音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年05月21日
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テーマ: 洋楽(3408)




 エルトン・ジョン(Elton John)がデビューしたのは1969年(アルバム『エルトン・ジョンの肖像(Empty Sky)』)だった。その前にも下積み時代があり、ソロやブルーソロジーというバンドで活動していた時期もあった。1968年に盟友バーニー・トーピン(エルトンの曲のほとんどがこの人物との共作)と出会った後も、しばらくはソングライターとして他人の曲ばかり書いていたし、売れない頃はいろんなオーディションにも参加した(キング・クリムゾンのヴォーカル・オーディションにも参加して落選したとのこと)。その当時、60年代は、ビートルズに象徴されるように大衆音楽が劇的に変化していった時期だった。エルトン・ジョンはソロとしてデビューした後、1970年のアルバム 『僕の歌は君の歌(Elton John)』 でまもなく人気を集めるようになるわけだが、それは、ちょうどビートルズの終焉と重なる時期に当たる。大雑把にまとめてしまうと、ビートルズが解散し、それと入れ替わるようにして登場してきたエルトンはよくも悪くも英国のポップ・シーンを、プラスの遺産からポスト・ビートルズの厳しい批判に至るまで、まとめて背負い込むことになった。

 そこからおよそ30年の歳月が流れ、時代は21世紀に突入した。その間、エルトン当人にはいろいろなことがあった。結婚と離婚、薬物依存、アル中、カツラ使用告白、喉の手術、ダイアナ元皇太子妃の追悼、両性愛者カミングアウト、大英帝国勲章の受章…と話題には事欠かない。しかし変わらなかったことは、良くも悪くも英国ポップ界の関心を集めるトップ・スターという立場である。純粋に音楽的にも、またゴシップなどの騒動においても、ポップ・スター、エルトン・ジョンは相変わらず、大きなプレセンスをもって存在し続けてきた。

 そんな中、本盤『ソングス・フロム・ザ・ウェスト・コースト(Songs from the West Coast)』は、エルトンがそんな自分自身を見つめ直し、ポップ・ミュージックの牽引者としての自己の立場を再認識して2001年にリリースしたアルバムである。エルトン・ジョンは実に多作家であるため、初めてアルバムを聴く人にとっては、いったいどこから手をつけたらよいのかわからないほど厄介な数の作品がある(したがって筆者も全部聴いたわけではない)。しかし、ランドマークとなるような作品をいくつか選びだすことは可能で、それらがすなわち彼の代表作として位置づけられるものとなる。上述のサード・アルバムもその1枚だし、名作と呼ばれる『黄昏のレンガ路(Goodbye Yellow Brick Road)』や『キャプテン・ファンタスティック』などもその1つだろう。そして、比較的新しいところでの1枚が本盤『ソングス・フロム・ザ・ウェスト・コースト』と言ってよいと思う。

 さて、本盤の内容であるが、全体的なトーンは表題の“西海岸”というイメージに反して決して明るくない。どちらかと言えば内省的な曲も含まれ、その意味では、70年代前半の雰囲気に近い。エルトン自身、このアルバムを“エルトン・ジョンらしく”仕上げたかったとのことで、その“エルトンらしさ”とは、華々しくポップ・シーンの先頭に立っていた70年代をイメージしたものだったのだろう。ちなみに、ゲスト陣も多彩で、例えば、スティーヴィー・ワンダー(2.、ハーモニカ)やビリー・プレストン(7.、電子オルガン)らが参加している。

 70年代の原点を目指したとはいえ、結果として出来上がった各楽曲を聴くと、似て非なる部分が耳につく。それは“貫録”によるものだと感じる。具体的には、音作りが(デジタル技術の発達によって細部がしっかり聞こえるという要素もあるけれども)70年代のものよりも緻密さ・精密さを増し、ヴォーカルには(こちらも80年代の手術を経て声質が変わっているという要素もあるものの)“自信”がみなぎったものである。おそらくこの両方の要素ともに、エルトン自身が意識したものではなく、30年という時の流れが自然にそうさせたのであり、すなわちそれはエルトン自身のポップ音楽の成熟そのものと言ってもいいのかもしれない。それゆえ、本盤は、原点に回帰した“変わらぬエルトン・ジョン”であると同時に、21世紀を迎えた“円熟のエルトン・ジョン”でもあるという、不思議な両側面を持ち合わせるアルバムに仕上がった。

 余談ながら、本盤のジャケット(CD歌詞カード)は広げるとジャケ面積の8倍分の横長写真が現れる。この大きな写真の一部がジャケット写真になっているという仕組みだ。撮影場所はRae’s Restaurantといって、西海岸ベースの映画で撮影によく利用されるスポットとのことだ。




[収録曲]


2. Dark Diamond
3. Look Ma, No Hands
4. American Triangle
5. Original Sin
6. Birds
7. I Want Love
8. The Wasteland
9. Ballad of the Boy in the Red Shoes
10. Love Her Like Me
11. Mansfield
12. This Train Don't Stop There Anymore







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Last updated  2010年05月22日 03時35分52秒 コメントを書く
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