編集といった限られた選曲では選ばれにくいタイプの曲だ。前者はロバジョンことロバート・ジョンソン(1930年代米国の黒人ブルース・アーティスト)の名曲で、英国のストーンズが古典的ブルースを彼ら流に見事に血肉に変えていることがわかる。他方、後者はカントリー調の曲で、内にストーンズらしさを保ちながら表面的には見事にカントリー風アレンジをこなしている。